2022年10月3日にビッグマイチェンを実施して発売されたタント。SUV色を全面に出したウェイク風味のファンクロス投入が何といっても最大の注目点で、すでに同年8月下旬からダイハツディーラーでは受注が始まっていたが、ライバルとなるスペーシアギアの好調さを横目で見ていたダイハツがファンクロスをマイチェンで投入してきたことは明らか。
そこで、この軽スーパーハイトワゴンカテゴリーのトップ2であるN-BOXとスペーシアを追撃できているのかどうか分析してみた。
本文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、ダイハツ
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■ファンクロスはN-BOXとスペーシアを追撃しているか!?
今はクルマの売れゆきが二極分化している。コロナ禍前の2019年の時点でも、1カ月平均で3000台以上を販売する車種はかぎられていた。
しかも今はクルマの売れゆきが全般的に下がったから、メーカーとしては販売不振の車種は廃止したい。そこで車種の数も減少傾向にあり、売れゆきをさらに下げる悪循環も見られる。
この流れを食い止めるために行われたのが、多額のコストを費やさずに行える売れ筋車種をベースにした派生モデルの投入だ。ここでは2022年10月3日にSUV風のタントファンクロスが登場した理由と今後の見通しを考えたい。
■派生車種を数多く設定して成功したノートとスペーシア
派生車種で最もわかりやすいのは、日産ノートシリーズだ。パワーユニットは、ノーマルエンジンを用意しないe-POWER専用にして合理化を図ったが、選択肢は多い。ノーマルタイプのノート、上級のノートオーラ、SUV風のノートオーテッククロスオーバー、スポーツ指向のノートオーラNISMOを用意する。基本部分を共通化した派生車種を多く投入することで、開発コストを抑えてシリーズ全体の売れゆきアップを狙った。
同様のことが軽乗用車にも当てはまる。今は50%以上が、全高を1700mm以上に設定してスライドドアを備えたスーパーハイトワゴンだ。そこに派生車種を追加すると、売れゆきを効率よく伸ばせる。
この戦略で成功したのがスズキスペーシアだ。現行スペーシアは2017年の末に発表され、この時点では標準ボディとカスタムを用意した。約1年後の2018年末には、SUV風のスペーシアギアも投入している。小型/普通車では、今はSUVの人気が高く、スペーシアギアも同様のテイストで仕上げた。
そのためにスペーシアは、2019年に売れゆきを伸ばした。届け出台数は、2018年に比べて約10%増えている。さらに2022年には、日常生活のツールとして使いやすい軽商用バンのスペーシアベースも加えた。
このようにスペーシアシリーズは、基本部分を共通化しながら、実用的な標準ボディ、スポーティなカスタム、SUV風のギア、商用車のベースをそろえる。ノートと同様のワイドな展開で売れゆきを伸ばす戦略だ。
この効果で、軽自動車市場におけるスペーシアの販売ランキングは2位になる。人気絶頂のN-BOXにはかなわないが、タントに比べると多い。
スペーシア人気と相まって、スズキは軽乗用車の売れゆきも好調だ。2022年1~8月の累計届け出台数を見ると、軽自動車全体ではダイハツが1位でスズキは2位だが、軽乗用車にかぎると、順位が入れ替わってスズキが1位になる。つまりダイハツは、軽商用車の売れゆきに支えられ、軽自動車の販売ナンバーワンを保っている。
■現行型タントの販売不振がダイハツ軽の伸び悩みを招いていた?
表現を変えると今のダイハツは軽乗用車が弱い。しかし、過去の販売推移を振り返ると、2019年までは、ダイハツは軽乗用車もスズキに比べて多かった。それが2020年以降は、ダイハツの軽乗用車販売がスズキを下回っている。
ダイハツの軽乗用車が伸び悩む一番の理由は、タントの販売不振だ。先代タントは2013年に発売され、2014年には先代N-BOXや先代アクアを押さえて国内販売の総合1位になった。2015年にはN-BOXに抜き返されたが、2016年を含めて軽自動車の販売2位は守っていた。スペーシアが現行型にフルモデルチェンジすると、タントは一時的に軽自動車販売の2位を奪われたが、2019年には返り咲いた。
問題は2019年に登場した現行タントだ。本来なら2020年は絶好調に売られ、先代型の発売直後のようにN-BOXの販売1位を脅かしていいはずだが、実際は低迷した。2020年のタントは、1位のN-BOX、2位のスペーシアに続く3位であった。
そこで現行タントは、モデル末期に設定するような格安の特別仕様車を用意したが、売れゆきは上向かなかった。2021年の軽自動車販売ランキングも3位に留まった。2022年1~8月の届け出台数は、コロナ禍の影響もあり、前年のマイナス35%になっている。タントはダイハツが手がける軽自動車の基幹車種だから、この売れゆきが低迷すると、ほかの車種にも悪い影響を与えてしまう。
■今回のマイチェンでのテコ入れで用意されたのが「ファンクロス」
ダイハツにとってタントの不振は解決すべき深刻な課題で、スペーシアギアの成功もあり、SUV風のファンクロスを用意した。外観を見ると、ボディをガードするようなデザインの樹脂パーツが装着され、ルーフレールも採用されている。
内装では荷室のデッキボードが上下2段調節式になり、後席の背面などには防水加工も施した。ダイハツにはSUV風の軽自動車としてタフトがあり、荷室は汚れを落としやすい仕上げだから、汚れたキャンプ用品なども気兼ねなく積める。
この使い勝手をタントに反映させたのがファンクロスだ。後席を格納して車内で作業をしたり、荷物を収納したりする時の利便性を考えて、荷室用のランプも天井と側面に装着した。USBソケットも、荷室の側面に備えている。
スペーシアギアの登場は、前述のとおり2018年の末だから、すでに4年近くを経過している。タントファンクロスは、もう少し早く商品化すべきだったが、それでも今後は有力なバリエーションになる。
その理由は、タントの販売が伸び悩む理由のひとつに、標準ボディのフロントマスクなど外観のデザインが挙げられるからだ。全般的に地味で、先代型と比べた時の変わり映えも乏しい。
特に標準ボディは、ヘッドランプを薄型にデザインしたことでインパクトが薄れた。ダイハツの関係者からも「売れない理由を挙げるとすれば外観」という話が聞かれる。
■ファンクロスのエクステリアは目立つぞ!
機能については、タントはピラー(柱)をドアに埋め込んだから、前後ともに開くと開口幅が1490mmとワイドに広がる。ベビーカーを抱えて乗り込み、子供を後席のチャイルドシートに座らせる作業も車内で行える。現行タントでは、運転席に長いスライド機能を装着して、親が降車しないで運転席まで移動できるように配慮した。
この車内の移動のしやすさは、実際に使うと便利だが、ユーザーが車種を検討する段階ではメリットを想像しにくい。従って車両全体の印象が地味になり、売れ行きも伸び悩んだ。
その点でタントファンクロスの外観は目立つ。地味な標準ボディや定番のカスタムが好みに合わないユーザーにとって、ファンクロスは注目されそうだ。
ちなみに2022年1~8月の1カ月平均届け出台数は、タントが6974台、スペーシアは7864台であった。その差は890台だった。発売後の2022年10月の届け出台数はタントが1万4981台と1位N-BOXの1万6369台になったのだから、ファンクロス効果は大きかったとい言えるだろう。
N-BOXの1カ月平均届け出台数は1万6634台とケタ違いに多いから、太刀打ちできないが、スペーシアには充分に対抗できることが証明された。タントファンクロスに刺激され、軽自動車同士の競争も活性化して、市場規模がさらに拡大するだろう。
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