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鈴鹿から世界へ! フヂイエンヂニアリングの挑戦

 今、注目を浴びつつあるパーソナルモビリティ市場。特に2022年4月、道路交通法の改正案が可決され、これまで原付と同じ扱いであった電動キックボードについても、最高速度時速20km以下などの条件を満たせば、今改正でヘルメットが不要となった。

 これにより今後は、ますます新たなサービスが増加していくと見込める。今回は、鈴鹿サーキット近くで、電動キックボードを製作しているフヂイエンヂニアリング代表の藤井充さんへ、今後の日本での電動キックボードのあり方を聞いた。

文、写真/成田颯一

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■社員の遊びからスタートしたキックボード製作

フヂイエンヂニアリングが開発した電動キックボード「Sunameri」

 鈴鹿サーキットで有名な三重県鈴鹿市。そんな、モータスポーツの街にあるフヂイエンヂニアリングでは、電動キックボードの製造と販売を行なっている。

 もともとレース車両のパーツ製作や整備、趣味性の高い車の改造やレストア等を生業としていた藤井さんの会社が、キックボード製作をスタートするきっかけとなったのは、ある日、従業員のひとりが、スケートボードにモーターをつけBluetoothでコントロールするという遊びを始めたことだった。

 その後、社内でも便利で面白いと共感する声があり、プロトタイプの開発がスタート。改良を重ね、法律などの基準をクリアさせていったのち、2018年に誕生したのが「Sunameri」(スナメリ)だ。

 しかし、2018年の段階では世の中にはまだキックボードという物の存在が広く認知されておらず、まずはキックボードそのものを世間に広めていく活動からスタートした。

 このとき販売された「Sunameri」は、最高速度約50km/h(公道では30〜35km/hでの走行を推奨)で、航続距離は30km(Panasonicセルバッテリーは50km)を走行できる。タイヤは10インチで、他の海外メーカーと比べると大きなサイズとなっている。

 この点について藤井さんは、

「タイヤサイズは自動車の設計においても重要で、車両の走行性能を決めているのはタイヤです。ただ、持ち運びや収納のことを考えると、タイヤは小さければ小さいほど有利。

 海外製の場合、6〜8インチの外径のものがほとんどで、サーキットのパドック裏のようにフラットな場所なら問題はありません。しかし、一般道ではそうならず、自転車では影響がないような段差を走る段差でも、キックボードでは大きな影響があります。テストを重ね、現在は安全面から10インチ以上としています」と語る。

■カーボン成形技術で躍動する性能とデザイン

ハンドルに取り付けられたメーターで走行距離や速度を確認できる

 まるで小さなサーフボードのような形をしたデッキ部分には、フヂイエンヂニアリングが得意とするカーボン成形の技術を投入。多くの人のイメージする、キックボードと比べると、比較的大型で重量感を感じるかもしれない。

 一方で、乗車時は両足をしっかり乗せることができ、スピードが出てきた時には、安定感と走る面白さを体験できる。また体重移動によりデッキを傾けて方向転換をする仕様により、ユニークな乗り心地もSunameriの特徴だ。

 電動キックボード初体験だった筆者が実際に乗ってみると、曲がるのには少し訓練が必要そうだが、ブレーキの操作は自転車と同じで、ごく自然なブレーキコントロールができた。ブレーキには、前後ともディスクブレーキを採用している。

 また、ハンドルに取り付けられたメーターでは、走行距離やスピードを確認できた。駅前に出かける時などちょっとした近所に出かけるのはもちろん、ワンタッチで折り畳みができるので、トランクに積んでドライブ先で使うなどといった使い方もできるのではないだろか。

 そんなフヂイエンヂニアリングでは、この夏新たに電動パーソナルモビリティ「PUFFIN」(パフィン)を発表しクラウドファンディングを行なった。

 「Sunameri」は、藤井さんがエンジニアとして好き放題の思いを詰め込んだ一方で、「PUFFIN」は企画段階から女性が欲しくなるような1台にしたいという意図があるそうだ。

 明るいカラーリングと丸みを帯びた特徴的なデザインは、定番化したキックボードの形にはないユニークな仕上がりとなっている。こちらも普通免許でナンバーを付けての公道走行が可能。ミニカーとしての青色ナンバー登録が必要だ。

■今後、キックボードは日本で普及するのか?

2022夏に発表された新たな電動パーソナルモビリティ「PUFFIN」(パフィン)

 電動キックボードシェアリングサービスをスタートした企業、「LUUP」の影響もあり、都内では電動キックボードを見かけることも増えてきた。

 ここまで、実証実験と法改正、そしてサービスの誕生によって、電動キックボードの利用者が増えて身近になる一方で、藤井さんは今後の課題や問題点をこう指摘している。

 「海外の都市部では、規制を強める都市もあります。利便性が高い一方で、日本の道路事情においては、ひとり乗りのモビリティに対して厳しい環境があるので、現時点で海外のように爆発的な普及は難しいのではないかという予想です。

 ただ今後、専用道路の整備やパーソナルモビリティに対しての優しい環境作りに、国が舵を切った場合は変わってくるとは思います。サービス提供者側だけの頑張りだけでなく、乗る人の安全教育なども環境の整備と同時に拡充していくことが必要です」。

 課題が指摘される一方で、自転車とバイクの間のちょうどいい乗り物でもあり非常に便利な移動手段には違いない。数年後には私たちが街中で見かける機会も多くなるかもしれない、キックボードをはじめとしたパーソナルモビリティの秘めた可能性には、まだまだ発展が期待できそうだ。

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