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フィアット パンダ: 貧弱な箱。容器としてのクルマ。フィアット パンダは、シンプルで気取らないクルマであった。それは機敏で、コンパクトで、可変性があり、タフである。この成功のコンセプトは、23年間有効だった。

「“本質”への還元にこそ魅力がある。優れたデザインと高い実用性、そして優れた経済性を兼ね備えてこそ、完璧と言えるのです。だから、私の愛車はフィアット パンダなんです」。レーシーなアルファクーペでもなく、先駆的なVWゴルフでもない。ジョルジェット ジウジアーロの最大の魅力はやはり最もシンプルなデザインであろう。角張った小型車であった。フィアットは「パンダ」を約450万台製造し、さらにシートのライセンス品や模造品も数台製造した。エンジンは2気筒、4気筒が多く、いずれも30~55馬力、そして4輪駆動のものがあった。このフィアットの偉大な車は、23年間ほとんど変わることなく作られ続けたので、あらゆる街角に止まっていて、しかも安かった。「パンダ」がいかに独創的であるかは、忘れられがちである。

ミニマリズムのマイルストーン: フィアット パンダ

今日、運転してみて感じることは、クルマの運転がこんなに気楽なのかということである。ましてや、へこみや錆びがあるおんぼろ車を、クラシックカーやビンテージカーだと思う人はいないだろう。安いプラスチックは日光に当たると目の前で劣化し、薄い板金は6回の冬を越せないので、30歳を迎えたものはほとんどなかった。「パンダ」はもともと、やかんのような、モーターだけの消費財だったのだ。壊れている?なるほど、そういうこともあるだろう。新品を購入する。シンプルで機能的なものが、今では原始的で後進的と思われがちだ。新しいスモールカーは、そのシンプルな成り立ちを隠している。「ミニ」はコンパクトカーの先駆けであり、ギミックに彩られた無分別なライフスタイルの新しい形である。

クラシックカー: ルノー4、シトロエン2CV、フィアット500

今の「フィアット500」でも、人々のクルマとライフスタイルを同時に実現しているか?現在のモデルは、レトロチックで実用性のないものでしかない。しかしジウジアーロは、そんなことは絶対にしない。1970年代初頭、彼が「ティーポ ゼロ」プロジェクトの最初のスケッチを紙に描いたとき、それはフィアット車のすべてを象徴するものだった。手ごろな価格のモビリティ、4人と少しの荷物用のスペース、屋根、運転の楽しさのかけら。瀬戸際まで追い込まれ、デザインも古くなった「500」の後継車、「フィアット126」の後継車が必要だったのだ。「シトロエン2CV」や「ルノー4」など、最もシンプルな車種が喜ばれていることをトリノで公然と認めたのだ。

含まれるもの: ベッド

ジョルジェット ジウジアーロは、このアイデアを考え抜き、車輪の上の空間として魅力的なベーシックカーに行き着いたのである。彼は、「パンダ」をコンテナとしてデザインした。窓も表面も平らで、内装も塗装された滑らかな板金を多用し、安く生産することができたのだ。洗濯できる布製のカバーが付いた、驚くほど快適なスチール製の筒型家具は、デザイナーが別荘のバルコニーにデッキチェアを置くというアイデアから思いついたものだ。後席のベンチはハンモックとして固定でき、子どもにも安心だ。ベンチを取り外すと、「パンダ」は小さなエステートカーになる。フラットにすると、座席の風景が日光浴の芝生になり、ヘッドレストがクッションになるという、ベーシックなクルマとしてはものすごく勇気のいることをやってのけたのだった。

誠実な広告スローガン: The Great Box(偉大なる箱)

ダッシュボードの代わりに靴箱サイズのインストルメントボックスがあり、グローブボックスの代わりに、灰皿が車幅いっぱいに移動できる溝が備わっている。賢いけれども、ブリキの箱でもある。だから、「偉大なる箱(The Great Box)」という宣伝文句は正直だった。リアのリーフスプリングリジットアクスルや、100万回以上試行錯誤したエンジン素材は、いかに小さな箱車を鋭く計算していたかを明らかにしていたのである。初期の「パンダ45」は、「フィアット127」のプッシュロッドエンジンを履かせる必要があった。後にスリム化された「パンダ34」は、「フィアット850」のエンジンを搭載していた。

