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「保険修理過剰請求」ビッグモーターと損保大手3社に何が起こっているのか

事件が発覚したのは今年3月頃だ。損保協会は商売柄、全国の都道府県警察と安全対策面で情報共有している。県警とともに各地域に「損害保険防犯対策協議会(以下、協議会)」を設置している。ある地域の協議会に対してビッグモーターの内情を知る人から「過剰請求について通報があった」(前出・事情通)とされる。この通報を聞いて損保業界は慌てた。なお、編集部では通報先を把握しているが、告発者保護の観点からここでの記載は避ける。

ビッグモーターと取引が大きかったのは、シェア順に損害保険ジャパン(東京都新宿区・白川儀一社長、以下損保ジャパン)、三井住友海上火災保険(東京都千代田区・舩曳真一郎社長、以下三井住友)、東京海上日動火災保険(東京都千代田区・広瀬伸一社長、以下東京海上)の3社だ。ビッグモーターのサイトではお店ごとの「推奨保険会社」が記されている。一覧表の通りだが、損保ジャパンのシェアは圧倒的だ。

ちなみに自動車保険の正味収入保険料(令和2年度)からみた上位8社は以下の通り。①東京海上日動②損保ジャパン③三井住友④あいおいニッセイ同和損害保険⑤日新火災海上保険⑥AIG損害保険⑦共栄火災海上保険⑧セコム損害保険の順となっている。ビッグモーターの公式サイトでは、セコム損保を除く上位7社といずれも取引があるとしている。なお、日本損害保険協会(損保協会)の現在の会長会社は損保ジャパンだ。

買取、販売ともに扱い車両数の多いビッグモーターだけに、損害保険契約では国内でも屈指の大型代理店と言って良い。加えて同社はエリアごとに「民間車検工場と板金工場を自社内製で抱えている」(消息筋)。買取、販売だけでなく、整備や事故修理でも儲ける業態を構築している。

サンプル調査で不正発覚

通報から3カ月後、事態は動いた。6月に入ってビッグモーターと取引の多かった損保上位3社は連絡を取り合い、共同で事実の究明に着手する。各社ごとに過去1年程度遡ってサンプル調査を実施したが、いずれも水増し請求の疑いのある案件が複数確認された。平均して精査数に対して5%程度で不正についての疑惑がありそうだ。

サンプル調査をもとに3社はビッグモーターに対して過剰請求の有無を質した。ビッグモーター側は「見積もりに誤りがあった」ことを「あっさりと認めた」(損保業界に詳しい人)という。

2022年9月には弁護士とリサーチ会社らによる第三者委員会が立ち上げられた。ビッグモーター側も了承の上、調査が始まった。

果たして自動車保険を利用した事故修理過剰請求は、現場や保険請求部署の計上ミスなのか。それとも組織ぐるみの確信犯なのだろうか。3社とも「全容解明に着手した。再発防止と顧客対応を検討する」(各社広報担当者)と異口同音に説明する。

 

○三井住友

「忖度はない」

 

「調査を進めているため、詳細についてはコメントできない。調査件数、規模も大きく調査終了のメドは立っていない。当社としての問題意識は非常に高い。公正かつ厳正な支払いが重要だと考えている。怪しい見積もりはちょくちょくくる。都度チェックしている。営業担当者とアジャスターは別部署。アジャスターは自己修理が適切に行われているかをチェックする。(ビッグモーターへの)忖度はない」(広報担当者)。

 

○東京海上

「修理偽装があった」

 

「過去1年以内について改めてアジャスターが2000件程度の事故見積もりを抽出し、1カ月から1カ月半ほどをかけて600件程度を精査した。うち29件に疑義があった。実際に作業をやったかどうかを改めて確認した。すると、ボディ骨格の損傷が小さいのにフレーム修正機をかけたように装っていたり、バンパーが押されただけなのにフェンダーが損傷したと見積もってきた偽装事案などが発見された。これまでも疑義のあるものには修理途中で経過写真の提出を求めたり、アジャスターが実車検分したりして減額措置を取ったものもある。だが、実作業の有無を完全に否定はできなかった。こういった事態に至ったことで、『結果として適切に処理していなかった』ことになる。今後はユーザー目線で対応していくが、査定費の増加はユーザー負担増になるし、修理納期遅れにもつながるので現状ではなんとも言えない。『1円も無駄にしない』ことを心がけてやってきた」(広報担当者)。

 

○損保ジャパン

「人を派遣した」

 

「サンプル調査を行った。660件中38件に疑義があった。当社は自賠責と自動車保険合わせて売り上げ(契約全体)の6割を占める。7月25日から事故修理の際の入庫紹介(提携工場への誘導)を再開した。(過剰請求を)再発させない取り組みを行っている。調査は引き続き行う。ビッグモーター内に再発させない体制ができたと判断した。『品質コンプライアンス部署』を創設した。企業文化を変える。当社からビッグモーターに人も派遣している。2022年9月以降も新たな(保険引受)事案は止めている。自賠責保険の発行業務は継続している。再調査を徹底する。被害を被ったお客様がいる。損保ジャパンとビッグモーター両者で(過剰請求分について)全額返金してもらうことに合意した。全容を解明する。今後の調査を踏まえて料率算定にも影響が出ないようにする」(広報担当者)。

 

私たちの保険料

 

どうだろうか。損保大手3社とも「再発防止に努める」「調査を徹底する」「返金してもらう」とは言うのだが、記者への説明はいまいち迫力に欠ける。損保の説明でも一部触れられているが、自動車保険の保険料は加入者が支払っている。損保各社は保険料収入から損害額と事務手数料、儲けを差し引いて「適正な」利潤を確保できるよう自動車保険料を決めている。保険料は、業界で作る損害保険料率算出機構(以下、機構)が、損保が損しないように翌年の保険料率の基準を示す。

つまり損保の利益が圧縮されれば、それは加入者の保険料上げとなって私たちに直接跳ね返ってくるわけだ。強制保険の自賠責保険も同じ仕組みだが、損保各社は自動車保険で損しないようにできているのである。

過剰請求によりビッグモーターが不正な利得を得ていたことで、私たち加入者の保険料が不当に高くなっていなかったのかの疑惑が増す。損保各社には業界挙げて1円たりとも見逃すことなく過剰請求分の全額を取り返してもらわなければならない。返金分については保険料下げの形で加入者に還元してもらう必要がある。

取材は未だ途中だが、ビッグモーターにとって一番の自動車保険引受先の損保ジャパンと、三井住友、東京海上両社との間で、温度差が生じている気配だ。現状では調査終了時点まで損保各社とも代理店契約を破棄することはしていない。三井住友と東京海上は「入庫誘致」「入庫紹介」を止めている状況である。10/26発売のマガジンXでは、ビッグモーターと損保各社の間で何が起きているかを詳述するつもりだ。ご期待ください。

※本文と写真は関係ありません。

取材・文・写真/神領 貢(マガジンX編集長)

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