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 トヨタは8月31日、総額7300億円(約56億ドル)を投じて日本とアメリカに40GWhの電池工場を作ることを発表している。当然、EV向けのバッテリーで、2024年から2026年にかけて稼働させることを明言。

 昨年12月14日にトヨタが「2030年代に350万台の電気自動車を売る」と発表した時点で、すでに今回の工場立地から規模まで概要を決めていたと思われるが、現時点での国産自動車メーカー各社のバッテリー戦略について、国沢光宏氏がその状況を一刀両断する。

本文/国沢光宏、写真/トヨタ、ベストカー編集部、AdobeStock

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■取り残された日本のBEV

2009年にリチウムイオン電池を搭載した世界初の量産型EV、i-MiEVが登場してから13年後、本格的なBEVとして今年発売されたトヨタbZ4X。スバルのソルテラは兄弟車であり、共同開発で誕生したSUVのEVだ

 世界に先駆け、リチウムイオン電池を採用した電気自動車を発売してから13年余り。残念ながら我が国の電気自動車普及率を見ると1%に届かず、伸び悩んでしまっている。

 欧州はPHVを除く純粋な電気自動車の販売比率で10%を超え始めた。米国も同3%。先進国と言われる国のなかで圧倒的に普及率少ない。このままだと2030年の二酸化炭素排出量46%減など無理!

 本腰を入れて電気自動車の販売利率を上げていかなければならないのだけれど、日本国内に否定派が多かったりする。「電気自動車化は欧米メーカーの日本車潰し戦略」と主張し、「すべてのクルマを電気自動車にすることなどできない」と強いブレーキを踏む。

 なぜ陰謀説なのか? 地球環境を守るため二酸化炭素排出量を減らすべくCAFE(企業平均燃費)はドンドン厳しくなっていく。

 否定派によれば、「日本の得意技術である熱効率の高いハイブリッドに代表されるエンジン搭載モデルが生き延びることを許したら、日本は世界最強になってしまう。そこでエンジンを禁止にして電気自動車に軸足を移した。しかし、電気自動車なんか使いモノにならないからエンジンは残る」という。

 逆に、世界が真剣に電気自動車の時代へ向かって行くとすれば、日本は追いつけるのか?

■先行していても抜かれた我が国のエネルギー戦略

かつて日本が世界をリードしていたリチウムイオン電池だが、それも今や昔の話。中国勢と韓国勢に圧倒的な差をつけられてしまった(ZETHA_WORK@AdobeStock)

 さて。現時点で日本が一番遅れている分野は電池である。こう書くと、「リチウムイオン電池は日本が開発して実用化した」とか「全固体電池で覇権を取る」と主張する人など出てくる。

 確かにリチウムイオン電池の開発&生産は日本が世界を圧倒したこともあったけれど、今や中国や韓国にまったくかなわない。液晶パネルや太陽光発電パネルと同じ状況。先行したのに後発にブチ抜かれた。

 全固体電池の開発も日本が先行していたし、直近だって特許をたくさん取っている。ただ、中国の『NIO』は全固体電池の少し手前にある「固体電池」を間もなく市販するようだ。韓国だって政府が応援団になって開発している。

 リチウムイオン電池の場合、日本が世界に先行してから抜かれた。全固体電池は出た時に並ばれ、物量とコストで抜かれちゃう予感しかない。

■技術はあるのに……政府の外交面で差がついている?

充電器が日本各地で設置されているとはいえ、国側も本気で充電インフラの整備に全力を注いでいるとは言えないのが日本の現状だ

 なぜ日本って抜かれるのか。こらもう政府の姿勢といってよい。自動車用電池を安く作ろうとしたら、大量生産しなければならない。中国の電池生産量を調べてみたら、2022年の前半だけで100GWhを余裕で超えている。電気自動車200万台分だ。

 全世界の電池生産量は2023年になると1000GWh程度だと予想されている。我が国の生産量といえば全メーカーを合わせて1GWhといったイメージ。

 こんな生産量だと量産効果など無理。ひとつの工場で20GWhくらい作らないと安くならないのだった。この流れ、液晶や太陽光発電パネルなどと同じ。だったら大量生産すればいい、と思うだろう。

 そのとおりで、日本は技術があるため大量生産できるし、コストダウンだって可能。しかし、日本政府は外交上手(笑)。日本で生産した電池を海外に輸出することができない(泣)。

■ほかの先進国の空港は充電器がズラリ! だが、羽田は5つだけ……

世界中の空港には数多くの充電器が用意されている。しかし、現在の羽田空港には5つしか設置されていないという(Surasak@AdobeStock)

 電気自動車の電池は世界どの国も「大きな利益を生む産業」という位置づけ。したがって輸入制限をかけている。日本の外交は愛想を振りまくだけなので、中国で生産した電池を日本に輸入することに関して関税なしの制限もなし。

 逆に日本で生産した電池を中国に輸出することができない。米国や欧州に輸出しようとしても関税など制限がかかり、価格競争力なし。

 したがって国内に大規模な電池工場を作ったら、日本で売るしかない。ところが、日本は安価で高性能なハイブリッドが普通に買えるし、国も本腰を入れて充電インフラを構築しない。

 いまだに羽田空港の200V普通充電器、5つしかない。先進国の空港なら充電器がズラリと並ぶ。そんなこんなで日本じゃ大量に電池作っても売れないし、輸出だってできないという八方ふさがりになる。

 自動車メーカーもわかっており、ここにきてトヨタやホンダ、日産が海外に20GWh以上の規模を持つ電池工場の建設を続々と発表している。一応、何とか海外勢に追いつける準備はしているようだ。

 ただ、魅力のある電気自動車を作れるかどうかは未知数。今のところ欧米で世界の電気自動車と真正面から戦えるモデルは存在しない。根拠のない印象ながら、少しばかり出遅れた気がします。

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