1950年代に日産からアメリカ進出を託されたのが、後に”ミスターK”と呼ばれるアメリカ日産社長の片山豊氏。現地で得た結論が、より排気量の大きなクルマの必要性。510型に刷新されたブルーバードには待望の新型エンジンが採用され、モータースポーツでの活躍とも相まって、アメリカで大きな成功をおさめた。
小型セダンの理想を求めて実現した直線基調のスーパーソニックラインは新たなスタンダード
1981年に日産自動車から発表されたニュースは、長くダットサン・ブランドを愛してきたユーザーやディーラーにとり青天の霹靂だった。ダットサン・ブランドを廃止して、NISSANブランドに統一してしまったのだ。1924年にダット号が生まれ、日本で初めて大量生産方式を取り入れたのがダットサン。それは戦前から、日本のモータリゼーションの同義語として、長年親しまれて来たブランド名だったのだ。
1960年にアメリカ日産が設立された当初は副社長だった、ミスターKこと片山豊氏。アメリカ東西に分かれていた組織を、1965年に統合してロサンゼルスに本社が置かれた時から、アメリカ日産の社長に就任している。片山氏は長らく日産本社へアメリカ市場に向けて排気量の大きな小型セダンを作るよう要請してきた。従来売れてきたダットサン・トラックは1000ccや1200ccの排気量でしかなく、セダンのブルーバードも同じ。燃費は良くてもフリーウェイではパワー不足は否めない。
【写真22枚】ダットサンブランドを世界に羽ばたかせた510ブルーバードの詳細をギャラリーで見る
そこで、すくなくとも1.6リッタークラスのエンジンを採用するよう請願したが、なかなか実現にはいたらなかった。片山氏は東京モーターショーの前身である全日本自動車ショウを立ち上げ、また、オーストラリアで開催されたモービルガス・トライアルに挑戦することを発案、見事ダットサンでクラス優勝。いわば日産の功労者であるが、その後アメリカ日産へ出向。当時の日産社内には片山氏の提言を聞く余地はなかった。
これが覆るのは、通産省出身の松村敬一氏が常務に就任してからのこと。片山氏の説く1.6リッタークラスを実現するため、SOHC6気筒のL型エンジンを4気筒に変更する設計が始まった。こうした背景により、1967年にフルモデルチェンジして510型になったブルーバードは、1.3リッターと1.6リッター、2種類のエンジンが採用されることとなった。
結果的に510型ブルーバードは日本はもとよりアメリカでも空前のヒット作となり、北米で”ダットサン”の名が広く認められる契機になった。俊敏な走行性能、スーパーソニックラインと呼ばれるシャープなボディラインなど、成功する要素はいくつもあったが、やはり最大の要因は価格。ライバル視されることも多く、片山氏も開発前に意識したBMW1602の半額以下だったのだ。
もちろん廉価なだけではない。1969年のサファリラリーで総合3位、クラス優勝とチーム優勝を成し遂げ、翌1970年には総合優勝、クラス優勝、チーム優勝の3冠を達成している。パワフルなL16型エンジンとフロント・ストラット、リヤ・セミトレーリングアームによるサスペンションの組み合わせが際立っていたからこそ。510は現在のヒストリックカーレースでも常勝マシンだ。
1.6リッターエンジンを搭載する510は、日本でSSSと呼ばれるグレード。これは先代の410時代に追加されたグレードで、”スーパー・スポーツ・セダン”の頭文字に由来する。510型ではモデル末期の1970年に、1.6とは別に1.8リッターのL18型を搭載する1800SSSシリーズが追加されている。これは1971年に発売される4代目の610型のメイン・エンジンであり、先行して510に搭載された。あまりに売れるため新型の610が発売された後も、510は1972年まで継続生産され、この時期、2世代のブルーバードが併売されていたのだ。
高回転の1600、中速トルクの1800、どちらも魅力的なL型4気筒エンジン
基本的には、同じエンジンであれば排気量が大きければ大きいほどパワフルになる。ところが1600と1800では、単にパワーだけでなく、エンジンの味付けがまるで違う。1600SSSは回転を上げること自体が喜びであり、特に4000r.p.m.を超えてからのレスポンスが抜群に鋭い。ところが1800SSSでは高回転での伸びよりも中回転域で豊かなトルクを発生する。
取材した510のオーナーである石川和男さんは研究熱心な方で、1600と1800の違いは、トランスミッションとファイナルギア比が生み出していると教えてくれた。200cc分だけ排気量が増え、カタログ上の最高速が1600より上でなければならない。そこで最高速が伸びるファイナルを組み、そこから辻褄が合うようにギア比を選んだのではないか、という推理だ。
確かに乗せていただくと1600SSSで感じられる胸のすくような回転上昇とはフィーリングが少々違う。高回転まで回さなくても車速が上がるからで、実用速度では1600より低い回転で事足りる。中回転域でのトルクが豊かだが、丁寧なアクセルワークが求められる。この特性を飲み込めば、タイトコーナーなど回転が落ちてからの立ち上がり加速が抜群に速いはず。また、オーナーによれば1600よりもやはり高速走行が楽だとのこと。
石川さんは若い頃から数台の510を乗り継いだ後、この510を手に入れている。それが今から39年前のこと。その当時からフルノーマルで、塗装もいまだに新車時のままというコンディション。一時期、太いタイヤを履いたところ、良いことがひとつもなく、すぐに純正に戻したという。
ダットサンの名を広く知らしめた510。いまでは”素性が良いから長く楽しめるヒストリックカー”の代名詞となったようだ。
【specification】ダットサン・ブルーバード1800SSS(1970年型)
●全長×全幅×前高:4095×1560×1420mm
●ホイールベース:2420mm
●トレッド(F/R):1270/1270mm
●車両重量:945kg
●エンジン形式:水冷直列4気筒SOHC
●総排気量:1770cc
●圧縮比:9.5:1
●最高出力:115ps/6000r.p.m.
●最大トルク:15.5kgm/4000r.p.m.
●変速機:4速M/T
●懸架装置(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
●制動装置(F/R):ディスク/機械式ドラム
●タイヤ(F&R):5.60S-13-4PR
●新車当時価格:78.3万円
投稿 【国産旧車再発見】世界に羽ばたいたベストセラー”ファイブ・テン”、1970年製ダットサン・ブルーバード1800SSS は CARSMEET WEB に最初に表示されました。