「イノベーション」の解釈は企業によって異なるかもしれないが、基本的に新規事業の創出と結び付けて捉えられている。イノベーションを生み出す主体は多くが研究所であり、担い手は一人にせよ、グループにせよ「研究者」ということになる。AI(人工知能)の活用が叫ばれる時代が来ているが、少なくとも、しばらくは人が介在することになるだろう。
女性活躍推進の機運は、研究の世界でも高まっている。ただ、いまだに「理工学分野は男の世界」というアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が根強く、同分野の女性研究者の少なさにつながっているとの指摘がある。一方で実際の理工学の研究分野では、民間企業・公的機関とも、少数ゆえに女性研究員を大切に育てる風土が一般的ともいわれる。
こういったジェンダーバイアスをはじめとした固定観念がイノベーションの芽を潰しているのであれば、早急に取り除かれるべきだろう。研究開発は製造業にとって常に重要課題だ。研究員の自由闊達な発想やポテンシャルを引き出す風土づくりを重視して組織改革を進める企業は多い。「失敗を恐れる」といった負のバイアスからの解放に、経営サイドが率先して取り組まなくてはならない。
化粧品市場で、シワ改善の医薬部外品が伸びている。先駆けとして2016年に国内初承認を得たのがポーラ・オルビスホールディングス。当時、開発担当者だった末延則子執行役員は「業界一番手でもない当社には無理、という雰囲気が研究所にはあった。当時のマネージャーからも良く思われていなかった」と打ち明ける。有効成分「ニールワン」の承認までに15年を要した。研究者全員が「頑張れば報われる」という言葉を実感したのではないかという。自分を信じて「反対を押し切って」でも地道に続けた成果である。いくら立派な設備や働きやすい環境を整えたところで「研究者魂」無しに事は成せないということか。
現在、研究を管理する立場となった末延氏は「新規事業の芽は、組織が守らないと潰れてしまう。それを守る戦略を立てないといけない」と強調する。当時のマネージャー陣が懐疑的であったにもかかわらず「社長が新しい挑戦に寛容だった」印象が強く残っているそうだ。研究に対して「ストップ」の声が掛かることは、ついになかった。
新しい発想を温かく見守ろうと努める視線が注がれるからであろうか。ポーラ・オルビスホールディングスは、観光振興やフェムテックなど化粧品の枠を越えたビジネスを生み出し続けている。
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