ヌテララテ
シンガポールを拠点とするコーヒーチェーン「フラッシュコーヒー」。その最大の特徴は、「コーヒー業界のIT化」。創業から2年で250店舗を超え、昨年12月には表参道に日本1号店もオープン。ますます勢いを増すフラッシュコーヒーは、高級志向のカフェから手軽なコンビニまでさまざまな価格帯のコーヒーがひしめく日本市場でどのように動いていくのか? 日本事業の責任者である松尾ポスト脩平さんに話を聞いた。
創業2年で世界250店舗を展開! フラッシュコーヒーって?
――フラッシュコーヒーは2020年1月に創業したばかりの若い会社なんですね。
そうですね。創業者がインドネシアで創業し、シンガポールを本社とするグローバルコーヒーチェーンです。現在はインドネシア、タイ、シンガポール、台湾、香港、韓国、日本の7つの国と地域で250店舗以上を展開しています。
――こうも早いペースで拡大できた理由はなんでしょうか。
フラッシュコーヒーはインドネシア、シンガポール、タイ……と展開したのですが、いずれも店舗の候補となる不動産を見つけて契約し、オープンするまでの間隔が短い土地なんです。それが創業からたった2年で200店舗以上を展開できた理由の一つです(現在は250店舗以上)。
創業当時は、ちょうど新型コロナウイルスが世界的に広まった時期と重なります。飲食店への打撃は大きくて、いろいろな飲食店が撤退していきました。ただ、同時に不動産価格が下がっていく傾向が見られたので、チャンスだと見たようです。
――なるほど。とはいえ、資金的にそう簡単に規模を拡大できませんよね。
2021年4月に日本円で約15億円の資金調達をしたんです。
――それほど将来性を見込まれた?
そうですね。最初のお店は自身の投資金で初めて、すぐに結果を出したことで、投資家に認められたと聞いています。
松尾ポスト脩平さん/日本事業の責任者。lululemonのリージョナルマネージャーやWeWorkのシニアディレクターなどを経て、2021年11月にFLASH COFFEEに入社。
――フラッシュコーヒーの最大の強みは何でしょうか。
一つは高品質のコーヒーを手ごろな価格で提供していることです。たとえばインドネシアですと、チェーン店のコーヒーでは週に1~2度しか飲めないぐらい高い。おいしいコーヒーを安く提供できるブランドが見当たらなかったという状況でもありました。
アボカドラテ、パームシュガーラテ、ヌテララテ、マカデミアラテ……これらはアジア各国で提供している我々のシグネチャーですが、フラッシュコーヒーらしいドリンクも特徴と言えますね。
もう一つ、これが最大の強みと言えますが、我々がテクノロジーを駆使したコーヒーチェーンであることです。高品質なドリンクを簡単に専用アプリで注文し、店頭での受け取り、または各市場の主要プラットフォームを通じて配達を依頼することができます。オフラインが主流の今日のコーヒー業界のデジタル化を目指しているんです。
――グラブ・アンド・ゴーですね。
はい。アプリで支払いを済ませるので、店頭で待たずに持ちかえることができます。お客様にとって便利なだけでなく、我々も大きな店舗を構える必要がなく、人件費や家賃というコストも抑えることができます。そのおかげで、お客様に安い値段でコーヒーを提供できるというわけです。
ピンクベリーモカ。ラズベリーシロップ、トッピングのストロベリーと桜など、3種のピンクが楽しめる期間限定のドリンク
日本市場をどう見ていた?
――フラッシュコーヒーが日本に上陸したのが2021年12月。今の状況はいかがですか?
表参道に1号店をオープンし、今年の3月25日には2店舗目を大手町にオープン。現在は東京都内に3店舗目も構想中、というところです。とても順調だと思っています。
――日本の第一号店に表参道を選んだ理由は?
新しいことに敏感な方たちが集まるのはやはり表参道だと思うんです。特に青山通りはトラフィックもありますし、週末になればいろいろな方がお越しになります。ほかに比べれば家賃は高いですが、話題性やマーケティングも考えれば、表参道に出店する価値は十二分にありますね。
2号店の大手町では、ほかのマーケット以上にオペレーションの正確さとスピードが求められているように感じています。表参道とはまったく違う土地ですが、いろいろなポートフォリオが大切だと考えていて、表参道は路面店ですし、大手町はビルの中です。ロケーションも客層も違うところで成功することで、今後の展開にいい自信を与えてくれるはずです。
エナジェティックイエローとコンフィデントピンクはフラッシュコーヒーのブランドカラー
――松尾さんは日本における展開を一手に担っているんですか?
創業者と相談しながら、日本での戦略を立案しています。
――どういう経緯で今のポストに就いたんですか?
これまで海外ブランドの日本進出を手がけた経験があって、オファーをいただいたんです。飲食業の経験はありませんでしたが、新しいことにチャレンジしたいという気持ちと、フラッシュコーヒーのミッション「DARE TO BE DIFFERENT」に魅力を感じたことが大きいですね。
――日本市場への参入前に想定した競合他社はありましたか?
