2030年度のトラック物流は、10億トン近い輸送力不足に陥るという試算結果が公表された。簡単に言ってしまえば、トラックドライバーが足りず、それだけの貨物が運べなくなる時代が間もなくやってくるということだ。
この試算は、国土交通省と経済産業省、農林水産省の3省と有識者・関係団体などで作る「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の第3回検討会(2022年11月11日開催)で、NX総合研究所が資料として公表したもの。
このうち半分以上はドライバー不足によるものだが、残りは働き方改革関連法および厚労省が9月に承認したトラックドライバーの「改善基準告示」により長時間労働ができなくなることよる、いわゆる「物流の2024年問題」に起因している。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部・NX総合研究所
トラックドライバーに大きく影響する改善基準告示
物流は生活や経済を支える社会インフラとされながら、深刻な担い手不足が続いている。
また、トラックドライバーの長時間労働に支えられている側面があり、働き方改革関連法により自動車運転業務に時間外労働の上限規制等が適用される2024年4月以降は一層の輸送力不足に陥ると予想されている(いわゆる「物流の2024年問題」)。
トラック運送業ではドライバーの労働時間を短縮しないと担い手が増えず、担い手が増えないと一人当たりの負担がさらに増すという悪循環がある。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー価格の高騰と物価高、地球温暖化対策としての脱炭素化などへの対応も求められており、社会インフラである物流が今、危機的な状況にある。
物流の諸課題を解決するためには、荷主や一般消費者もそれぞれの役割を再考する必要があるという考え方から、国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省は、有識者・関係団体などからなる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を2022年9月に設置した。
同じく9月に厚生労働省は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、通称「改善基準告示」のトラック部会の見直し案を承認、9月27日に最終とりまとめが公表された。
改善基準告示は、拘束時間や「430休憩」など、トラックドライバーの働き方に大きく影響する。このため日本通運の子会社で民間の物流シンクタンク、NX総合研究所は検討会の基礎資料とするべく、改正された改善基準告示を考慮して改めて試算を行ない、第3回検討会の資料として公表した。
その改善基準告示の改正案だが、概要としては次のような内容となっている。
●1年の拘束時間:3300時間(現行:3516時間)
●1年の総拘束時間:労使協定により3400時間を超えない範囲で延長可能
●1か月の拘束時間:284時間(現行:293時間)
●1日の休息時間:継続11時間を基本とし、継続9時間を下回らない(現行:8時間)
●連続運転時間:4時間を超えない。ただし駐車場がないなどやむを得ない場合は30分まで延長可能(現行:4時間)
●白ナンバーも対象
試算はこのうち1年の拘束時間(原則3300時間)の影響という観点で行なったもの。1か月の拘束時間や1日の休息時間(拘束時間)などは試算の対象になっていない。
「2024年問題」の影響
NX総研は2024年問題によって不足する輸送力(営業用トラックの輸送トン数)を、2019年度のデータと比較して4.0億トン(輸送能力の割合として14.2%)と計算した。
仮に年間の拘束時間を原則の「3300時間」から、労使協定による「3400時間」とした場合、不足するのは1.6億トン(5.6%)に軽減される。不足する4億トンの輸送力を荷待ち時間の削減と荷役時間の短縮によって解消するとしたら、以下のような輸送効率化を(同時に)達成する必要がある。
●全体の運行の24%に当たる荷待ち時間のある運行のうち、その全て(100%)において荷待ち時間を18%削減する。
●全体の運行のうち、その30%において荷役時間を10%短縮する。
発荷主の業界別では、「農林・水産品出荷団体」で不足する輸送能力の割合が最も高く、32.5%となった。ほかに「特積み」(宅配便などの特別積合せ貨物)も23.6%と高くなっている。「日用品(製造業)」が0.0%となった以外、すべての荷主で輸送力は大幅な不足となる。
地域別では、「中国」が20.0%、「九州」が19.1%、「関東」が15.6%など、すべての地域で不足する。
なお、試算の前提となる2019年のデータによると、年間拘束時間が3300時間を超えるトラックドライバーの割合は26.6%だ。全体のドライバー数は86万人、営業用トラックの輸送トン数は28.4億トンとなっている。
2030年度の物流需給ギャップ
また、資料では2025年度と2030年度におけるトラック輸送の物流需給ギャップについても試算している。物流需給ギャップとは、物流における需要(貨物の量)と供給(トラック輸送力)の差のことだ。
需給ギャップは、両年度の輸送トン数の将来値(予測値)と、不足するドライバー数に一人当たりの年間輸送トン数を掛けた値を比較することで推計した。なお、国内の貨物輸送量の将来値は、主要シンクタンクが公表している実質GDPの予測値から推計したものだ。
トラックドライバーの需要量(貨物を運ぶのに必要なドライバーの人数)の予測はやや複雑だが、国交省の調査で「人手不足感のDI」がゼロ付近となった(=需給が均衡していた)2003年度の輸送量(約33億トン)とドライバー数(約107万人)から、貨物1000トン当たりのドライバーの需要を0.324人と算出した。
総労働時間が2003年より12.5%短くなっていることを想定すると、必要なドライバー数は0.370人/千トンとなる。ここに先のトラック輸送量の予測値を掛けることで将来のドライバー需要が求められる。
いっぽう、トラックドライバーの供給量は、経済センサス(経産省)の「道路貨物運送業」等から、人口予測などに使われるコーホート法を用いて推計した。
これにより、2025年度のドライバー需要は115万7763人、同供給量は101万2147人となり、14万5616人のドライバー不足となった。2030年度には需要量118万4393人に対して供給量は97万0307人で、不足するドライバー数は21万4086人に拡大するという予測結果になった。
ここに調査の元データが異なることによる調整を実施し、最終的に不足するドライバーの数は、2025年度に11万0809人、2030年度に16万2912人となった。
ドライバー1人当たりの輸送量と不足するドライバー数から、物流需給ギャップは、2025年度に3.7億トン(13.4%)、2030年度に5.4億トン(19.5%)となる。これは人手不足(のみ)による需給ギャップだ。
先述の通り、労働時間の短縮(2024年問題)による需給ギャップが4.0億トン(14.2%)なので、これと合計すると2030年度に最大で9.4億トンもの貨物がトラックで運べなくなる可能性がある。これは率にすると貨物総輸送量の34.1%に相当する。
国内の貨物の3分の1以上が運べないという危機を目前に控えた今、トラック業界だけでなく一般消費者や荷主企業も、物流において自らが果たすべき役割を考えなおす必要があるのではないだろうか。
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