新幹線のような正面向きシートの足元の広さを例える際、座席と座席の取り付け間隔を指す「シートピッチ」の表現がよく使われる。
電車や飛行機では重要なトピックに挙げられるシートピッチであるが、高速バスや観光バスの場合はどうなっているのだろう?
文・写真:中山修一
用途や定員で変わります!
高速・観光バスに使われる車両(高速車・貸切車)は、電車に比べると車体の長さが8〜9m短く幅も50cmほど狭いため、どうしてもスペースに制約が出てしまう。それを加味すればシートピッチも狭めに設定されているのだろうか。
三菱ふそう製エアロクィーン/エアロエースのデータを参考に見てみよう。実は同じ車種名でも用途によって座席の数が変化するため、シートピッチもそれぞれ異なるのだ。
【観光・貸切車】
2人掛けのシートが通路を挟んで1組ずつ置かれたレイアウトの場合、11列と12列の座席配置が用意されている。11列仕様ではシートピッチ88cm、12列仕様が79.5cm。最後列だけ少しピッチが広く取られ、どちらも89cmだ。
後方の座席4組をを90度回転させてサロンにできる観光特化型になると、1〜8列目までが80.5cm、9列目107cm、10列目103cm、11列目109cmと続く。
構造上そうなってしまうのだが、シートを正面向きにセットした場合は後ろのほうが極端に広くなる。
【高速車】
高速車は主に長距離路線バス向けと空港連絡バス向けに仕様が分かれる。どちらも通路を挟んで2人掛けシートが1組ずつ・11または12列の座席配置で、シートピッチは貸切車とほぼ共通だ。
近年は居住性を極力落とさずに最大定員を増強した13列仕様も登場しており、こちらは1〜12列目までがシートピッチ73cm、13列目だけ74cmが確保されている。
【高速車(夜行仕様)】
最近の夜行バスといえば1人掛けシートが3つ並ぶタイプが主流だ。昼行向け高速車や観光車よりも定員が少ない10列が標準で、シートピッチはクルマを前から見て左側のシートが92.5cm、中央94cm、右側95cmだ。
三菱ふそうエアロクィーンが使われている“キングオブ・深夜バス”でおなじみ夜行高速便の代名詞「はかた号」を例に取ると、中寄り〜後方のビジネスシートが概ね上記カタログ値通りのシートピッチになっている。
1台に4席しかない個室型プレミアムシートの場合、仕切りが取り付けられているため広さの目安にはならないのだが、純粋なシートピッチで表すと140cmに迫る。
プレミアムシートの座面背もたれ側の端(奥)から足元の仕切りまでを測ると約95cm、座面奥から目線の先の仕切りまで約60cmある。後者の値はビジネスシートの座面奥から前の背もたれまでの距離とほぼ同じだ。
狭いのか広いのか
高速車・貸切車のシートピッチは乗り物全体で見ると狭い/広いほうなのか、比較をしてみるとイメージが掴みやすい。まずJRの電車の各種シートピッチを挙げると以下のようになる。
・昔の特急電車:91cm
・最近の特急電車:96〜97、102cm
・普通電車のグリーン車:97cm
・新幹線普通車:104cm
・新幹線グリーン車:116cm
・新幹線グランクラス:130cm
長距離用の電車では、居住性を高めるほか荷物スペースを多めに設ける都合から、シートピッチが広く取られている。
昼行型のバス車両と電車を照らし合わせた場合、後ろだけ反則級に広いサロンタイプを除けば、バスの座席配置は電車よりもコンパクトな印象だ。
続いて飛行機のシートピッチは何センチあるのだろうか?
・一般航空会社:約79cm
・格安航空会社(LCC):約74cm
・JAL クラスJ:約97cm
・ANA プレミアムシート:約127cm
別運賃あるいは別料金が生じるシートは電車並みに前が広くなる一方で、普通のシートに関しては比較的狭い部類に入る。一般航空会社の機材で高速・貸切車の12列仕様、LCCの機材で13列仕様車に性質が近い。
上記スペックを踏まえると、感覚的に飛行機と電車の中間に位置するのが高速・観光バスと言える。車体サイズの割に、そこまで狭いわけでもないようだ。
事業者によっては、異様に広いシートピッチの車両を長距離バスで走らせているケースも稀にあり、そういったクルマに出会えるとラッキーかも!?
投稿 飛行機以上電車未満!? 高速バスの足もとスペースの真相とは は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。