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マツダは社運をかけて取り組んできたラージ商品群の第1弾であるSUVの「CX-60」を9月15日から国内で販売開始した。同車は欧州でも発売し、マツダ初のプラグインハイブリッドモデルを備えている。

「CX-60」(MAZDA NEWSROOMより)

戦略商品と位置付けるラージ商品群とは、マツダのこれまでのクルマは前輪駆動の小型車だったのを、直接6気筒の大型ディーゼルエンジンを縦置き、後輪駆動にして大型、高級化したSUVで、今後さらにCX-70(米国向け)、CX-80(日本、欧州向けの3列シート)、CX-90(米国向けの3列シート)を市場投入する。

マツダがラージ商品群を投入する狙いは①ドイツ車などの輸入車購入層からの新規顧客を獲得することと②同社主力製品のCX-5から乗り換えの顧客を囲い込むことにある。

「新機軸」ラージ商品群

2000年代に公募増資を2回行うなど財務的に苦境に陥ったマツダはスカイアクティブエンジンを搭載し、2012年に発売したCX-5が爆発的に売れたことなどで経営を再建した。そのポイントは大きく2つある。

まずは、経営リソースが小さいマツダは、小さな投資で車種のバリエーションを増やすために、「一括企画」と呼ばれる開発手法を導入。デザインを重視、設計の共通化やシミュレーション技術の活用による開発期間の短縮化により、コストを大幅に落としながらも商品力を向上させた。

続いて、かつては「マツダ地獄」と揶揄されたように、マツダは新車を大幅値引きして市場に押し出して、中古車の価格が低かったため、下取り額が低く、次に購入する時にもマツダ車しか買えなかった。CX-5発売の頃から、こうした販売手法を世界的に改め、商品力とブランド力を高めることで値引き販売しない手法に切り替えた。これにより、マツダ車の残価、すなわちマツダユーザーの資産価値が高まった。

特に収益源の米国市場では、販売店を大きく入れ替え、値引き販売しないディーラー網を構築することで収益性を高めた。こうした取り組みが効果を生んで、マツダは実質的に無借金経営に転じたが、ここ数年は、顧客にやや飽きられ始めた感じがあったのと、拡大しているSUV市場に他社も競争力のある新製品を投入してきたため、国内市場ではSUVの代名詞的存在だったCX-5の存在感が薄れていた。

マツダ復活の立役者だったCX-5(trangiap /iStock)

さらに、マツダのこうした企業努力を上回るペースで電動化の波が押し寄せてきたため、スカイアクティブエンジンという内燃機関の燃費効率の良さを武器にしてきたマツダの戦略が陳腐化していた。

そうした中でのラージ商品群投入であり、マツダにとっては久しぶりの新基軸になる商品と言える。CX-60には、48Vのマイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、ノーマルディーゼル、ノーマルガソリンの4機種の品揃えがあり、今回発売されたのはマイルドハイブリッドで、他機種は12月に発売開始となる。

EVだけで食えない事情

そして今回注目すべきは、このCX-60を含めたラージ商品群で中心に位置付けられるパワートレインは新開発の大型ディーゼルなのだ。EVシフトの時代にあえて抗うかのようにディーゼルで新製品を投入したのだ。しかも、これまでのスカイアクティブディーゼルは排気量が2.2リットル(4気筒)だったのを3.3リットル(6気筒)に大型化した。排気量を大型化しても、燃焼効率をよくしたことで、全トルク領域で2.2リットルに比べて燃費効率が向上。今回発売したCX-60のマイルドハイブリッドタイプの燃費は、1リットル当たり21.1キロメートルで、現行の小型SUV、CX-3よりも燃費がいいという。

マツダではスカイアクティブを開発当初から、同社の「ミスターエンジン」と言われた人見光夫シニアフェロー(元常務執行役員)が「排気量が小さいから燃費がいいとは限らない。排気量を大きくすることで燃焼効率を高められれば逆に燃費は良くなる」と盛んにアピールしていたが、それを実現化させた。

ただ、日本の自動車税は、排気量の大小で決まり、排気量が小さいほど税金は安いといった現実がある。このため、燃費効率を高めても排気量が大きくなったため、CX-60に税制上のメリットはない。今後、排気量で税が決まる現在の在り方について一石を投じる可能性はある。

世界的な潮流としてはEVシフトだが、過渡期の現在、地域によって規制の内容が違うため、それに合わせて電動化の内容やその進化のスピードも違うのが現実。こうした中で現実的な対応として、今ある市場ニーズを取り込んでいかなければ、企業は収益を上げることはできない。率直に言えば、多くの自動車メーカーはEVシフトだけでは飯が食えないのが現実である。

実質的に燃費が良いディーゼルは、過渡期の製品としては実は重要なのかもしれない。特に今後有力視されているバイオ燃料と組み合せれば、エコカーとして再認識される可能性が十分にあるだろう。

2019年5月、EV「MAZDA3」を発表するマツダの丸本明社長(写真:つのだよしお/アフロ)

マツダの今後占う試金石

さらにEVシフトの震源地である欧州のメーカーもディーゼルの開発を捨てたわけではないと聞く。フォルクスワーゲン(VW)でEVを推進してきたディース前社長が事実上解任されたことで、VWがディーゼルに回帰しているとの見方も出ている。

マツダもすでにEVのMX-30を発売しており、今後EVの車種を増やしていく計画だが、当面は収益的には内燃機関がベースのクルマが支える。

いずれにせよ、マツダは長期的な展望を視野に入れつつ、短期的には売れる商品をどう打ち出し、収益をどう確保していくかが問われているわけで、経営者の感性と胆力が問われる局面にある、と言えるだろう。このラージ商品群でマツダが成果を出せなければ、経営が再び傾くリスクをはらんでいる。

肝心の売れ行きの方はどうか。マツダはすでに6月24日から先行受注しており、9月11日までに8726台の受注があったことを明かした。月販目標台数は2000台。

この商品投入の狙いは、前述したように主にドイツ車からの顧客獲得と、SUV購入層は買い替えの際に上級グレードを求めるケースが多いために、その品揃えを強化することにある。

マツダによると、受注総台数のうち57%がCX-5などマツダ車からの乗り換え。残り43%が他社からの乗り換え。他社からの乗り換えで、最も多かった車種がトヨタのハリア、続いて同じくトヨタのアルファード、3位が日産のエクストレイルだったとのこと。

CX-5からの乗り換え客を囲い込むことに関しては一定の成果が出ているようだが、マツダの本音は他社からの乗り換えをもっと増やしたいということのようだ。