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 世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。

 そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。今回は、現在の三菱のラインナップにおける最小モデル、ミラージュを取り上げる!

文/清水草一
写真/三菱

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■「もうすこしなクルマ」は貴重な存在!

 世の中から「もうすこしなクルマ」が消滅しつつある。ここで言う「もうすこしなクルマ」とは、あくまでカーマニア的な見地によるもので、オーナーの皆様は十分満足し、かわいがっているものと想像しますが、カーマニア的には「もうすこしです」と思えるクルマたちのことである。

 2022年8月をもって、日産マーチの生産が終了し、国内における40年間の歴史に幕を下ろした。最後のマーチたる4代目モデルは、2010年の登場時、「今どきこんなニューモデルが出るなんて!」という衝撃を与えた。それが消滅したのは、「もうすこしなクルマ」界にとって大きな痛手だった。

 マーチの消滅によって、国内に残された「もうすこしなクルマ」は、実に貴重な存在になった。そのひとつが、2012年に発売された三菱 ミラージュだ。

グローバルコンパクトカーとして誕生した現行型ミラーシュ。ガソリンエンジン登録車としてはトップ(当時)となる27.2km/Lの低燃費性能を誇った

 現在販売されているミラージュは、通算6代目だが、その成り立ちは、驚くほどマーチと似ている。生産国はともにタイ。つまり逆輸入車であり、どちらも、主にアジア向けのコンパクトカーとして開発された。

 ミラージュやマーチがタイからの逆輸入車になったのは、リーマンショック後の不況期にあり、コストダウンが優先されたため。国内で生産しても採算が難しいことから、タイ工場で生産されるグローバルモデルを日本へも導入した。

 結果的にミラージュとマーチは、登場当時ですでに、10年以上前の国産コンパクトカーの乗り味だった。ボディ剛性は低く、サスペンションはヘナヘナしており、パワートレインも貧弱で、走りの質感が大変低かった。

 日産 マーチは、同クラスにノートという大エースが育ったことで、ついに退役することが可能になったが、三菱には、ミラージュに代わるコンパクトカーがない。というより三菱の自社生産モデルは、軽自動車を除けば、ミラージュ以外はすべてSUV系。ミラージュは、三菱のラインナップに残された唯一の「フツーの乗用車」である。

■日本で消滅しない理由と海外市場の現状

 ミラージュの生産台数は、超低空飛行だったマーチよりさらに断然少ない。今年(2022年)1~9月の販売台数を見てみよう。

日産 マーチ/6518台(平均724台/月)
三菱 ミラージュ/2195台(平均244台/月)

 なんと、(販売網を考えれば順当だが)マーチの約3分の1!! ここまで低迷していても、そう簡単に消滅させるわけにはいかないのだろう。というよりも、消滅させてもメリットがないのだ。

2015年のマイナーチェンジでは、内外装をスポーティな雰囲気に変更。さらに予防安全技術「e-Assist(イーアシスト)」を全車採用した

 ミラージュは、日本では数少ない「もうすこしなクルマ」だが、海外ではまだ充分売れている。ミラージュと、その4ドアセダン版であるアトラージュのグローバル販売台数は、合計して年に約15万台。年間販売台数が約100万台の三菱自動車にとって、極めて重要なモデルだ。ミラージュは、タイなどアジア諸国のほか、アメリカでも結構売れている(2021年のアメリカでの販売台数は約2万台)。

 私は国内仕様のミラージュしか乗ったことがないが、アメリカ仕様のエンジンは、国内仕様と同じ3気筒の1.2L MIVEC+CVT。それで価格は、1万6245ドルからとなっている。円安とは言え、軽く200万円を超えている! ミラージュの国内価格は149万円から166万円。これを「割高だなぁ」と思っていたが、バチが当たりそうだ。

 登場からすでに12年もたつクルマが、この価格でこれだけ売れている。すでに開発費は完全に回収し、作れば作るだけ利益になっているはずだ。日本での販売台数は微々たるものだが、あえて廃止する理由はどこにも見当たらない。

「あのもうすこしなミラージュが、三菱が強いアジア市場はともかく、アメリカでもかなり売れているのはナゼ!?」か。

 ぶっちゃけ、アメリカは所得や民族など、非常に幅の広い国。そして、クルマがなければ生きていくのも難しい、ひとり1台の国だ。ミラージュのようなベーシックカーを必要としている世帯は確実にある。日本におけるアルトやミライースである。

■改良されて現在の形になったミラージュの魅力

 2020年のマイナーチェンジでは、フロントフェイスに三菱のアイコン「ダイナミックシールド」が導入された。私の目には「ムリヤリの後付け」にしか見えないが、海外ではこれも好評で、販売がグンと上向いた。

2020年4月の大幅改良ではフロント&リアデザインが一新され、予防安全装備の強化によってサポカーSワイドに該当することとなった

 では、ミラージュの走りは、マイナーチェンジで向上したのか? というと、私はそうは感じなかった。むしろ、久しぶりに乗ったミラージュは、登場当時よりもさらに安っぽくなったようにすら思えた。

 同クラスのライバルたちは、フルモデルチェンジを繰り返して、長足の進歩を遂げている。ヤリス、ノート、フィット、どれも走りの質感は高い。それらに比べると、ミラージュの走りは、20年以上前のレベルだ。安全装備を除けば、1999年登場の初代ヴィッツに近いだろう。

 当時、初代ヴィッツは、軽量を活かして軽快に走る傑作だった。ミラージュも同様。軽量(わずか900kg!)を活かして軽快に走る……と言えなくもない。ミラージュに乗れば、20世紀のコンパクトカーが味わえるのだから、時空を超えた珍車ではなかろうか! そんなミラージュを「もうすこしだな」と感じるのは、自分が贅沢になっただけかもしれない。

 そして、日本はともかく、アジアやアメリカには、ミラージュを必要としている人がたくさんいる。「三菱、グッジョブ!」と言うしかない。

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