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半導体不足の中で各社大健闘だが……2022年販売台数ランキングに見える「気になる」部分

 年末に向けて2022年の販売台数のランキングが気になる季節だ。とはいえコロナ禍、そして半導体不足などを背景に、順位はクルマの人気だけでは決まらない状況だ。むしろ納車できるクルマの台数によるところも大きい。

 とはいえ、例年通りN-BOXやヤリスが上位になることは間違いなさそうだが、これらのクルマが首位になる状況について、メーカーも手放しでは喜べない。2022年のランキングに潜む問題点について考察しよう。

文/小林敦志、写真/ベストカー編集部

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■今年もヤリスとN-BOXのトップ争い……このままN-BOXが逃げ切りか?

2022年も絶好調のホンダ N-BOX。このまま逃げ切りトップなるか?

 2022年もあとわずかといっていい時期となった。新車販売に関心の高い人たちがこの時期気になるのが、2022暦年(2022年1月から12月)締めでの、車名(通称名)別での新車販売ランキングとなるだろう。つまり、年間で最も売れたモデルはどれかということである。

 ここ数年は登録車のトヨタヤリスと軽自動車のホンダN-BOXが、暦年締めだけでなく事業年度(4月から翌年3月)締めでの年間販売台数や、上半期(暦年なら1~6月、事業年度なら4~9月)など節目の販売台数ランキングではトップ争いを展開してきた。

 それでは2022暦年締め年間販売台数ではどうなるのかと、2022年1月から10月の累計販売台数をみると、ヤリスが14万4421台、N-BOXが16万7963台となっている。

 N-BOXが2カ月を残した段階で2万3542台差をつけリードしている。平時と異なり、半導体不足などで思うように車両生産ができない現状などを加味しても、このままN-BOXが逃げ切りトップとなる流れがすでに見えてきている。

 2022年は前述したように、半導体不足などで車両生産が思うようにできない日々が続いており、“何台売ったか”というより、“何台生産できたか”といったニュアンスのほうが統計結果はふさわしいかもしれない。

ホンダ N-BOXとトヨタ ヤリスの累計販売台数の推移(2022年1月〜10月)

■スズキとダイハツの熱い「軽自動車」バトル

軽自動車ブランド別ではスズキとダイハツが熱いバトルを繰り広げている。写真はスズキ スペーシアを猛追するダイハツ タント

 この“販売台数争い”は登録車より軽自動車のほうが“熱い闘い”が展開される傾向がある。軽自動車における車名別販売台数ではN-BOXが大差をつけ単月でもほぼトップを維持している。

 ただし、ブランド別ではスズキとダイハツが熱いバトルを日々展開しているのである。単純に商用車も含んだ総合ランキングではダイハツがトップとなるケースがほとんどなのだが、“軽四輪乗用車”に限ってみるとスズキの強さが目立っている。

 2022事業年度(2022年4月から9月)における各単月での軽乗用車販売台数をみると、スズキが一貫してダイハツを上回っている。

スズキとダイハツの軽自動車販売台数推移(2022年度上半期)

 それでもいままでは商用車で台数を積み増しして総台数ではダイハツ常勝というパターンがお約束だったのだが、2022事業年度上半期をみると、総台数でも5、6、8月について、ダイハツはスズキに負けている。

 それでも2022年1月から10月の累計販売台数では、2万3362台差でダイハツがトップとなっているので、ダイハツが逃げ切る形で2022暦年締めでも軽自動車年間販売台数ナンバー1ブランドとなりそうな状況となっている。

 ダイハツの軽乗用車販売がスズキに比べ勢いがいまひとつの理由は、販売中核車種となるタントの販売苦戦傾向である。2022年1月から10月までの各単月の販売台数をみると、8月までスペーシアがタントに勝っている。

スズキ スペーシアとダイハツ タントの軽自動車販売台数推移(2022年度上半期)

 しかも、“僅差で”とはいえないタントとの台数差になっている。これはスペーシアがマイルドハイブリッドという、購入検討客には“おまじない”のように効くユニット搭載車があるのに対し、タントは“よくできたクルマ”といったところ以外、“華が少ない”ことがあるとも聞いたことがある。

 また、スペーシアは派生モデルとして、言うなればSUV風ともいえる“ギア”をラインナップしており、このギアの販売台数上積み分もけっして無視できないものとなっているのが大きいようだ。

 タントも2022年10月の改良と同時にギアのライバルのような“ファンクロス”を出してきている。またタント購入者に対し5万円の購入サポートキャンペーンも展開しており、タントの販売促進を強めている。

 またブランド全体を見れば、スズキはハスラーの存在も見逃せないだろう。ハスラーに対してダイハツはタフトを用意したが、2022年1月から10月の累計販売台数ではタフトはハスラーに1万台強差をつけられている。

