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 ニッサン・エクストレイルは、2022年に発表・販売された新型車の中で、特にデザイン、性能面で優れていた10台として、2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストカーに選ばれた。今回は、その新型エクストレイルを紹介しよう。

 日産自動車はエクストレイルをフルモデルチェンジし、2022年7月25日に発売した。“タフギア”を標榜して2000年に登場した初代エクストレイル(T30)は、そのコンセプトを受け継ぎ2007年に2代目(T31)に移行。2013年に発売された3代目(T32)は、持ち前のタフさに「最先端(先進技術)」の魅力を加えて進化した。4代目となる新型(T33)は“タフ”“最先端”に“上質感”をプラスしたのが特徴だ。

新型エクストレイルのサイドスタイル。
新型エクストレイルのサイドスタイル。

 新型エクストレイルの技術面では、パワートレインをe-POWER(イー・パワー)に一本化したのが特徴だ。e-POWERとはシリーズハイブリッド方式のパワートレインを指す日産独自の呼称で、エンジンは発電専用とし使用。タイヤに駆動力を伝えるのはモーターとなる。充電した電気でモーターを駆動するのが電気自動車(BEV)なら、ガソリンを燃料とし、発電機で起こした電気で走るモーター駆動車がe-POWERということになる。

新型エクストレイルは“第2世代”の新しいe-POWERを搭載。
新型エクストレイルは“第2世代”の新しいe-POWERを搭載。

 日産のラインアップでは、ノート/ノートオーラ、セレナ、キックスがe-POWERを搭載する(ノートシリーズとキックスはe-POWERのみの設定)。これらの機種が1.2リッター直列3気筒自然吸気エンジンを発電用に用いるのに対し、新型エクストレイルは“第2世代”の新しいe-POWERを搭載する。エンジンもモーターも新規だ。

 エンジンは“VCターボ”と呼ぶ、日産が世界で初めて量産化に成功した可変圧縮比エンジンで、1.5リッター直列3気筒ターボだ。独自に開発したリンク機構により、圧縮比を14.0から8.0まで連続可変で制御する。要求負荷の低い領域では圧縮比を高く設定して効率を高め、負荷が高い領域ではノッキングを回避するために圧縮比を低い側に制御するのが基本。

 リンク機構の副次的な効果でピストンが直立した状態で上下するため、サイドフォースが小さくなってフリクションが減る。また、コンベンショナルなエンジンに比べて振動レベルが小さいのも特徴だ。

KR15DDT型のVCターボは、低負荷運転時には圧縮比14.0で使用して効率を高め、パワーが必要な時は圧縮比を8.0に落として高過給を掛ける。
KR15DDT型のVCターボは、低負荷運転時には圧縮比14.0で使用して効率を高め、パワーが必要な時は圧縮比を8.0に落として高過給を掛ける。

 KR15DDT型のVCターボ(VCはVariable Compression=可変圧縮の略)は、最高出力106kW/4400-5000rpm、最大トルク250Nm/2400-4000rpmを発生する。繰り返し説明しておくが、エンジンとタイヤは直接つながっていない。エンジンで発電用モーターを回し、そこで起こした電気で走行用モーターを駆動する。走行用モーターの最高出力は150kW、最大トルクは330Nmだから、エクストレイルの走行性能に影響を与えるのはこちらのスペックだ。

4WD車はフロントに最高出力150kW、リヤに100kWのモーターを搭載。
4WD車はフロントに最高出力150kW、リヤに100kWのモーターを搭載。

 搭載するリチウムイオンバッテリーは、ノートシリーズが1.47kWhの容量を持つのに対し、エクストレイルは約2割増しの1.8kWhの容量を持つ。ドライバーが要求する出力が小さいときはバッテリー電力のみで走行用モーターを駆動して走る。だから、このときのフィーリングはBEVとまったく同じだ。

 強い加速を求めるようなシーンではバッテリー出力では足りなくなり、発電用エンジンの出番となる。モーターの最高出力は150kWでエンジンの最高出力が106kWだから、電気を出し入れする際の損失を無視すれば、バッテリー出力は44kW程度ということになる。

