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 自動運転には衛星からの電波と同様に精密な地図情報が不可欠。その基盤となる高精度3次元地図データを作っている「ダイナミックマップ基盤株式会社」の社外取締役が志賀俊之さん。自動運転で世界をリードするには何が必要か? プロパイロット2.0搭載の日産ARIYAでドライブしながら話を伺った

TEXT/国沢光宏 PHOTO/成田颯一

【画像ギャラリー】いま「クルマの未来」の中で最もわくわくする領域のひとつが「三次元地図」!! その最前線がここだ!!(8枚)画像ギャラリー

■いまクルマ界で最も話題に上がる「未来」のテーマ

 自動車業界にはさまざまな「こんな未来になったらいいな!」という理想の姿がいくつもある。直近で最も多い頻度で話題に上がるテーマといえば、やはり「ADAS」(先進運転支援システム/Advanced Driver-Assistance Systems)だと思う。

 具体的にいうと、自動ブレーキなど「事故を未然に防ぐための技術」&「渋滞や高速道路での単純な運転状況での運転アシスト」などをさす。

 相当のクルマ好きでも渋滞や高速道路の一定速度の巡航は飽きるし、うっかりミスによる事故だって起きる可能性大。脳や心臓の疾患により人事不省となることだってありうる。信頼性の高いADASさえあれば、相当の確率で事故を防げるし、渋滞時のドライブだって苦行じゃなくなるだろう。

志賀俊之さん(写真右)は元日産の最高執行責任者(COO)で、現在は株式会社INCJの代表取締役会長(CEO)。INCJは官民出資の投資ファンド、産業革新機構から新設され投資事業を担っている。ダイナミックマップ基盤株式会社では社外取締役を務め、悲惨な交通事故削減のため、高精度3次元地図データを普及させることが重要と考えている

 ADASのシステムにはいくつかのタイプがある。最も簡単に構築しようとすれば、カメラだけでいい。人間も運転している時に得られる情報は基本的に目。実際、カメラだけでADASを実現しているメーカーもあるほど。

 一方、カメラだけだとロバスト性(さまざまな条件下での強さ)に問題が出てきてしまう。例えば信号。カメラでも信号は検出できる。ただそれが本当に信号かどうか不明。カメラだけだと見間違える可能性がある。

 そんな時に有効なのが「精密な地図」。ADASの情報のなかに地図とGPSを組み込んでおくことで、「前方に見えているのは信号だ」と確定できる。もしも赤信号なのに速度を出して接近していればブレーキをかければいい!

 はたまた、運転中に急性疾患で意識を失ったような場合、天候が雨などカメラだけだと、視界不良ならいかんともしがたい。地図データと位置情報を使うことで、車線をキープしながら安全に停止し事故を未然に防ぐことも可能になる。ADASにとって精密な地図情報は不可欠だと私は考えてます。

 そんな高精度地図を作っているのが、今回取材した『ダイナミックマップ基盤株式会社』という企業。まったく知らなかったのだけれど、元日産COO(代表取締役)だった志賀さんが社外取締役になっている。突如志賀さんから連絡あって「日本の将来にとって大切な仕事をしているので取材に来ませんか?」。日本の将来といえば私も大好物! 早速取材に伺った。

自動運転でクルマが読み込む地図をダイナミックマップという。そのなかで一番下の階層の、車線や路肩縁、建物といった実在する情報が高精度3次元地図データ。それにたいして秒単位で変わる歩行者や車両の情報、分単位で変わる事故や渋滞情報、時間単位で変わる交通規制や工事情報を乗せていくとダイナミックマップとなる

■車載カメラだけの解析では無理!!

