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もはやレヴォーグ2.4Lターボのみが一縷の望み? 日本から高性能エステートがなくなってしまった理由

 現在の日本市場ですっかり衰退してしまったのがハイパワーエンジンを搭載したステーションワゴン。ひと昔前まではレガシィツーリングワゴンを筆頭にレグナムVR-4にステージア、カルディナ、アベニール、アコードワゴンと各社からターボ&ハイパワーNAのステーションワゴンが存在した。

 しかし、現在では昨年レヴォーグに加わった2.4ターボのみという寂しい状況に。

 輸入車にはアウディRS6を筆頭にBMW M3ツーリング、ボルボV60 R-DESIGNなど選択肢は数多く残されているのに、なぜ日本車のハイパワーワゴンがなくなってしまったのか、現行レヴォーグ1.8STI Sportに乗る伊達軍曹が軽妙に解き明かす!

文/伊達軍曹、写真/SUBARU、TOYOTA、MITSUBISHI

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■一時は各社からラインナップされたハイパワーワゴンだったが……

スバル4代目レガシィツーリングワゴンGT。MT車は280sを誇る2L水平対向ターボのEJ20を搭載していた

 「ハイパワーエンジンを搭載したステーションワゴン」というジャンルも、今やすっかり衰退してしまった。

 1980年代末から1990年代にかけては、スバルレガシィツーリングワゴンのGT系を筆頭に、三菱レグナムVR-4、日産ステージアのRS FOURや260RSなどなど、ハイパワーワゴンが絶大な人気を博し、しまいにはトヨタカルディナまでが、セリカ GT-FOURと同じ260psの3S-GTE型ターボエンジンを搭載するに至った。

 だが2022年の今、「ハイパワーワゴン」と呼べる国産車は、275psの2.4Lターボを搭載するスバルレヴォーグSTI Sport Rくらいのものだ。筆者が所有する1.8Lターボのレヴォーグ STI Sportも健闘はしているが、まぁ「ハイパワーワゴン」と呼ぶには若干の無理があるだろう。

■ハイパワーステーションワゴン衰退の理由

 ではなぜ、一時は大人気となったハイパワーステーションワゴンは(ほぼ)絶滅の憂き目にあったのか?

 結論から申し上げると、RVブームの成熟に伴って進行した「細分化」と、日本の道路の「遅さ」が、国産ハイパワーワゴンを殺したのだ。

 ジャンルというのは、それが成熟するにつれて必ず細分化していく。

 1970年代後半の英国で生まれたパンクロックも、最初のうちはセックス・ピストルズを中心とする「シンプルな反逆ロック」のみであったが、そのうち「ハードコアパンク」「メロコア(メロディック・ハードコア)」などへと細分化していき、しまいには「青春パンク」という謎ジャンルも誕生するに至った。

 それと同様に、1980年代から1990年代に巻き起こった空前のスキーブームなどを背景とする「RVブーム」も、最初のうちは「パンクといえばピストルズ!」的に「RVといえばステーションワゴンかパジェロ!」というシンプルなムーブメントだった。

 そのなかで、世の中全体がまだ「スピードへの情熱」を持ち合わせていたがゆえに、国産ハイパワーワゴンが勝者となったのだ。

 だが先ほども申し上げたとおり、ジャンルというのは時とともに細分化していく。「ステーションワゴンかパジェロか」というシンプルな選択肢だった時代はいつしか終わり、「RVっつってもミニバンもSUVもあるし、その気になればSUV“風”だって選べるし」という時代へと変貌したのだ。

■日本の道路事情がハイパワーステーションワゴンと相容れなかった

三菱レグナムVR-4。こちらは最高出力こそ280sでレガシィGTと同じものの、2.5LV6ターボの威力で最大トルクはレガシィを凌ぐ37.0kgmを誇った

 そしてそうなってくると、人は気づくことになる。「……あれ? 日本じゃどうせ大した速度なんて出せないんだから、速いけど狭いハイパワーステーションワゴンより、ちょっとくらい遅くても車内を広~く使えるミニバンとかのほうが賢いんじゃね?」と。

 日本が欧州のように「高速道路の制限速度は130km/h」「国やエリアによっては速度無制限」「高速道路料金は無料、または低価格(※最近は値上がり傾向だが)」であったならば、「遠くまで速く走れること」には大いに意味と価値がある。

 そして遠くまで速く走るためには、ミニバンやらSUVやらよりも空力特性に優れるステーションワゴンを選ぶことに、意味と価値が出てくる。

 だが日本では、新東名ができるまでは100km/hという、ある意味「蚊が止まりそうな速度」しか公には出すことができなかった。そしてそのような“低速”であれば、ミニバンなどの空力特性であっても特に大きな問題は生じない。

 そうなると「モノや人をたくさん載せられるミニバンまたはSUV」を選ぶインセンティブ(報酬)は上昇するが、ある意味“狭い”ハイパワーステーションワゴンを選ぶインセンティブが低下するのは自明の理なのだ。

 いや、もちろん「それでも俺はハイパワーワゴンが好きなんじゃ! ミニバンみたいなかったるい乗り物には乗りたくないんじゃああああ!」と叫ぶ人は、時代がどう変わろうとも、いつだって一定数は存在している。

■日本の自動車ユーザーは「浮動票」

トヨタ2代目カルディナGT-T。セリカGT-FOUR譲りとなる260psの2Lターボ、3S-GTEを搭載

 だが、そういった「確固たる信念」を持っているクルマ好きの数は――残念ながら――日本人の総数から考えれば激少でしかない。大半の自動車ユーザーは国政選挙の際の「浮動票」みたいなものなので、ハイパワーワゴンが流行ればそれを買うし、ミニバンやSUVが流行ればそっちを買う。そういうものなのだ。

 冒頭付近で「RVブームの成熟に伴って進行した『細分化』と、日本の道路の『遅さ』が、国産ハイパワーワゴンを殺した」と申し上げたが、よりシンプルに言い換えるなら「浮動票が獲得できなくなったことで、国産車メーカー各社はハイパワーワゴンの開発と製造をやめた」ということになるだろう。

 だが、ここで焦点となるのは「ではなぜ、輸入車には今なおハイパワーステーションワゴンが多数存在しているのか? 国産車のそれはほぼ消滅したというのに、なんかおかしいでしょ!」ということだろうか。

■日本においての輸入車のあり方

 気持ちはわかるが、これはおかしくもなんともない話である。

 輸入車には今なお数多くのハイパワーワゴンがラインナップされ、そしてそれがけっこう売れ続けている理由は、「最初から浮動票を相手にしていない=それが好きな一部の人だけを相手にしてきたビジネスモデルだから」だ。

 もちろん、近年は輸入車の各インポーターも「浮動票頼み」な側面をかなり強めてはいる。だが、基本的には「好きな人は好き」というのが、日本における輸入車という商品の根本だ。

 そのため時代が変わろうが何が変わろうが、最新型のメルセデス製ステーションワゴンも、1990年代のS124型Eクラスステーションワゴンが一部でよく売れたのとまったく同じように、一部でよく売れるのである。

 そして、「好きな人は好き」というのは、スバル車に対しても適用できる概念である。そのため、スバルには、今となっては唯一の国産ハイパワーステーションワゴンである「レヴォーグSTI Sport R」が、かろうじて存在できているのだ。

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