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 公共交通機関でのリクライニングシートのリクライニング(背もたれを倒すこと)は気を遣うケースが多い。普通車でも新幹線のようにシートピッチが広ければそれほど気にすることはないものの、LCCや高速バスではそれなりに気を遣う。本稿では高速バスでのリクライニング方式について考えてみた。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)


昼行と夜行

 昼行高速バスの場合は後ろに人がいなければ倒す、いれば倒さないか一声かけるのが通常だろうか。いずれにしてもバスが出発段階でリクライニングされているケースはほとんどない。いわゆる「オリジナルポジション(元の位置)」で乗車することにるので運行時間などのケースバイケースで考えることになろう。

かつてのエアロキング1階席の例

 夜行の場合は走行中に寝ることが前提なので、タイミングはともかく最終的にはリクライニングさせることになる。

 昼行のバスや運賃の安い4列昼行仕様で運行される夜行高速バスに比べて比較的深くリクライニングすることが多いが、深く倒れる分だけ後ろの座席では有効スペースが狭くなり、また途中停留所で乗車する際には自分の座席に入りにくいという事例もある。

 どの方式が最善かという問題は残念ながらどの事業者でも結論を見ないようだが、現状では大きく分けて3種類のタイミングや方式を採用している。

オリジナルポジション方式

 夜行なのでカーテンは最初から引いてあるものの、リクライニングはオリジナルポジションのままという事業者が最も多いのではないだろうか。

ウィラーの例

 この場合は乗客が前後の状況を判断して自分で後席に声をかけ、リクライニングさせることになる。メリットは自分のペースでリクライニングができること。デメリットは後ろに声をかけなければならず、気を遣うことだろうか。

最初からフルリクライニング方式

 一方で、営業所を出る段階ですべての座席をフルリクライニングして乗客を迎える、平成エンタープライズのVIPライナーのような例もある。この場合はすでに背もたれが倒れているので、「着席即寝る体制」だ。

最初から倒してある例

 すべての背もたれが倒れているので座席に乗り込みにくいデメリットは多少は改善されるが、乗車後に自分のペースで何かをすることは少々窮屈になる。しかし前後を気にすることなく、そのまま眠りにつけるのはこの上ないメリットだといえる。

一斉リクライニング方式

 一時期話題になったのがこの方式だ。バスが発車しあるタイミングで乗務員の掛け声のものとで一斉に乗客全員がリクライニングするという方法だ。

 この方式のメリットはいくつかの乗車停留所がある場合に、すべての乗車が終了した後に(最後の乗車停留所を出発した後に)乗務員が車内放送で一斉にリクライニングすることをお願いする。

全席倒してあるのは少数派だが…

 よって途中乗車の乗客も座席に入りやすく、後からリクライニングするという気おくれ感がない。また街中を外れ高速道路や国道等のあまり揺れずに安定した走行になってからリクライニングさせることにより、それまでの時間で必要なことができる時間的な余裕が生まれるメリットもある。

快適な高速バスのために…

 どの方式が良いのかは一概には言えないものの、4列か3列か、途中乗車地の有無、降車休憩のタイミング、出発時刻や運行時間等の条件によりとらえ方は変わるだろう。

先代はかた号エアロクイーンの例

 快適な高速バス車内の確保のためにどの方式が最適解なのか、利用者が意見を発信することも一つの手だ。もっともすべての希望を満足させることはできなくても、徐々に最大公約数を取ることはできるのではないだろうか。

 そんなことよりも、みんなが気持ちよくリクライニングできるように「倒すのが前提」な広い心を持つことができればよいのだが、世知辛い世の中ではそれがスタンダードになることは難しいのかもしれない。

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