 ダイハツとスズキの販売台数争いはまさに“激戦”といっていいほどの接戦となっている。だからこそ、タントの失速やハスラーの活躍などが勝敗を大きく分けることになるのである。

■複雑な思いを抱く販売現場

ホンダフィットは2022年10月7日にマイチェンを受け、新グレードRSを追加するなど商品力を向上

 それでは車名別で軽自動車では常勝となるN-BOXを抱えるホンダの販売現場はさぞかし湧き上がっているかといえばそうでもない。N-BOXがほかのホンダ車を“共食い”してしまっているのである。

 例えば、フィットやフリードを見にディーラーを訪れたお客さんがいたとする。しかしN-BOXの展示車が置いてあると知名度もあるので興味を示し、人気モデルでもあるのでリセールバリューも高いことなどもあり、「こっちでいいじゃないか」ということでN-BOXに決まってしまうケースが実に多いそうだ。

 トヨタディーラーのセールスマンならば。それでも偏らないように“売り分ける”こともできるが、ホンダディーラーは伝統的ともいっていいほど、お客さんの希望を最優先にしてクルマを売ってしまう傾向が強い。

 それでも他メーカーに流れずN-BOXを買ってくれるのだからいいじゃないか、という話もあるが、軽自動車ではやはり1台当たりの利益が少なすぎる。ダイハツやスズキなど軽自動車をメインに販売する新車ディーラーでは、軽自動車販売ありきで販売体制を組む。

 だが、シビックやステップワゴン、ヴェゼルなどまでをそろえて販売することを前提としているホンダディーラーでは、幹線道路沿いに大きな店舗を構えていたりするので、軽自動車など台当たり利益の少ない車種ばかり売れていると、店舗運営も苦しいと聞いたことがある。

 いまは節電が広く叫ばれているので状況は異なるが、以前筆者が経験したところでは、夏季にホンダディーラーを訪れた時ずいぶん暑いなあと思い、トイレに行く時にエアコンの温度表示を見たら“28度”になっていて驚いたことがある。

 また冬季に訪れると「寒かったら使ってください」とひざ掛け毛布を渡されたことがある。

 利益の薄いN-BOXばかりが売れているからだけではない。ホンダだけでなく、軽自動車ユーザーのなかには納車後のアフターメンテナンスを新車ディーラーで受けない人が目立つ。例えば車検はより安い、ガソリンスタンドや格安車検専門店などを利用する人が多いのである。

 いまの新車ディーラーでは、軽自動車以外でも新車を売ったことによる利益などは限られているので、点検・整備、それに伴う物販などを強化している。そのような納車後の収益もなかなか見込めないN-BOXがよく売れるのは、見た目にはないきつい部分もあるようだ。

 事情通は「私が聞いたところでは、N-BOXをはじめ軽自動車を納車する時に、『納車後は弊社でメンテナンスを受けてもらえますか?』と聞き、その意思がないとの返事があると定期点検のお知らせなどのDM(ダイレクトメール)をコスト削減のために送らないという店舗もあると聞いたことがあります」と話してくれた。

■軽自動車は「禁断の果実」

2023年には新型が登場するトヨタアルファード

 支払総額で600万円も珍しくない、高収益車種となるアルファードを年間10万台ほど販売するトヨタとて、その系列ディーラーの経営はけっして楽なわけではない。軽自動車は薄利多売なだけでなく、販売後のアフターメンテナンスも登録車ほど期待できない部分もある。

 登録車しかやってこなかったメーカーが軽自動車の扱いを始める時には、“禁断の果実に手を出すようなもの”とも過去にはいわれた(それもありトヨタはいまでも慎重な姿勢を見せている)。

 売りやすいので現場のセールスマンも軽自動車ばかりを売るようになるとも聞き、店舗の客層や雰囲気も現役子育て世代などが目立つなど大きく変わり、大型高級車に乗っていた富裕ユーザー層が他ブランドへ流出するといったこともあったようだ。

 何事もバランスが大切とはいうが、新車販売でもバランスを取ることは当然大切なのである。

 ただし、N-BOXがほかの軽自動車と少し違うのは“リピーター”が目立つこと。見た目以外、スペックとしては大きく変わらないのが軽自動車。そのため、登録車へ移行するケースは少ないようだが、メーカーを渡り歩いて乗り継ぐ人も目立つようだ。

 そのなかで、N-BOXからN-BOXへと乗り継ぐ人が目立つそうである。そのように乗り継ぐ人は逆にディーラーでメンテナンスを受ける傾向が強いようだが、全体の入庫率となると登録車よりは期待できないようである。

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