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もはや無料は無理!? いっそのこと首都高は一生無料にならないほうがユーザーにメリットがあるのか?

 国土交通省が、今年4月から料金を改定した首都高速道路(一般には値上げと認識されている)について、渋滞量が前年比10%減ったとの調査結果をまとめている。深夜割引の導入で朝夕ピーク時の走行が減り、外環道千葉区間の迂回割引も寄与したと分析されているのだ。

 国交省では深夜割引と値上げの差し引きにより、料金収入全体の増減はほぼないとみているそうだが、もはやユーザーにとって首都高は一生無料にならないほうがメリットはあるのかどうか、清水草一氏に持論を語ってもらった。

文/清水草一、写真/AdobeStock(トップ画像=Hassyoudo@AdobeStock)

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■「深夜シフト」が起こったワケとは?

深夜割引によってかなりの深夜シフトが起きたようだが、清水氏にとってはまったく予想外だったようだ(oka@AdobeStock)

 今回の調査対象は今年4月の1カ月で、20%の深夜割引を導入した午前0~4時の交通量は、前年比13%増えたのに対し、午前7時台は4%減、午後5時台は2%の減少。

 料金改定1カ月の首都高速の全体交通量は、コロナ禍による行動制限のあった前年とほぼ同水準で、距離別では長距離(36km超)の利用が減少する一方で、短距離の利用は増加した。これによって、都心通過利用も減少したという。

 また、千葉外環迂回利用割引が適用される三郷~神奈川方面は、6号三郷線経由の利用が減り、都心通過利用の減少に寄与。6号三郷線の渋滞損失時間は7%減少、6号向島線の渋滞損失時間が9%減少した。

 私は料金改定前、「渋滞緩和にはほとんど寄与しない」と予想していたが、フタを開けたら10%減。首都高の場合、交通量が1%減れば、渋滞量は10%くらい減るので、誤差の範囲内と言えなくもないが、個人的にまったく予想外だったのは深夜割引によって、かなりの深夜シフトが起きたことだ。

 首都高は、NEXCOの高速道路のような長距離利用はないから、深夜2割引といっても、金額的には大きくない。そのためにわざわざ深夜労働(首都高の利用は7~8割が業務利用、つまり労働に当たる)するケースは多くはないだろうと考えていたのだが……。

 しかも、深夜の交通量が増えたことで、朝夕ピーク時の交通量が減ったというのだから、驚くべき現象だ。朝夕の走行を深夜に切り替えられるのだろうか?

■首都高以外の高速道路料金の動きは?

 いずれにせよ、今回の調査結果により、首都高でも時間帯別料金の導入は渋滞緩和に効果があることが明確になった。

 国交省は現在、首都圏や関西圏の高速道路に、時間帯別料金を導入すべく検討中だが、深夜割引だけでなく、ピーク時割増とそれに対応した前後の時間帯の割引を導入すれば交通はより分散し、渋滞を緩和できるはずだ。

 これに関しては、私は20年以上前から提案しているが、深夜割引よりも大きな効果があるだろう。

 割引と違って、割増には抵抗もある。今回の長距離料金の値上げに関しても、かなりの抵抗があった。しかし、抵抗があるからこそ、交通が分散する。それで渋滞が減少すれば、社会全体としては利益になる。

■渋滞減少の要因はほかにもある?

 ただ、今回の首都高の渋滞減少に関しては、ほかの要因もあったと推測される(あくまで推測だが)。

 私の周囲では、「首都高、大幅に値上げされるんでしょ」というのが一般的な認識で、値上げされるのは長距離だけだと説明すると、「えっ、そうなの?」と、みんな半信半疑だった。

 つまり、「首都高が大幅に値上げされたから、利用を控えよう」と動きが、多少なりともあったのではないだろうか。

 加えてこの4月から、首都高の合計34カ所の入口がETC専用になった。首都高のETC利用率は、今年3月時点で96.9%だったが、4月には97.7%と、0.8%上昇している。つまり、その分現金利用が減ったわけで、これが利用台数をある程度押し下げたと考えられる。

 首都高の今年4月の利用台数は、前年同月比ほぼ横ばいだったが、前年同月と言えば、新型コロナによる行動制限があり、交通量が抑えられていた。つまり、今年4月は前年同月比で交通量が増えるのが自然。NEXCOや阪神高速の交通量は、それぞれ2~3%増、渋滞量も12~25%増えている。

■首都高で減少した交通量はどこで増えたのか

首都高の利用が減ったぶんは圏央道に流れているようだ。圏央道の交通量はすでに容量オーバー状態で、渋滞も頻発している(w_p_o@AdobeStock)

 こういったデータを深読みすると、今回の首都高料金改定が、ダイレクトに渋滞緩和につながったとは言い切れない面もあるが、しかし、方向性は正しかったのではないか。

 首都高の利用が実質的に減ったということは、そのしわ寄せが一般道に行ったのでは? と思うところだが、一般道の交通量データを見ると、それもなかった。首都高に並行する一般国道の交通量は、前年同月比で逆に微減している路線が多い。

 ではどこが増えたのかというと、圏央道である。圏央道の交通量は、2~5%増加している。単純な図式としては、「首都高の交通が圏央道に逃げた」ということになる。

 圏央道の交通量は、すでに容量オーバー状態で、渋滞も頻発している。そこへ逃げてもスイスイ流れるわけではない。

 今後国交省は、圏央道の渋滞対策に、より真剣に取り組むべきだ。東北道より東側の区間は、現状の対向2車線を4車線化する工事が進んでいるが、最初から4車線で建設された西側にも、渋滞ポイントに付加車線を設置するなどの策を具体化すべきである。

■首都高無料化のタイミングは?

 ところで、首都高もNEXCOも2065年に無料開放される予定だ。しかし、今回の「首都高値上げ」(実際には値上げではなく、料金収入はほぼトントン)で渋滞が緩和したとなると、ユーザーにとっても、「首都高は無料にならないほうがメリットがあるのかも?」という疑問が沸く。

 正直、2065年のことなど、なかなか予想がつかないが、ポイントは、その時首都圏の人口がどうなっているかによる。

 東京都の人口は、2060年には現在より約200万人減り、1173万人になると予想されている。これがそのまま交通量に反映すれば、首都高からはほぼ渋滞が消えているはずだ。

 かといって、その時点で無料にしたら一般道からの交通転換が起きて渋滞してしまう。無料にしても渋滞しなくなるのはもうちょっと先のこと、22世紀あたりになるかもしれない。どっちにせよ、我々とは関係ない遠い未来の話だが。

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