国沢光宏氏(以下、国沢):大変ご無沙汰しております。2年くらい前に日本の将来についての熱弁をお聞きして以来です。

志賀俊之氏(以下、志賀):突然連絡して申し訳ありません。今携わっている事業はとても興味深いのでお声がけさせてもらいました。まず現在弊社が提供している精密地図を使っている日産ARIYAで走りながら話をしましょう。

国沢:精密地図についてはスカイラインがプロパイロット2.0を搭載した2019年に概要を聞きました。道路のアウトラインだけでなく路面の傾きまでデータに入っていることや、衛星の精密な電波でcm単位の位置まで判別出来ると知って驚きました。

志賀:より信頼性の高いADSAを構築しようとすれば、カメラ単体より地図とGPSの情報を組み合わせたほうがずっと優れたシステムになると考えています。興味深いことに自動運転のベンチャーはカメラ単体でやろうとしますが、信頼性を最優先する自動車メーカーと話をすると、すべて地図&GPSです。

高精度3次元地図の作成には実走による測位が不可欠。MMS(モービルマッピングシステム)を搭載した専用車両が、搭載されたカメラやLiDAR(ライダー)などのセンサーによって、道路や地形、周辺の構造物をマッピングしていく地道な作業が行われている。高速道路と自動車専用道路の整備が終わり、2024年までには国道や主要道をカバーする予定だ

国沢:人間の場合も走り慣れた道路と初めて走る道路では安心感がまったく違います。地図&GPS情報を使うことにより、走り慣れた道と同じようになり、ほかのクルマや歩行者等の追尾により多くのリソースをさけます。

志賀:そうなんです。信号や一時停止の標識、一方通行などの判定もカメラだけの情報だと確実とは言えません。地図&GPSとマッチングさせることで、確実に信号や一方通行、一時停止標識をADAS制御に活かせることができます。

国沢:自動車メーカーで自動運転まで想定した高性能ADASの開発をやっている人に聞いたのですが、カメラからの情報を解析するだけでトランク一杯のコンピューターになるそうです。電源も大量に必要となり、電気自動車だと航続距離が3分の2になってしまうと聞いて驚きました。

志賀:いろんな意味で、カメラだけでは自動運転どころか急性の疾病に対する緊急対応もコンピューターの能力不足になってしまうと思います。

■地図は大事!! ソフトで主導権を握られるとシステムすべて入れ替えになってしまう

国沢:地図といえばGoogleも作っています。当初は自動運転で使うことを目的としていたと聞きました。

高精度3次元地図を利用すれば、豪雪地帯の除雪を自動運転で行うことも可能だ。現在は実証実験段階だが、オペレータの知見と経験をもとに行われてきたが、オペレータの高齢化対策やコスト削減の点で期待される

志賀:地図に代表される「ソフト」で主導権を握られてしまうと、システムをすべて導入しなければならなくなります。精密地図の分野は弊社が技術的にも進んでいるため、海外にも進出しています。2019年に弊社が買収した米国のUshr(アッシャー)社が、すでに北米で40万マイルの高精度地図を提供しています。

 また、さらなる海外での事業拡大を目指して、2022年春にはドイツにDMP Europeを設立、欧州ほか、グローバルでの展開を進めています。日本の技術を世界で使ってもらいたいというのが私の願いなんです。

 自動車メーカーのADASと精密地図&準天頂衛星を使った高精度GPSを組み合わせて使うことで、安全性を確保しながら、さまざまな運転支援も可能になります。今乗っているARIYAがハンズフリーで真っ直ぐ走るのも、高精度3次元地図とcm単位の精度を持つGPSのおかげです。

国沢:このシステムをしっかり作り上げることで、逆走も信号も一時停止も完全に防止できるとなれば、1日でも早く実現してほしいと思います。私も遠からず高齢者になるので志賀さん、よろしく御願いします!

志賀:私のほうが先に必要になるでしょうから(笑)、なるべく早く実現したいと思います!

【ダイナミックマップ基盤株式会社】(代表取締役社長CEO吉村修一)
自動運転や先進安全運転支援システムに欠かせない高精度3次元地図データ(HDマップ)」を、国内外の自動車メーカーおよび自動車関連企業に提供する。日本政府によるバックアップのもと、計測機器、測量、地図、自動車の国内トップ企業が一体となった「オールジャパン体制」で2016年に設立された。公共測量計画機関の認定を国土交通省より取得し、2019年に国内の高速道路と自動車専用道路 上下線計2万9205kmの整備を完了。一般道についても整備を進めている。

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投稿 自動運転に欠かせない「高精度3次元地図」とは? 元日産の志賀俊之さんに聞いてみた自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。