軽自動車にSUVテイストを加えた新ジャンルとして登場したスズキのハスラーは、愛らしい丸目のヘッドライトと立ち上がり気味のフロントウインドウによる独特なシルエットが受け、大ヒットとなった。
そして2代目もキープコンセプトで2020年に登場したが、その直後にライバルとして登場したのがダイハツのタフト。それ以来販売でもつばぜり合いを続けているが、2年たって一部改良を受けた両車の実力を再検証する!
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部
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■人気の軽自動車「タフト」と「ハスラー」
2022年1~9月の国内販売状況を見ると、新車として売られたクルマの38%が軽自動車であった。
今の軽自動車の売れ筋は、ホンダ N-BOX、ダイハツ タント、スズキ スペーシアのような全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた車種だが、アウトドアライフのツールとして使いやすいSUV感覚のモデルも人気を得ている。
その代表がダイハツ タフトとスズキ ハスラーだ。両車とも外観は水平基調のデザインで存在感が強い。フェンダーのホイールが収まる部分と、ボディ側面の下側には、ブラックの樹脂パーツも装着されている。
最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)は、タフトが190mm、ハスラーも180mmを確保した。ほかの軽自動車は150mm前後だから、タフトとハスラーは悪路のデコボコも乗り越えやすい。
全高はタフトが1630mm、ハスラーは1680mmで、車内の広さはダイハツムーヴやスズキワゴンRと同程度だ。タントやスペーシアほど天井は高くないが、実用的には十分な広さを確保する。荷室には水洗いの可能な処理が施され、アウトドアで使ったツールも気兼ねなく積める。
■充実装備のタフトvs燃費&シートアレンジのハスラー
タフトとハスラーは、これらの共通点を備えた上で、異なる特徴がある。
まずタフトは、大型ガラスルーフのスカイフィールトップ、LEDヘッドランプ、電動パーキングブレーキを全グレードに標準装着した。ベーシックなX・2WDの価格は135万3000円だから、ガラスルーフ装着車では最も安い。タフトの特徴は、低価格でも装備を充実させたことだ。
その代わりタフトのシートアレンジはシンプルで、後席の背もたれを前側に倒すだけだ。後席の座面は固定され、前後のスライド機能も備わらない。
一方、ハスラーはシートアレンジを充実させた。後席の背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がり、床の低い平らな荷室に変更できる。後席の前後スライド機能も採用した。しかもこれらのシートアレンジはすべて左右独立式だ。
ここまでシートアレンジを充実させた軽自動車は、N-BOXやスペーシアなど、天井の高いスライドドアを装着する車種が中心だ。スライドドアを備えない車種は、ワゴンR、ハスラー、その姉妹車程度に限られる。
またハスラーは全グレードにマイルドハイブリッドを搭載して、ノーマルエンジンの2WDは、WLTCモード燃費が25km/Lだ。タフトの21.4km/Lに比べると、燃料消費量も節約できる。
その代わりハスラーの装備は、タフトほど充実していない。最も安価なハスラーハイブリッドG・2WDは138万7000円で、タフトX・2WDの135万3000円よりも少し高いが、大型ガラスルーフ、LEDヘッドランプ、電動パーキングブレーキなどは装着されていない。
このようにタフトは価格の割に装備を充実させ、ハスラーはシートアレンジが多彩で、マイルドハイブリッドの搭載により燃費にも力を入れている。
ハスラーは2013年に初代モデルを発表して、2代目の現行型は2019年に投入した。対するタフトは、1970年代に登場したSUV除くと、2020年に登場した現行型が初代モデルだ。タフトはハスラーの後追い的な商品ともいえるから、ガラスルーフの装着などに力を入れて、競争を避けたとも受け取られる。
このタフトとハスラーの関係は、両車の届け出台数にも示されている。2022年1~9月までの届け出台数を1か月平均にすると、タフトは約4800台で、ハスラーは約5700台であった。