 できるだけモーター走行(EV走行)でカバーしたいので、バッテリー残量が少なくなったら、ドライバーの意志とは関係なく発電用エンジンが始動し充電を始める。静かなEV走行に慣れた乗員にとれば、エンジンが発するノイズは邪魔だ。だから、車速が上がって走行音(ロードノイズや風切り音)が高まった頃を見計らってエンジンを始動する制御を取り入れている。さらに、エクストレイルではVCターボの特性を生かし、エンジン回転を低く抑えている。

ニッサン新型エクストレイル
ニッサン新型エクストレイル

 自然吸気エンジンのe-POWER第1世代は2400rpmで発電するのが基本だが、エクストレイルの第2世代e-POWERは、ターボチャージャーで空気量を自在に制御できる特性を生かすなどし、エンジン回転を2000rpmに抑えている。意識していなければ、エンジンが始動したことに気づかないほど静かだ(とくに同乗者は感じづらいだろう)。

 フル加速するシーンでは2000rpmなどと悠長なことはいっていられず、要求出力を満たすためにエンジン回転は上がっていく。だが、回転上限を4800rpmに抑えている(エンジン単体で走る仕様より1000rpm程度低い)し、車速に連動してエンジン回転が上がる制御にしているし、遮音が行き届いていることもあって、エンジン音の存在が邪魔にならない。聞かせたくはないが、聞こえてしまうにしては“いい音”がしているが、これは開発者のこだわりだ。

電動駆動4輪制御技術採用のe-4ORCEを採用。オフロードや雪道でもスムーズなコーナリング性能を発揮する。
電動駆動4輪制御技術採用のe-4ORCEを採用。オフロードや雪道でもスムーズなコーナリング性能を発揮する。

 新型エクストレイルにはもうひとつハイライトがあり、『e-4ORCE』(イー・フォース)である。電動化技術と4WD制御、それにシャシー制御技術を統合した電動駆動4輪制御技術のことだ。

 e-4ORCE搭載グレードを選択すると、リヤに最高出力100kW、最大トルク195Nmのモーターが追加される。フロントに最高出力150kWのモーターを積んでいるので、総合出力は250kW? と考えるのは早合点というもので、システム総合出力は150kWのままだ。バッテリーと発電用エンジンの能力で決まるからである。

 e-4ORCEはフロントとリヤのモーターに加え、左右のブレーキを統合制御することで4輪の駆動力を最適化し、タイヤが持つ能力を最大限使い切れるようにする。ダイナミックに走るシーンだけで効果を発揮する技術ではなく、日常走行時にも恩恵が得られる。例えば減速時は、リヤのモーターでも回生を行なうことでピッチ挙動を抑え、安定した姿勢で減速する。加速時も同様で、首がのけぞるような挙動を出さない。

 ドライブモードによる制御の違いを頭に入れておくと、e-4ORCEの能力を存分に味わうことができる。デフォルトのAUTOとECOは燃費を重視したモードのため、2WD(FF)で走行するのが基本(リヤにもわずかに配分する)。前輪がスリップするなどした際に4WDとなり、安定した状態になったと車両が判断するまで4WDで走り続ける。

 いっぽう、SNOW、OFF-ROAD、SPORTは理想の4WD配分になるように制御される。e-4ORCE車の静的前後重量配分は56:44だから、この比率を基本に前後の配分を最適化しながら走る。発進時は荷重がリヤ寄りになるのでリヤの配分を増やし、旋回時は車速や舵角、横Gなどからクルマの状態量を計算し、荷重移動後配分での前後配分に制御する。前後配分の制御には意図して位相差を設け、後ろで蹴り出す感覚を演出しているところがニクイ。

ニッサン新型エクストレイル
ニッサン新型エクストレイル

 乾燥舗装路でe-4ORCEを満喫するなら、SPORT一択だろう。常にリヤにも多くを配分しているので、高速道路で定常走行している際もブレが少なく、AUTOやECO選択時より安定している(ので、疲労軽減につながる)。山道などではダイナミックに走るほどに、e-4ORCEの真価が生きてくる。思いどおりによく曲がり、「いま、決まっているな」と感じさせる旋回姿勢を作りつつ、力強くコーナーを立ち上がっていく。新型エクストレイルのe-4ORCE仕様は、SUVのユーティリティを備えたハンドリングマシンだと言いたくなるほどだ。

新型エクストレイルは、2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストカーに選ばれた。
新型エクストレイルは、2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストカーに選ばれた。