実はいないんです。メニューを見ればコンビニのコーヒーではなく、カフェのコーヒーなのですが、高価格帯ではありません。つまりコンビニとカフェの中間がブランドのポジショニングなんです。
――日本ならではのむずかしさは何でしょうか。
東南アジアではスピード感を持って展開できたと申し上げましたが、日本ではそれができません。なぜなら、不動産を見つけることにも時間がかかりますし、内装を作っていくことにも時間がかかるからです。また、初期費用も東南アジアに比べれば高くなります。
ただ、日本や韓国はほかの国と比べてポテンシャルがありますし、コーヒーの消費量も多いので、マーケットを取っていくことによって、いずれ世界展開も見込める場所だと位置づけています。
もちろん、日本や韓国は競争が激しい。お手ごろな価格でおいしいコーヒーを飲めるところもたくさんあります。価格だけでいえば、コンビニでも100円で世界が認めたバリスタのコーヒーが飲めるんです。
そのため、日本では一概に値段勝負ではないなということも感じています。それでも、日本ならではの特徴を理解した上でブランドの認知度が上がっていけば、展開するスピード感も増していくのかなと思いますね。
みたらしラテ。世界チャンピオン監修による日本の独自メニュー。みたらし団子を食べながら、コーヒーを一緒に飲んでいるような味が楽しめる
――グラブ・アンド・ゴーの利用率はどのくらいなんでしょうか。
2~3割ほどですね。これを半分ぐらいまでもっていくのが目標です。テクノロジーを駆使したサービスは、我々が他社と差別化を図れる部分ですから、利用者が増えることで独自のポジショニングができると思っています。
もちろんホスピタリティーを軽視しているわけではありませんが、お客様が我々に求めているのはスピード感だと思っていて、店内には座れるスペースも用意していますが、どちらかというとグラブ・アンド・ゴーにフォーカスしていきたいと思っています。
アパレル、飲食を経験したからわかること
――松尾さんはこれまでアパレル業界(小売)での経験もあるそうですが、飲食業界との共通点、逆に異なる点を教えてください。
共通点としては、お客様がお店を利用したときの気持ち、カスタマー・エクスペリエンスが大切なことです。すごくいい体験をしたら、きっと友人・知人に伝えたり、SNSで発信したり、レビューを書いたりしてくれるでしょう。それはアパレルも飲食も変わりません。
異なる点は、同じ接客業でもコンバージョンが大きく異なること。アパレルだと、お客様がお店に入ってきても買うとは限らないんですよ。そのため、私の経験では10パーセント、つまり入店100人のうち、10人が購入してくれたらいいコンバージョンと言われている店舗も少なくありませんでした。お店の滞在時間も少し長いので、買っていただくための接客になります。
一方、飲食店でもコーヒーは来店の100パーセントが購入されます。グラブ・アンド・ゴーに見られるように滞在時間も短い。ですから、お客様が求める安定した味を、時間通りに正しい量で提供することが大事ですよね。その意味で、オペレーションがかなめかなとも思います。
――アパレルよりも来店してもらう、認知度を上げることが重要になりそうですね。
そうですね。我々のプロダクトをいかに伝えるかがキーだと思っています。もちろんアパレルでもそうだと思いますが、有名人が来たとか、お店の外観が目立つとか、友達がSNSでアップした写真がおいしそうだったとか、認知度が上がる要素はたくさんありますね。
アイスドリンクの紙製カップ
――フラッシュコーヒーは環境への取り組みにも積極的ですね。
積極的に取り組んでいますね。一つはアイスドリンクの紙製カップの採用です。大手町のOOTEMORI店のオープン日から変更しています。これはフラッシュコーヒー全7マーケットでも初の試みです。
もう一つはCleanHubとのパートナーシップです。これはお客様がフラッシュコーヒーのドリンクをアプリで購入するたびに、1ドリンクに使用されているプラスチックの重さと同じ量のプラスチックを回収する(15円プラスするとその10倍回収できる)というもので、すでに8万キロの回収が決まっていて、そのうち6万キロは回収しています。これからは環境への取り組みは企業として当たり前のものとなっていくでしょう。
――最後に、松尾さんが日本事業の責任者として、大切にしていることは何ですか?
我々のコアバリューの一つである「Empowerment」です。私はたしかに日本の責任者ですが、だからといって、私一人の力でフラッシュコーヒーを成功に導くことはできません。コーヒーにくわしいのはバリスタですし、店舗運営に関しても、現場のマネジャーがくわしい。ですから、スタッフの意見を聞きながら、今後していくべきことを考えるようにしています。
トップダウンよりもボトムアップですね。自身の経験から「こうすべき」と率先して意見を言えることもあれば、各ポジションのエキスパートの意見を聞くこともある。それぞれの経験を生かすことで初めてチームが成り立つんです。ですから、誰でも意見が言える環境づくりをしっかりしていきたいですね。
フラッシュコーヒー
https://flash-coffee.com/jp/