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安倍晋三元総理の国葬がいよいよ明日に近づいてきたのを機に歴代総理と比べての通信簿をつけてみたい。民主党政権のころ『歴代総理の通信簿』という本で、第1次安倍内閣について低い点数をつけた後に安倍さんにお会いしたら、「厳しいご指摘を戴き勉強させてもらってます」とか言われたほど、筆者自身はもともとの安倍支持者ではなかった。

第2次安倍内閣の初期も懐疑的だったが、1年たったあたりから評価を変えた。7年8カ月の業績を採点すれば、外交・防衛は想定外の大成功を収め120点。一方、内政は75点とした。今回はその理由を論じてみたい。

外交とは対照的、今ひとつだった内政

2018年G7サミットで話題になった一コマ。各国首脳の「真ん中」にいた安倍外交の象徴的シーンに(提供:GERMAN FEDERAL GOVERNMENT/UPI/アフロ)

外交の功績は戦後の歴代首相の中でも際立っている。気難しいオバマ、トランプ両大統領と世界の首脳のなかで最高レベルの信頼関係だっただけでも凄い。中国に対抗するためインドを味方に付けて価値観外交を展開し、ヨーロッパ諸国と経済連携協定を結び軍事協力まで確立した。

一方、プーチンや習近平とも個人的信頼関係は堅固で、21世紀のビスマルク的な存在だった。追悼本である「安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか」(ワニブックス)には、「地球儀を俯瞰した世界最高の政治家」という副題を付けた。

ところが、それに対し内政は、いまひとつだ。6回連続で国政選挙に大勝して政局を安定させ、経済も雇用は大幅に改善、女性の機会均等でも前進があったと世界では評価されている。世界でもまれなことに、保守政権でありながら、若年層の支持が圧倒的だったことは、既得権益に切り込んで、宿痾だった世代間格差の解消に一定の成果を上げた結果だ。

新型コロナ対策も、ワクチンが登場していなかったなかで、バランスの取れた手腕で、状況をよくコントロールした。アベノマスク配布がもたついたことが批判されたが、あれはパニックを避けるためは“精神安定剤”程度の話をメディアが騒ぎすぎだった。

“モリカケ桜”を野党が延々と追及したが、これまでの内閣のスキャンダルと比べて桁違いの些事で、いかに清廉な内閣だったかの証明だ。なにしろ、安倍さんの人生は順風満帆で、私的にも政治的にも資金を必要としなかったからだ。白黒つけようがない忖度の可能性までいる問題にされたのも、追い込めそうな材料がなかったからだ。

安倍さん側の問題としては、ベテラン秘書とか支援者と距離をとったことや、昭恵夫人が正統派の賢夫人でないことはあった。総理の健康管理の中心が官僚の今井尚哉秘書官だったくらいで、よくも悪くも伝統的な永田町のトラブル回避や処理は苦手だった。

第三の矢、岩盤規制の前に不発

内政上の政策課題では、大改革に成功したとは言えない。外交防衛は政府が自分でやれば成果が出るが、経済社会の改革は国民全体が協力してくれなければ動かない。

アベノミクスの第一の矢である金融、第二の矢である財政は政府が自分でやればいいから、かなりの大胆さを示せたが、第三の矢である成長戦略が物足りなかったから、効果が不十分なカンフル剤を打つだけで終わった。

2019年5月、自民党経済成長戦略本部による申入れを受ける安倍首相(官邸サイト)

私は日本経済の問題は、「少子化」、「教育改革の遅れによる国際化やIT化に必要な人材供給不足」、「インフラ投資の内容が前向きでない」、「医療への人材と金の過剰投入」、「東京一極集中」、「人生や生活についての向上心低下」、それに「起業や転職意欲の不足」などと思っているが、安倍内閣は取り組んだものの抵抗勢力を突破はできなかった。

たとえば、大学センター試験で英語の4技能(読む・書く・話す・聞く)を重視した民間試験導入を安倍内閣で下村博文文科相は試みたが、英会話ができない英語の先生たちの抵抗で潰された。

英会話できずに日本人が国際競争でほかのアジア人に優位を占めるなんて無理で、その意味でとても大事な話である。スタート時期に少々の混乱と試行錯誤などあっとしても、いまのままにする弊害に比べたら取るに足らないのだが、高校も受験産業も変化を嫌い、萩生田文化相が「身の丈」発言で炎上させ潰されてしまった。

モリカケ問題がいずれも、文部科学省の所管から発していることは偶然でない。学術会議、科研費、さらには旧統一教会などもすべて、共産党や南北朝鮮、中国などの強い影響下にある専門家、学識経験者、業界、それに前川喜平元事務次官に代表される守旧派官僚からなる一種のマフィアが岩盤規制から利益を得ているので、それを死守したのである。

「安倍改革」を阻んだのは誰だ

いま五輪を巡るスキャンダルで安倍氏が健在だったらメスは入らなかったという頓珍漢な解説があるが、森喜朗元首相をドンとする自民党の文教族も、分け前をもらって文教マフィアの守護神の役割をつとめてきた。その意味で、まさに安倍氏が戦ってきた相手であることは、国立競技場問題での経緯からも理解できるだろう。

こうした、構造は医療、法務、社会福祉、農業などにかかる多くの問題の解決の難しさに反映されている。

官邸一強の中でも「伏魔殿」は残っていた霞が関(show999/iStock)

昨日の拙稿「秀吉が令和日本の首相ならどんな改革をやったか?」で取り上げたマイナンバーカードにしても、マイナーポイント取得率で自治体への交付金に差を付けるとか、アメで釣るやり方では遅々として進まない。単純にヨーロッパ諸国や韓国・台湾のように取得と携帯の義務づけと各種の紐付けをしてしまえばコストなく100パーセントに近い普及が実現する。

それでは、なぜそれが出来ないのかといえば、裏社会や外国とつながりのある闇の勢力の抵抗もあるし、細かい政策を遂行するために生じる仕事にまつわる天下り先や利権がなくなるから抵抗するのだ。

医療については、アビガンの認可のような特別の配慮をしてもさほどの弊害がなさそうな問題でも安倍首相の意向は歯牙にも掛けられなかった。医学界、医師会、医務技官などのマフィアの仕業だ。新型コロナ対策でまるで役に立たず、ワクチンで救われた医療は日本の癌だ。ワクチン接種に協力したというだろうが、あれは諸外国では薬剤師などの仕事だ。

また、予期せぬ晩年となった最近、安倍氏は共同親権問題で、法務省で大臣の意向も軽視する裁判所からの派遣職員の越権行為に深い関心を示していたが(関連記事)、人質司法に代表される司法も日本の恥だ。検事総長など民間から任命してすらできるのに、法相が2人のエリート検事のどちらかを選ぶことすら拒否するような「独立愚連隊化」で改革を拒んでいる。

もし、安倍氏が満を持して再登板すれば、外交だけでなく、こうした問題にも取り組んでくれたのでないかと残念でならないが、そうした話や皇室とのかかわりなど、本人から直接聞いたが封印しておいた話も以下の拙著に書いておいた。