これが新型フォード マスタングのラインナップにおけるダークホースだ。新鮮なデザイン、デジタルインテリア、改良型5.0リッターV8を搭載し、フォードはマスタングを再出発させる。トラックモデルも発表された。
先日、フォードが「マスタング」を車名に冠した電気自動車SUVを発売し大きな話題となった。そして今、”本物内燃機関”の「フォード マスタング」が次のラウンドに突入する。まだまだV8のままでいい、さらにもう少しパワーアップしてもいい。
2023年晩夏からは、ドイツのディーラーでも新型「マスタング」がクーペとコンバーチブルで販売されるはずだ。新型「マスタング」の価格は未定だが、現行モデルでも少なくとも55,000ユーロ(約770万円)が必要だ。だから当然ながら、新型マスタングでは、わずかな追加料金が発生するはずだ。
デザイン: 新エレメントと大型エアインテークを採用
さすがにクラシックスポーツカーのデザインは根本的には変わっていない。フォードは、「マスタング」イメージを残しつつ、電気自動車SUV「マスタング マッハE」の要素を採り入れてアップデートしている。グリルは大きくなり、ヘッドライトは上側で一列に並んでいる。
サイドエアインテークは小さなスリットから大きな開口部へと拡大し、フォグランプはエアインテークから省略された。リアでは、黒のソリッドな面をなくし、3分割されたテールランプの形状を維持したまま、わずかに手を加えただけである部分も特に目立つ。マスタング7号車の4本出しエキゾーストシステムには、フラップコントロールも装備され、よりスロートなサウンドを実現している。
インテリア: 横長2画面表示のデジタル化
ステアリングホイールの後ろにある12.4インチのデジタルコックピットは、個別に設定が可能で、ドライバーの方に傾斜した13.2インチのインフォテインメントディスプレイとスムーズに融合している。新型「マスタング」には、操作性を重視した最新の「Ford SYNC 4」システムが搭載されている。
エンジンをかけると、ダッシュボードユニットが「マスタング マッハE」と同じように、銅色に黒のエレメントでライトアップされ演出される。ディスプレイや室内照明の色は自由に調整可能だ。ただし、ディスプレイに表示される情報は、もちろん走行モードによって異なる。
画面のグラフィックは、通常コンピュータゲームのレンダリングを提供しているEpic Games社の3Dソフトウェア「Unreal Engine」でビジュアライズしている。これは特に若い世代にアピールできるはずだ。
エンジン: 4気筒とV8を見直した
ボンネットの下には、ダブルエアインテークとダブルスロットルバルブを備えた新しいインテークシステムを含む改良型5リッターV8が搭載され、7代目のマッスルカーがスタートする。フォードはまだ出力を明らかにしていないものの、450馬力以上になる可能性が高い。
新しい「ドライブモード」システムは、「ノーマル」から「スポーツ」、「スムース」から「ドラッグ」まで、幅広い運転条件をカバーすることができるようにできている。効率性を高めるために、2.3リッターのエコブースト4気筒エンジンも引き続き搭載する。いつものように、「小さい」マスタングは、「GT」よりもシンプルでストレートなルックスで登場する。そのため、ボンネットにエアアウトレットはなく、リアにウィングも備わっていない。
また、「フォード マスタング」には、新設計のダイレクトステアリングと、路面状況に瞬時に適応するとされる「マグネライド」サスペンションがオプションで用意されている。
この「マスタング」には、次期モデルでも6速マニュアルギアボックスも用意されているが、マニュアルのほかにも10速オートマチックも用意されている。
ダークホース: フォードがトラックモデルを追加投入
2023年には、「ダークホース(Dark Horse)」の名のもとに、さらにパワフルなモデルが「GT」に加わる。「トラック(Track)」バージョンは、新型5リッター8気筒エンジンをよりパワフルにしたものを搭載している。また、フォードは「ダークホース」に新しいカムシャフトとダブルスロットルボディ吸気システムを与えている。また、トップモデルには、トルセデフロック、ライターウォータークーラー、エンジン&ミッションオイル用クーラー、リアアクスルデフ用クーラーが標準装備される予定だ。
また、アンチロールバーやショックアブソーバーも調整されている。さらに、シャープな「マスタング」には、19インチのピレリ製タイヤ(P Zero P214)が装着されている。「ダークホース」モデルには、工場出荷時にトレメック製6速MTが搭載されているが、10速ATも選択可能である。サーキット走行初心者のために、新型マスタングには、電動ドリフトブレーキが搭載される。これは一般的なハンドブレーキの機能を引き継ぎ、ドリフトを容易にするような電子デバイスである。
外観: 新しいロゴ、新塗装
新しいロゴだけでなく、その視覚的な残忍さからも、このクルマを認識することができるようになっている。黒光りするラジエーターグリルとリアウィングがひときわ目を引く。デザイン変更されたロアバンパーと低くなったサイドスカートは、ポニーをより残忍な存在に見せている。また、印象的だったのは、塗装だ。フォードでは写真のボディカラーを「ブルーエンバー」と呼んでいる。絵の具に光を当てると、濃紺の上にキラキラとした金色の反射が現れるようになっている。
NASCARシリーズ&各種レースシリーズ向け軽量化バリアント
しかし、「ダークホース」の旅はそれで終わりではない。なぜなら、「マスタング」は2024年から「ダークホースS」と「R」でGT3、GT4レース、そして北米のNASCARシリーズに参戦する予定だからだ。ライトウェイトバージョンは、2024年1月のデイトナ24時間レースで初披露される予定だ。
【ABJのコメント】
数年前にフォードが「マスタング」をBEVとして発表した時には、おもわず膝カックンとなったものだ。「マスタング」がBEVになってしまったことは、まあ時代の趨勢だから仕方ないとしても、その姿が今までのクーペボディではなく、SUVの姿をしていたからで、なんでまたよりにもよって「マスタング」という名前を持ったSUVのBEV(ああややこしい)を発表しなくっちゃいけなかったのよ、とそのセンスのなさを嘆いたのであった。
そして数年が経過し、2022年の秋、やっぱりポニーカーはこういうものだとばかりに出てきたのが今回の新型「マスタング」である。内燃機関の5リッターV8エンジンを搭載した、今まで通りの「マスタング」の形をしたモデルである。さらに電子サイドブレーキの仕組みを使い「ドリフトを容易に行えるデバイス」を搭載したり、2024年からはNASCARやデイトナ24時間に参戦したりするなど、なんだかやりたい放題な予定さえ発表になっている。あのBEV「マスタング」はいったいどこへ、というような話だが、新しいデザインのエンブレムを用意していることから考えても、フォードの人たちはオットセイの漫画のようにやる気満々なのだろう。
なんだぁ、ディアボーンの人たちもちゃんと「マスタング」の価値をわかっていてくれたんじゃないか、と嬉しくなると同時に、これでもし2022年にスティーブ マックイーンが生きていたらサンフランシスコで乗るべき「マスタング」があってよかった、と安心した一台である。(KO)
Text: Sebastian Friemel and Kim-Sarah Biehl
加筆: 大林晃平
Photo: Ford