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 サクセスウエイト係数が半分となり、いよいよチャンピオン争いのシャッフルに入るスーパーGT第7戦オートポリス。数字上のドライバーズチャンピオン争いは、まだまだ多くのチームに可能性が残されているが、実際には現在のランキング上位7〜8台までといったところか。近年のタイトル争いはこのオートポリスと最終戦のもてぎの2戦で大量得点を得たチームがチャンピオンに輝いていることから、今回のオートポリス戦はチャンピオン争いの前哨戦とも言える。ニッサンZがトップ3を占めているだけに、GRスープラ陣営、そしてホンダNSX陣営の奮起を期待したいところだが、たくさんの見どころのなかで今回注目してみたいのは、前回のSUGOで悔しい思いをした3人(3陣営)。このオートポリス戦には、並々ならぬ想いで臨んでいるに違いない。

●ウエット対決でミシュランに敗れたブリヂストンの意地

 まず、最初に聞いたのは、前回SUGO、雨のダンプ(降ったり止んだりを繰り返す)コンディションで圧倒的な速さを見せたミシュランに完敗する形になってしまったブリヂストン陣営。現場の山本貴彦MSタイヤ開発部設計第2ユニットリーダーに聞いた。

「(前戦SUGOで)ウエットで負けてしまったことは真摯に受け止めています。ウエットの一発の速さというよりは、雨の水量が増えたり減ったりしたなかで、特に最初が水量が少ないなかでウチのウエットタイヤはタレが大きかった」

「その後に雨量が多くなったときには、すでにタイヤを痛めてしまっていたのでグリップが戻り切りませんでした。そのタイミングでピットインした12号車(カルソニック IMPUL Z)などはウエットのニュータイヤに履き替えて決して遅くはなかったのですが、やや、時すでに遅しという感じでした。水量の変化といいますか、ウチの弱いところにピンポイントで来てしまったというのがあります」と山本氏。

 降ったり止んだりのダンプコンディションのなかで、ブリヂストンタイヤはウエットタイヤの表面の溝が削れてしまったのが一番の要因だったようだ。

「ウエットはコンディションがよく変わるので、そこに対応できなかったというのが課題だと思っています。そのタイヤ的な課題に加えて、レース中に雨が降ってきたのが久しぶりということもありまして、チームさん、ドライバーさん側としてもウエットタイヤを装着した最初の走り出しでどこまで攻めて走っていいのか掴めなかった。もう少し走り出しでタイヤをケアするような走りだったら、ミシュランさんに対してそれでも遅いですけど、それまでに築いたマージンを食い潰すくらいで終わった可能性があったと思います。そこも含めてはじめての部分、そしてウチの弱いところがあったのは間違いありません。ちょうどいいタイヤがないなりに、やりようはあったと思うのですけど、そこがうまく行きませんでした」

 今後は水量やコンディション変化に幅を持たせたタイヤの開発も進めていくという山本氏。一方、ウエットタイヤでは敗れてしまったが、レーススタート直後のドライコンディションではライバルを圧倒。38号車ZENT GRスープラ、100号車STANLEY NSX-GTがトップ争いを見せ、そのままドライだったなら、ブリヂストンが優勝していた可能性は高い。

「そう思っています」と、ドライでは負けていないことに自信を持つ山本氏。今回のオートポリスではどのような抱負で挑むのか。

「ミシュランさんの2台より前で(同じニッサンZの)12号車が走って、最終戦で決着をつけるという状況にするのはマストだと思っていますし、もちろんランキング上位の得点にもよりますけど、ランキング7位のクルマくらいまでは今回優勝すれば最終戦決戦の可能性が出てくるので、12号車が上に行きつつ、ウチの有力チームが上に来て、チャンピオン争いのチームを増やした状態で最終戦に行きたいですね」

●中盤戦で伸びずに低迷してしまったGRスープラ勢

 前回のSUGOで悔しい思いをしたチーム、ドライバーはたくさんいるが、そのなかでも今回のオートポリスで注目したい1台が、14号車ENEOS X PRIME GR Supraだ。開幕戦でポール・トゥ・ウインを飾って一躍、今季の主役に踊り出たかと思った矢先の第2戦から低迷。前回のSUGO、そしてその前の第5戦鈴鹿ではまさかのノーポイントの結果でランキング7位に落ち、タイトル争いギリギリのラインで今回のオートポリスを迎える。14号車の阿部和也エンジニアが振り返る。