無頼派

しかし、どちらのバージョンも、イタリアの小型車の特徴であるさりげないスポーティさを備えている一方で、仕上げが粗く、安っぽい作りであることも事実だった。「パンダ」が最も純粋な、つまり最も縮小された形になったのは、本国でのことである。「パンダ30」では、「フィアット126バンビーノ」の空冷650cc 2気筒エンジンが、700kgのコンパクトカーと格闘することになったのである。そのため、安価な「R4 GTL」や、高価なトップドッグの「VWポロ」や「フォード フィエスタ」に対抗するには、あまりにも魅力に欠ける。しかしそれでも1980年、フィアットはすでに「パンダ」のシンプルな美しさに改良の余地がないことを知っていたかのように、その後20年間、大規模な近代化対策は施されていない。

「フィアット500」の時代から、フィアットからのライセンス生産許可を得ていたオーストリアのメーカー、シュタイヤープフは、廉価な全輪駆動車の開発をフィアットより許された。プラス5cmの地上高、冬用タイヤ、ランチア製エンジンがその差を生んだ。1986年、初代「パンダ」が誕生して10年、フィアットはあえてデリケートなフェイスリフトを施した。あくまでもレタッチであり、元のデザインがすべての物差しであることに変わりはない。ジョルジェット ジウジアーロは、「タイムレスデザインは、余分な装飾を排除するものである」と知っていたのだ。

ヒストリー

【フィアット パンダの歴史】
1976年: フィアット126の後継車として「ゼロ」プロジェクトを開始。
1980年: 空冷2気筒(650cc、30馬力)、水冷4気筒(847cc、34馬力、903cc、45馬力)のパンダ(タイプ141)をデビューさせる。
1982年: 5速ギアボックス搭載の「パンダ スーパー」。
1983年: パンダ4×4(965cc、48馬力)、セレクタブル4輪駆動。
1985年: VWによる買収後、スペインのセアト社でのパンダのライセンス生産が終了、シート マルベラがデビュー。
1986年: プラスチックグリル、新しいシート、コイルスプリング式リアアクスル、FIRE製OHCエンジン(769cc、34馬力、999cc、44馬力)と4気筒ディーゼル(1301cc、37馬力)で最初のフェイスリフトを敢行。
1989年: パンダ1000CL(フューエルインジェクション、レギュレーテッドキャタリックコンバーター搭載)。
1991年: パンダ1100セレクタi.e.(1108cm、50馬力)、無段変速機搭載。
1994年: フィアット900i.e.(899cc、39馬力)。
2001年: パンダ1.1ホビー(1108cc、54馬力)、5速ギアボックス、マルチポイント噴射、電動ウインドウ。
2003年: パンダ4(129,087台)、パンダ4×4(325,271台)を最後に生産終了。新型「パンダ」発売(最初はジンゴと呼ばれていたが、発売直前で、パンダと呼ばれることとなった、いわくつきのモデル)。

テクニカルデータ: フィアット パンダ45
• エンジン: 直列4気筒、フロント横置き、2バルブ/シリンダー、カムシャフトとタイミングチェーンで作動 • ウェバーICEVダウンドラフトキャブレター • 排気量: 903cc • 出力: 45PS@5600rpm • 最大トルク: 64Nm@3000rpm • 4/5速ギアボックス • 前輪駆動 • ストラット式独立フロントサスペンション、縦型リーフスプリング式リジッドリアアクスル • タイヤ/ホイール: 145/70 SR 13 4 x 13″ • ホイールベース: 2160mm • 全長/全幅/全高: 3380/1460/1445mm • 乾燥重量: 700kg • 0-100km/h加速: 19秒 • 最高速度: 140km/h • 燃費: 12.5km/ℓ • 価格(1980当時): 9,390マルク(約70万円)

