2022年7月1日から発売を開始したホンダシビックのハイブリッドモデル「シビックe:HEV」。ほぼ同じボディサイズのe:HEV専用車「インサイト」が廃止となり、その後継車種に位置付けられるモデルである。
シビックe:HEVは、ハイブリッドでもスポーティな走りを楽しめるモデルとして注目されているが、価格は394万200円と強気の価格設定になっている。
そこで本稿では、シビックe:HEVとインサイトの違いをチェック。さらに、シビックe:HEVの装備、価格面から見てライバル車はどのモデルになるのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が考察していく。
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、平野学
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■シビックにe:HEVモデルが追加!!
最近のホンダは、日本国内の取り扱い車種を整理している。S660、グレイス、レジェンド、ジェイド、オデッセイなどが廃止された。
直近では、ハイブリッドのe:HEVのみを搭載したインサイトも生産を終えた。その代わりに追加されたのがシビックe:HEVだ。インサイトの後継車種に位置付けられる。
インサイトのエンジンは直列4気筒1.5Lだったが、シビックe:HEVは、直列4気筒2Lに拡大した。e:HEVでは、基本的にはエンジンが発電を行ってモーターがホイールを駆動する。それでも効率の優れている高速巡航時には、エンジンがホイールを直接駆動することもある。この直接駆動時には、エンジンが2Lであれば、実用回転域の駆動力に余裕が生じる。登坂路などに差し掛かっても、直接駆動の状態を保ちやすい。エンジンの排気量を拡大したことで、効率を高められる面もあるわけだ。
またエンジンが2Lになると、発電能力も向上するから、モーターの出力も1.5L以上に高められる。シビックe:HEVの動力性能は、ノーマルエンジン車に当てはめると2.8〜3Lに匹敵する。
シビックe:HEVで注意したいのはWLTCモード燃費だ。インサイトは29.6〜34.2km/Lだったが、シビックe:HEVは24.2km/Lに悪化した。1.5Lエンジンを使うインサイトに比べると、少なくとも18%は燃費数値が下まわる。
価格も高く394万200円だ。インサイトで最上級グレードだったEXブラックスタイルが372万9000円だったから、シビックe:HEVに変わり、約21万円値上げされた。
このようにシビックe:HEVには割高感が伴うが、装備も充実する。衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能に加えて、カーナビ、通信機能のホンダコネクト、プライムスムースとウルトラスエードによるコンビシート、運転席と助手席の電動調節機能、アルミホイールなどがすべて標準装着される。
シビックに1.5Lターボを搭載するEXは、シビックe:HEVと同様の装備を採用して、価格は353万9800円だ。e:HEVは1.5Lターボと比べて約40万円の価格アップだから、妥当な範囲に収まる。ステップワゴンのターボとe:HEVの価格差も、約38万円だから、シビックのe:HEVも大差はない。
そうなると1.5Lターボを含めて、シビック自体の価格が高いと判断される。シビックの全長は4550mmだが、1.5Lターボの価格は、4865mmのマツダ6並みだ。シビックEXが前述の353万9800円で、同等の動力性能を発揮する2.5Lエンジンのマツダ6・25S・Lパッケージは363万5500円になる。
■割高感のあるシビックe:HEVのライバルは?
このようにシビックの価格は、ひとまわり大きなボディを備えた車種と同等だから、シビックe:HEVのライバル車もLサイズハイブリッドセダンのカムリWSだ。価格は393万7000円だから、シビックe:HEVの394万200円とほぼ等しい。
装備を比べると、シビックにはBOSEプレミアムサウンドシステムや助手席の電動調節機能が標準装着されるが、カムリはオプション設定だ。オプション価格は、JBLプレミアムサウンドシステムが8万300円、助手席パワーシートはステアリングホイールの電動チルト&テレスコピック機能などと併せて5万7200円になる。
その一方でカムリは、100V・1500Wの電源コンセントなどを標準装着したから、装備の水準は同程度と考えて良い。WLTCモード燃費は、カムリWSが24.3km/Lだから、シビックe:HEVの24.2km/Lに近い。その代わり動力性能は、シビックe:HEVが少し力強く、操舵感覚などもスポーティに仕上げている。
カムリが優れているのは居住性だ。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は、カムリなら握りコブシ3つ弱になる。対するシビックは握りコブシ2つ分だ。後席で聞こえるノイズも異なり、カムリはセダンらしく静かだが、シビックは5ドアハッチバックだから後輪が路上を転がる音が少し耳障りだ。
このようにシビックe:HEVとカムリWSは、燃費性能と価格はほぼ同じだが、走行性能と走りの楽しさはシビックe:HEV、居住性はカムリWSがそれぞれ優れている。
シビックとカムリではボディサイズが異なるが、シビックとプリウスなら同程度になる。プリウスの全長は4575mm、全幅は1760mmに収まるからだ。
WLTCモード燃費は、プリウスが数値の最も悪いグレードでも27.2km/Lだ。シビックe:HEVの24.2km/Lに比べて優れている。
価格はプリウスで最上級グレードになるAプレミアムツーリングセレクションが344万2000円だ。このグレードの装備には、本革シート、100V・1500Wの電源コンセントなどがある。シビックe:HEVは、オーディオなどを充実させたが、装備の水準はプリウスAプレミアムツーリングセレクションと同程度だ。そしてシビックe:HEVの価格は、プリウスAプレミアムツーリングセレクションよりも約50万円高い。
■ライバルと比較すると30万円の値下げが妥当!?
以上のようにシビックe:HEVの内容は、トヨタ車でいえばボディの大きなカムリと同等だ。同サイズのプリウスに比べると、価格が50万円くらい高くなる。燃費性能はカムリと同等で、プリウスよりは悪い。
そうなるとシビックe:HEVの評価は、走行性能、運転感覚、乗り心地、内外装の質感などで決まる。この点を判断すると、プリウスAプレミアムツーリングセレクションを50万円上まわるのは高過ぎる。差額は20万円が妥当で、シビックe:HEVは30万円の値下げをするのが妥当だ。
つまりシビックe:HEVの価格は364万200円にすべきで、生産を終えるインサイトプレミアムスタイルの368万5000円に近い。
ちなみにインサイトの価格は、ミドルサイズのハイブリッドセダンとして妥当だった。インサイトは地味で不人気だったが、内外装の質感や居住性も優れ、「売れていないけれど良いクルマ」の代表だった。シビックe:HEVも、もう少しインサイトを意識して、価格などを決めるべきだったと思う。
ホンダのクルマ造りは、概して従来型からの継続性を軽視する。束縛されない自由な商品開発を行えるメリットがある半面、裏目に出ることも多く、シビックe:HEVもそこに含まれる。
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