「今回、行かないとマズいですよね。この2戦、僕もセットアップを外した部分があってクルマもパっとしませんでした。ちょっと僕も方針がブレていたし、チームとしてもブレていた感じがありました」と、阿部エンジニア。

「こう言ったら何なんですけど、Zが速い。ニッサンを見なければウチとホンダは、それなりなんです。とくに、ミシュランの2台だけ飛び抜けているだけで、そう考えればこのくらいなのかなという感じもあります。ただ、ウチは中盤に得点ができませんでした。鈴鹿もSUGOもうまく行かなくて、自分としてもスッキリしない2戦でした。今回はそういうところでブレずに、決めるところは決めて臨んでいます。それで成績が出なかったら仕方ないと。今回を含めて残り2戦、思いっきり行こうと思います」

 GRスープラ陣営としては、チャンピオン争いに37号車KeePer TOM’S GRスープラ、そして39号車DENSO KOBELCO SARD GRスープラと14号車が残っている状況だ。今回ウエイトハンデの軽い38号車ZENT GRスープラと合わせて、ランキング争うニッサンZ勢にどのような戦いを見せるのか、大きな見どころになる。

●前回SUGOで3号車に優勝を奪われる形となった23号車

 最後の3人目として注目したいのが、ニッサンZのなかで前回、体調不良のためSUGO戦をお休みすることになった23号車MOTUL AUTECH Zの中島健監督兼エンジニア。お休みしていたその1戦で、23号車はトップを奪いながら、GT300車両のスピンストップが起きた時のピットストップの一瞬の判断で3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zに優勝を奪われる形となってしまった。

「まあ、トップを走っていたから故に、ピットインに対応できてしまったというタイミングがあったので、あれはもう運/不運なので、もうしょうがないなと。たぶん、私が現場に居ようと居なかろうと、同じことが起きていたと思うので、そこは本当にしょうがないなと思いました。たまたま路面もあの(ダンプ)状況で、雨も降るのか降らないのかわからない状況で、そこはもう現場の判断なので、本当に運/不運だったと思います」と、意外にも冷静に振り返る中島監督兼エンジニア。
 
 SUGOの決勝日には自宅でチーム無線を聞きながら、コース上の位置マップをリアルタイムで見ていたというが、中継映像はそれより1~2分遅いため、ピットイン時の無線の対応を聞いて「何が起きたんだ!? と、分からなかったですが、その後にモニターを見て理解しました」という。

 23号車はランキング3位で、同じニッサンZが上位に2台いる状況にも「トップに立ちたいは立ちたいですけど、それくらい、Zという車両が強いんだというポジティブな感じに受け取っています」と、変わらずクールな中島監督兼エンジニア。

 それでも、今週末の抱負を聞いた際には、やはりレース屋としての一面を見せた。

「今回、トップ2台(3号車、12号車)は燃リス(燃料リストリクター)が入っている。当然、ストレートスピードはオートポリスは速いので、そういう意味では条件は厳しいですけど、ウチは燃リスの入っていないクルマのランキング最上位で、オートポリスというサーキットにZは合っているんじゃないかなと思うので、勝ちを狙って進めていきたいですね」

「予選Q1はウエイトも重いので厳しいとは思いますけど、レースになれば強さを発揮できると思っていますので、予選でうまくいかなかったとしてもレースではチャンスはあると思っています。オートポリスはタイヤに厳しいですが、そういう状況に対応したタイヤを選んだつもりですので、当然勝ちを狙っていますけど、なんとか表彰台に登って、最終戦につなげたいですね」と中島監督兼エンジニア。

 上位3台のニッサンZのランキング争い、そしてそのなかのミシュランとブリヂストンの戦い、そして、ニッサンZのひとり勝ちにはさせたくないGRスープラ、ホンダNSXの両陣営の戦いなど、とにかく見どころが多い第7戦オートポリスのGT500クラス。さて、どんな戦いになるのだろうか。