プラスとマイナス

今日の過密な都心部の危機的状況において、「パンダ」はその強みを発揮している。機敏で、コンパクトで、可変性があり、タフである。さらに、中古車市場で1,000ユーロ(約15万円)前後という驚異的な低価格のエントリープライス、安価なメンテナンス、低い固定費も魅力だ。そんな点で、「パンダ」はまさにベーシックモデルの老舗といえるだろう。高速道路では、ネイキッドボックスのガラガラ音、エンジン音、甌穴がほとんどフィルターなしで乗員に浸透してくる。そんな「パンダ」の最大の敵はサビだ。

市場の状況

整備された個体は少なくなってきているので、良い個体を見つけるのは難しい状況が続く。「パンダ」の後期型は出回っているが、1980年から86年のオリジナルモデルで保存に値するコンディションのものは、戦前のクラシックカーよりも希少だ。中古のキャッシュモデルはほぼ無料で、整備された4×4タイプのみ高価(5,000ユーロ=約75万円)。そんな価格はもはや底を打ったのだろう。しかし「パンダ」は独創的で趣のあるモデルだ。

補修部品

新しい薄い板金や、多くのメカの交換は簡単にできる。例えば、ヤングタイマーの典型的な問題である表皮のファブリックの在庫切れなど、初期に製造された車にはもう手に入らない部品がある。また、一部の特別なシリーズやごく初期のモデルについては、装備の詳細を調べるのが困難な場合がある。他の「パンダ」のドライバーは幸運で、アクセサリーショップやインターネット、車のリサイクルショップで代用品を見つけることができる。パーツなどで本当に高価なものはない。

推薦の言葉

常に最高の「パンダ」を買う – 大金を投じての過剰なレストアは決して価値がないが、特に、初期型のきれいなモデルは、間違いなく名機といえるだろう。また、走りの楽しさとマイルドなオフロード走行を両立させた後期4WD車もおすすめだ。頭上のダブルフォールディングルーフは、ちょっとしたオープンカー気分をもたらし、心を温めてくれる。ドイツの中古車市場にない場合には、スイス、そしてもちろんイタリアにも目を向けてみる価値はある。

【ABJのコメント】
僕が個人的にフィアットの歴史上、一番好きで、一番欲しいのが、この「パンダ」である。もちろんジンゴという名前で出るはずだった車を、強引に「パンダ」と改名して出した2代目ではなく、絶対に初代の、中でも一番最初のグリルが非対称で、全部が棚になっているダッシュボードに取り付けられたメーターがシンプルで、シートが簡単に取り外せて、とにかくジョルジェット ジウジアーロの描いた最初のスケッチに一番近い、あの最初のヤツ、あれが大好きだ。

本当に残念ながら自分で「パンダ」を所有したことはなかったが、大親友の同級生が所有していたから、随分乗せてもらったし、そのあとにも別の車輛に試乗させていただいたことが何回もあり、結構「パンダ」経験は数多いと自分でも思っている。ではそんな「パンダ」はどんな車かというと、シンプルで軽く、お洒落で実用的で、運転して楽しいヤツ、というすべて誉め言葉になってしまうような小さな実用車だった。ほめてばかりだから、難点をあげておくと、信頼性がやはりちょっと心配なことと、今の世の中では安全性が比較にならないほどのレベルであること、だろうか。

しかしそんないちゃもんを付ける気にはどうしてもなれないほど、今見ても「パンダ」は新鮮で魅力に溢れている。少しも旧くないどころか、このまま出してもらっても世界でもっとも魅力的な2ボックスカーに選ばれるほどのレベルの高いデザインではないだろうか! そう考えると街のいたるところに、この「パンダ」が溢れていたイタリアとはなんとすごいところかと思ってしまうし、それからしたら今の自動車の描く町並みは凡庸でつまらなくなってしまったともいえる。

初代「パンダ」、ぜひぜひBEVで蘇ってくれたらうれしいのだが・・・。(KO)

Text: Jan-Henrik Muche
加筆: 大林晃平
Photo: autobild.de