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 スイスのバッテリー電気(BEV)トラックメーカーで、2021年にボルボグループに買収されたデザインヴェルク(DW)は2022年11月15日、バッテリーの総容量が1000kWh(=メガワット時)を超える世界初の電動トラクタを発表した。

 メガワット超えを達成したのはボルボ製トラックをベースとするDWの「ハイキャブ」と「ミッドキャブ」シリーズの6*2トラクタで、搭載するバッテリーの総容量は1017kWh。このうち走行において利用可能なのは864kWhとなる(バッテリー保護のため)。

 DW社はBEVトラックによる無充電での走行距離でギネス世界記録を持つ「フーツリカム」の親会社だが、今年、傘下のブランドをDWに統合していた。トラクタ単体で700km以上、フルロードでも576kmの航続距離を持つメガワット超えのBEVトラクタは、2023年末までにスイス市場に投入される予定だ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Designwerk Technologies AG


BEVトラクタで初めての「メガワット」超え

 電動モビリティの専門企業で、ボルボグループの子会社であるスイスのデザインヴェルクは、メガワット時=1000kWh容量を超えるバッテリーを完全電動のセミトレーラけん引車に搭載して発売する、世界初の企業となった。

 2022年11月15日に発表された商用車業界の新しいマイルストーンにより、長距離輸送や重量物輸送といった分野は、もはやディーゼル車や水素燃料電池(および水素エンジン)車だけの世界ではなくなった。

 ディーゼル、水素燃料、合成燃料などと比較しても電動パワートレーンの効率性は際立っている。エネルギー価格が高騰する昨今、これは明らかな利点だ。

 1メガワット時のバッテリーは、集配送や長距離輸送を行なう運送会社にとっては魅力的だ。これに加えて、エミッションフリーとか、行政による補助金、運用コストを含めた長期でのコスト効率など、BEVトラックが顧客企業を引き付ける基準はたくさんある。

世界記録を持つ企業の最新トラック

大型車のバッテリーはついにメガワット超え! ボルボ子会社が世界初の1000kWhオーバーの電動トラクタを発表
無充電の走行距離でギネス世界記録に認定されたDW傘下フーツリカムのトラック

 モビリティにおける変革は、公道を走る商用車の世界で特に加速している。デザインヴェルクは商用車の全体的なシステムプロバイダーであり、かつて傘下のブランドでギネス世界記録を樹立し、電気駆動トラックの可能性を推し拡げた経験を持つ(今年、ブランドをデザインヴェルク=DWに統一した)。

 デザインヴェルクの最新のトラックが1000kWh容量を超えるバッテリーを備えたトラクタユニットだ。同社によると、これまでBEVトラクタで「メガワット時」の壁を超えたメーカーは他にないとのこと。

 1000kWhという大容量の内、実際の運行で使うのは864kWhとなる。バッテリーは過放電により寿命が短くなる。総容量に対して使用しない15%はバッテリーライフを延ばすためだ。

 このバッテリーにより連結総重量(GCW)42トンのフルロードで576kmの航続距離を確保した。積み荷の重量やルートの特性によっては640kmまでは充分に可能な輸送距離となる。トラクタ単体の場合は700km以上を無充電で走行する。

 デザインヴェルクの創業者で同社役員のトビアス・ヴュルサー氏はこれを次のような一言で表現する。

 「大容量のバッテリーは電動トラックのエネルギー効率をさらに高めます。私たちの新しいBEVトラックは同じクラスのディーゼル車よりエネルギーの使用量が52%少なくなっています」。

長距離輸送や重量物輸送も可能に

 もちろんBEVトラックの利点はエネルギー効率の高さだけではない。スイスの現在の電力ミックスで計算すると、トラックによるCO2排出量を年間で120トン、車両ライフを通じて74%削減する。

 何よりも、集配送、長距離輸送、重量物輸送、特殊輸送などの運送業に従事する会社にとって、デザインヴェルクの車両は従来のディーゼル車をそのまま代替できるということが最大の利点となる。

 ただし、スペースの余裕が少ないトラクタでは、ホイールベースとキャブの後ろにバッテリーを搭載する特殊なシステムのため、ボルボのベース車よりシャシーが1メートルほど長くなっている。このため実際の運用はスイスやスカンジナビア半島の北欧諸国など(車両の全長規制がとても緩い)を想定した車両といえる。

 ちなみにバッテリーの重量だけで5.62トンあり、普通充電だと満充電まで約22時間と、ほぼ丸1日を要する。150kWの急速充電でも80%充電に約4時間、シフト間に行なうことを想定するのは350kWの充電で、80%充電が約100分だ。

 NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)リチウムイオン電池を採用する高圧バッテリーは、DWが自社で製造する独自のシステムで、競合と比べて特徴的なのはモジュラー設計とエネルギー密度の高い省スペース設計だ。

 こうした特徴によりデザインヴェルクは様々な商用車の電動化を可能としている(DWはベンツ車の電動化も行なっている)。

 GCW40トンクラスのトラックはクラッチの断接やシフトのない独自の1段トランスミッションを備え、500kW(680hp)という高馬力を発揮する。車型はミッドキャブおよびハイキャブの6*2トラクタ。

 最初の車両は2023年末までにスイスで見ることができるだろう(ただしとても静かなので、聞くことは難しいかもしれない)。

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