比率に換算すると、ハスラーの売れ行きは、タフトよりも約20%多い。ハスラーは初代モデルから数えると約9年を経過しているため、SUVスタイルの実用的な軽自動車として定着している。
■SUV人気もハスラーを後押し
このあたりをスズキの販売店に尋ねると以下のように返答された。「ハスラーは先代型の販売が好調だったから、現行型に乗り替えるお客様も多い。またスズキには古くからジムニーがあり、SUVのイメージも強い。今ではスペーシアギアも加わり、その傾向が一層強まった。納期は約5か月だ」。
ハスラーとスペーシアギアは、両方ともSUVの雰囲気を備えた背の高い軽自動車だ。スズキ車同士で競争することもあるが、相乗効果により、スズキのSUV的なブランドイメージを強固にしている面もある。
ダイハツの販売店では、タフトの売れ行きについて以下のように説明した。「タフトは背の高い軽自動車だが、ファミリーよりも2名で乗車するお客様の間で人気が高い。スカイフィールトップなど、独自の装備が魅力となっている。納期は約3か月だ」
タフトは前述の通り、シートアレンジがシンプルで、背の高い軽自動車なのに後席を荷室として使うようにデザインされている。車内の色彩も、前席側はブラックで後席側はグレーだ。
上級のGとGターボでは、前席側に装着されるドアのインナーハンドルはメッキ仕上げだが、後席側はブラックになる。車内の後部は荷室と割り切った。
このような造りだから、タフトはファミリーよりも、2名以内で乗車するユーザーが多い。そしてスカイフィールトップが欲しいユーザーは、全車に割安に標準装着されてメリットになるが、不要なユーザーにとってはムダが生じて欠点にもなり得る。
タフトはハスラーと違って従来型からの乗り替え需要が限られ、なおかつユーザーを絞り込んだクルマ造りをしているから、売れ行きが伸びない面もある。
■ダイハツとスズキの車種構成の違い
タフトがユーザーニーズを絞り込んだ背景には、ダイハツとスズキの車種構成の違いがある。スズキの背の高い軽乗用車は、悪路向けSUVのジムニーと商用バンから派生したエブリイワゴンを除けば、スペーシア、ワゴンR、ワゴンRスマイル、ハスラーの4車種だ。2021年にワゴンRスマイルが加わる前は3車種だった。
ところがダイハツは、タント、ムーヴ、ムーヴキャンバス、タフト、キャストがあり、以前はウェイクも用意されて6車種をそろえていた。ダイハツは車種を増やしてユーザーニーズをカバーする戦略だから、基本的に絞り込んだ商品開発をする傾向が強い。
例えばムーヴキャンバスも、初代モデルは同居する母親と娘が使うことを前提に、後席下側の「置きラクボックス」を考案した。その後追い的な商品とされるワゴンRスマイルは、車内がスペーシアに近い普通の造りで、ムーヴキャンバスのような絞り込んだ個性はない。
同様のことはタントにも見られる。左側のピラー(柱)はスライドドアに内蔵され、ドアを前後ともに開くと開口幅がワイドに広がる。
現行型はこの特徴を生かして、売れ筋グレードの運転席に、540mmのロングスライド機能を標準装着した。運転席を予め後方へスライドさせておくと、子育て世代のユーザーが左側のワイドなドアからベビーカーを抱えて乗り込み、子供を後席のチャイルドシートに座らせた後、降車しないで運転席まで移動できる。
つまりドライバーが運転席側のドアではなく、左側のスライドドアから乗り降りする導線に配慮して開発した。
しかし2022年10月のマイナーチェンジでは、運転席のロングスライド機能が、標準装着から2万2000円のオプション装備に変更されている。開発者に理由を尋ねると「使用頻度が高くないから」であった。コストの低減もあるが、ダイハツの装備には、少々「考えすぎ」の傾向も見られる。
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以上のようなダイハツとスズキの商品開発の違いに基づいて、タフトとハスラーは開発された。今のところ売れ行きはハスラーが多いが、今後時間を経過すれば、販売順位が入れ替わる可能性もある。
ダイハツは軽自動車の販売1位メーカーで、以前は軽乗用車、軽商用車ともにダイハツがスズキよりも多かった。
しかし今は状況が変わった。軽商用車はダイハツだが、軽乗用車はスズキの届け出台数が多い。タントの売れ行きが伸び悩み、軽乗用車の販売では、ダイハツは2位に下がった。これを挽回するためにも、ダイハツはこれから、タフトなど軽乗用車の販売テコ入れを積極的に行う。
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