鳴り物入りで登場したマツダFRラージ戦略第1弾モデルのCX-60。マツダ車史上最高の600万円超えグレードも設定されているが、300万円切りのリーズナブルなグレードも設定するなどその質感と走りの実力は注目を集めている。
特に3.3Lの6気筒エンジンを積んでいるディーゼルマイルドハイブリッドは輸入車勢の6気筒モデルよりもかなり価格設定が割安でコスパが高い。そこで、具体的にはどのあたりがクルマ好きにも刺さるポイントなのか、激戦区であるミドルSUV市場のなかでCX-60が持つチャーミングさについて小沢コージ氏が語る。
文/小沢コージ、写真/MAZDA、ベストカー編集部
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■ありそうでない! 繊細な日本人マインドで作られた本格欧風SUV
先日公開された国産注目SUVの初期受注データを見て驚いた。マツダ CX-60が約6000台で、新型日産 エクストレイルがその約倍となる1万2000台。うーむ、皆さん、わかっていませんね。CX-60のが全然イイのに、と思いつつ、ふと冷静に見ると、それが一般的評価かもしれないなと思った。
新型CX-60の最大の魅力、それはイジワルな言い方をすると、いい意味で「プアマンズ欧州車」なところだ。奇しくもそれは40年以上前に爆発的に売れた「広島版ワーゲンゴルフ」とも言える初代FFファミリアや、かつて「プアマンズポルシェ」と呼ばれた初代サバンナRX-7の時代とさほど変わってない。
反論を恐れずに言うと、CX-60の正体は日本流に仕立てられたリーズナブルなBMW X3だ。イマドキ珍しい本格FRプラットフォームで作られた欧州流ミディアムSUVだ。従ってそれは一部ドイツ車好きにガチで刺さる。
なぜならドイツ車はスタイルが権威主義的でイバりが効き、全般的に走りがよく、高速性に優れる半面、仰々し過ぎるし、操作系が少々重ったるい。
ステアリングは重厚感がありすぎ、グリップが太すぎるラケットでテニスをしてるような気分にもなるし、上質だがゴワゴワしたの本革シートはもうちょい繊細なタッチならいいのにと思う。
結局、身長190cmで100kgの大男がザラにいるドイツ人と、大きくても180cm台で80kg台の手が小さい日本人では求められるものが違うのだ。
その点、新作CX-60はある意味理想的な和のドイツ車であり欧州車だ。欧州車のトゲトゲしさがほどよく抑えられててちょうどいい。その側面はこれだけ物作りがグローバル化した今もあまり変わってない。
ただし、それは受注台数を見ればわかるように、欧州車に憧れのない人にはさほど刺さらない。アメリカンテイストで内外装ともモダンなエクストレイルのほうが万人ウケはするし、骨格もFFベースでスペース効率がいい。
パワートレーンもマツダ流の直6ディーゼルターボ特有の濃厚な回転フィールを好む人もいるが、それはやっぱりクルママニア。それより新作VCターボを発電機とする電動感たっぷりの新作e-POWERのほうが万人向きだろう。
■和のおもてなし感覚で作られた本格ドイツ車の味
しかし、その手の欧州車コンプレックスを抱えた人にしてみると、今回の和テイストで作られた新型CX-60は出色の出来だ。
スタイルは一見BMW X3にソックリだが、Aピラーが微妙に後ろに下がり、ノーズが伸びててよりFRっぽくて美しい。そのぶん、リアシートは広くないが、大きすぎない日本人には問題ない。
ドア自体の厚みや出っ張りも抑えられているし、開閉自体もドイツ車ほど重くない。さらに決定的なのはかつてない内装クオリティだ。
グレードにもよるが、1番の売れ線であるリーズナブルでパワフルな3.3L直6ディーゼルターボ搭載のXD(クロスディー)がまず凄い。323万円から始まるリーズナブルな価格設定で、ほぼ400万円のLパッケージから本革シートやソフトな樹脂内装が味わえる。
さらに凄いのが直6ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドのXDハイブリッドだ。こちらはスタート価格500万円超えとマツダにしては高いが、ドイツプレミアムと比べると200万円以上も安いし、なかでも547万円で買えるプレミアムスポーツとプレミアムモダンのふたつの上級グレードが凄い。
プレミアムスポーツは毛足の長いスウェード素材をふんだんに使った上質シートを備え、マセラティや4シーターフェラーリに乗っているかのよう。
かたやプレミアムモダンは、ホワイト本革シートにかけ縫いという和の手法を使ったインパネと繊細かつ上質なメープルウッドパネルが美しい。特にモダンのほうはドイツ車はもちろん、ほかのどんな高級車でも味わえないオリエンタルなリッチテイストだ。
さらに走り味だ。CX-60はプロトタイプをサーキットで走らせただけだが、3.3L直6ディーゼルは吹け上がりが軽く、なおかつ重厚感もある。
エンジン単体のパワー&トルクは231ps&500Nmと欧州プレミアムに多少及ばないが、そのぶん国内では排ガス浄化システムに尿素を使わなくてすむし、ディーゼルエンジンならではの重厚なパワフルさをたっぷり味わえる。
もうひとつ嬉しいのは新作FRプラットフォームならではのナチュラルなハンドリングだ。例えばメルセデスベンツ、BMWはハイスピード重視なあまり、真っ直ぐでは列車のレールにハマったような磐石さを見せる。実際、時速250kmでアウトバーンを走るなら「これっきゃない」とは思う。
だが、日本では飛ばせてもせいぜい時速100kmを超えるくらい。その点、CX-60のハンドリングはサイズの大きいマツダロードスターだ。直進時の手応えはしっかりしていて飛ばしても怖くない。しかし、それと同時にドイツ車にはないヒラヒラ感もある。高速からワインディングまで広い範囲で楽しめるのだ。
ここにはロードスターから導入されたKPC(キネティック・ポスチャー・コントロール)が効いている。これは自然なサスペンション幾何学を使ったもので、イン側にブレーキを強めにかけることでコーナリング中のイン側の浮き上がりを抑えることができる。
要は硬いアンチロールバーや機械式LSDを使わずともコーナリング時に地を這うような接地感が得られるわけだ。ここの自然な走りのテイストは、ぶっちゃけドイツ車を超えている。
■ぶっちゃけ「プアマンズドイツ風SUV」ですがな!?
まさに重厚かつ威厳たっぷりのドイツ車に、ほどよく日本人の繊細さをまぶしたような出来映え。これが気にならない欧州車好き日本人はおそらくいないだろう。
同時にCX-60は中身を考えると絶対安い、っていうか安すぎる。全体のスタートプライスは2.5Lガソリン4気筒モデルだが、300万円を切り、前述したようにCX-60の白眉たる直6ディーゼルターボモデルが323万円から。
本革仕様でも400万円スタートだし、マジメな話で同等のドイツ車を買うとなると700万円は楽勝で払うことになる。
正直、今どき「プアマンズドイツ車」「リーズナブル欧州車」などという前時代的なセールストークやキャッチフレーズは流行らないし、マツダもそんなカッコ悪いことは絶対に言わない。
だが、ナチュラルなハンドリングを実現するFRプラットフォームへのこだわり、ノーズのしっかりしたSUVデザインへのこだわり、直6エンジンへのこだわりを考えると、欧州的、ドイツ車的というのが一番わかりやすい。
そして、その欧州フォーマットに則っているクルマのわりに安いのもホント。
つくづく出来のいい和のプアマンズドイツ車、リーズナブル欧州車なのですよCX-60は。
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