2022年8月、新型シエンタが発表、同日発売された。同年9月の登録台数は7785台、10月は1万739台であった。着々と登録台数を伸ばし続けている。
新型シエンタの売れ行きについて、販売店に取材してみると先代モデルとは違った傾向になっているという。ノア&ヴォクシーとのすみ分けがうまくいっているようだ。その真相はいかに?
文/渡辺陽一郎、写真/TOYOTA
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シエンタで2列シートの人気が高い理由とはなにか
コンパクトミニバンのシエンタは、コロナ禍の中で売れ行きが好調だ。発売されたのは2022年8月で、9月の登録台数は7785台であった。ミニバンではヴォクシーの8241台の次に多い。
販売店に売れ行きを尋ねると「先代型では少数派だった2列シート車が意外に多く売れており、受注台数の半数前後を占める」という話が聞かれた。これはどういうことなのか、さらにくわしく尋ねた。
「シエンタはコンパクトミニバンだから、3列目シートの足元空間が狭い。そのために多人数で乗車するお客様は、新型になったノアやヴォクシーを購入する傾向が強い。この事情もあり、シエンタでは2列シート車の比率が増えた。スライドドアを備えた2列シート車を希望して、シエンタを選ぶお客様も多い。」
販売店が指摘した通り、シエンタは3列目のシートが狭い。現行型ではプラットフォームを刷新したが、運転のしやすさを考慮して、全長とホイールベース(前輪と後輪の間隔)は変えていない。従って居住性も先代型と同程度だ。
そして現行シエンタが登場する約半年前に、ノア&ヴォクシーがフルモデルチェンジを行った。安全/快適装備を大幅に充実させたこともあり、多人数で乗車したいユーザーは、ノア&ヴォクシーを選んでいる。
また以前のトヨタは、背の高いコンパクトカーとして、ポルテ&スペイド、ラクティス、bBを用意していた。今はこれらの車種がすべて廃止され、背の高い2列シートのコンパクトカーはルーミーだけだ。そこでシエンタの2列シート仕様が選ばれた事情もある。
特に以前のポルテ&スペイドは、内装が比較的上質で、直列4気筒1.5Lエンジンも選択できた。これを所有していたユーザーにとって、直列3気筒1Lのルーミーでは、走行性能、静粛性、乗り心地、内外装の仕上がりなどが物足りない。最終型になったポルテ&スペイドの発売は2012年で、今は乗り替えの時期に当たるから、シエンタのフルモデルチェンジを待っていたユーザーも少なくない。
いまは軽自動車に主流に! 実用性のある5ナンバーワゴンの強化を熱望!!
5ナンバーサイズのワゴンが減ったことも影響を与えた。カローラツーリングは3ナンバー車になり、継続生産される5ナンバーサイズのカローラフィールダーは、発売から10年以上を経過した。
他社でも日産のコンパクトなウイングロードは廃止されて久しく、ホンダシャトルも生産を終えた。5ナンバーサイズのワゴンが実質的に消滅したから、ワゴンユーザーの関心が、シエンタの2列シート仕様に向けられた。
さらにいえば、ワゴンに限らず、後席の快適な5ナンバー車が激減している。コンパクトカーのヤリスは、その前身だったヴィッツに比べると、後席の頭上と足元の空間が狭い。
ヴィッツをファミリーで使っていたユーザーがヤリスに乗り替えると、居住性に不満が生じる。3ナンバー車になったカローラのセダンとツーリングも、5ナンバーサイズだったカローラのアクシオとフィールダーに比べて後席が狭いのだ。
このように運転しやすいサイズで、後席の居住性に満足できるトヨタ車が今は少数派になった。特に全長が4.3m以下で、不満なく4名で乗車できるトヨタ車は、アクア、パッソ(後席の足元空間は意外に広い)、ルーミー、シエンタ程度だ。
SUVのライズとヤリスクロスも4名乗車は可能だが、身長170cmの大人4名が乗車すると、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々に留まる。そして前述のアクアは、ハイブリッド専用車だから価格が高い。パッソとルーミーは、居住性は満足できても、内装の質や乗り心地に不満が伴う。以上のような状況が目立ってきた結果、シエンタの2列シート仕様にユーザーの関心が集中した。
つまりシエンタの2列シート仕様が好調に売られる背景には、実用的な5ナンバー車が激減したことに対するユーザーの不満がある。軽自動車の新車販売比率が40%近くに達した理由も同様だ。
日本のメーカーは、「国内市場は軽自動車に任せておけばイイ」という発想を捨てて、国内のカーライフにもう少し目を向けて、魅力的な5ナンバー車を積極的に投入すべきだ。
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