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普通車180km/h、軽自動車140km/hの日本だけの速度自主規制「スピードリミッター」に意味はあるのか?

 国内市場向けの日本車では、一部の例外を除いて乗用車は180km/h、軽自動車は140km/hで作動するスピードリミッター。道路運送車両法の保安基準などの法律で規制されているわけではなく、あくまでメーカーの「自主規制」によって設定されている装備だ。

 日本の最高速度は現在、新東名や東北道の一部区間で120km/hに引き上げられている。一方、世界各国の最高速度(自家用自動車、高速道路)をみると、速度無制限と知られるアウトバーンは速度無制限区間と130km/h区間がある。

 そのほか、最高速度の高い国はポーランドで最高速度140km/h。最高速度130km/hに設定されているのはフランス、イタリア、オランダ、ギリシャ、ルーマニア、ハンガリー。最高速度120km/hはポルトガル、トルコ、スペイン。最高速度110km/hはロシア、スウエーデン。イギリスでは最高速度112km/h。

 アメリカでは65マイル(約104km/h)か70マイル(約112km/h)になる地域が多いが、テキサス州の一部地域では85マイル(137km/h)となっている。

 速度無制限のドイツを除いて、そのほかの国では最高速度が設定されている。それなのになぜ、日本車だけが速度リミッターが普通乗用車180km/h、軽自動車140km/hとなっているのだろうか?

 日本ではルールの白黒が明確ではない「グレーゾーン」のなかで存在し続けているスピードリミッターは、いまさらながら意味はあるのか?

文/岩尾信哉
写真/HONDA、TOYOTA、NISSAN、BMW、ボルボ、メルセデス・ベンツ、ベストカー編集部

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■日本だけ? スピードリミッターは合法なのか?

2022年登場のホンダ シビックタイプR
2022年10月時点でもっとも新しいスポーツモデルのひとつであるホンダ シビックタイプRのメーター。時速320kmまで表示できる

 スポーツカー好きで最近盛り上がっている話題は、新型シビックタイプRだろう。日産GT-Rと同様に、ナビゲーションシステムやGPSなどの位置情報を元に、全国のサーキット13ヵ所でスピードリミッターが解除できるよう設定されているとのことだ。

 欧州メーカーに目を向けると、ドイツの「ビッグスリー」では、メルセデスAMGなど一部のスポーツモデルを除いて、最高速度は自主規制によって250km/hに抑えられている。むろんイタリア生まれの多くのハイパフォーマンスカーなどでは未設定もしくは非公表とされている。

 過去には燃料噴射を抑制してエンジン出力を減少させ、走行速度を減速させる単純な制御が実施されていたが、現在では電子制御技術の進化とともに、トランスミッションなどを含めた、車両の統合制御のもとに速度抑制機能を与えている。

 日本車では基本的に速度リミッターを普通車で180km/h、軽自動車では140km/hに設定して装着されている。高速道路では上下速度を100km/h、一部区間で120km/hに設定しているので、法律上は公道上でリミッター制御を経験することはないことになる。

 シビックタイプRでは、GPS/ナビゲーションシステムを利用して、全国各地のサーキットを認識。スポーツ走行を想定して、速度リミッターの解除を可能としている。

 2年前、筆者が国産メーカーに、スピードリミッター作動装置についてアンケートを取った。ホンダ、マツダ、スバルは「180km/hでのスピードリミッター作動」との回答を得た。トヨタは、基本的に制限速度に関して非公表の立場をとっているが、車種ごとに性能に応じて対応しているとのこと。

 日産はスピードリミッターを設定して“自主規制”しているとはいえ、具体的な数値の回答はなかった。トップパフォーマンスモデルであるGT-Rでは周知の通り、GPSによる位置情報を基にサーキットでの走行などではスピードリミッターが解除される機能を備える。

 三菱からは、より明確な設定内容を説明された。国内向けの乗用系車両の制限速度は180km/h、軽自動車と電気自動車のi-MiEVは130km/hを設定。ダイハツ、スズキは非公表とのことだった。

■なぜ生き残っている速度リミッターの自主規制

高速道路で105km/h(普通車、軽自動車は85km/h)を超えると、「キンコン♪キンコン」という鉄琴のような音が鳴り出す速度警告チャイム音。この警告音の発生装置は1974(昭和49)年から車両の保安基準として義務付けられたもので、日本で生産され国内で使用する車両について、普通乗用車で車速が100km/h(実速度では約105km/h)、軽自動車で80km/h(同:約85km/h)で設定され、速度超過をドライバーへ警告するために装着されたが1986年には廃止された
AE86のコクピット。『頭文字D(イニシャルD)』でも速度描写の1つとして速度警告チャイムが描かれている

 自動車工業会に日本メーカーのスピードリミッターの設定について問い合わせてみると「自主規制とよくいわれますが規制でありません。自動車メーカーが個別に対応するということです」とのことだった。

 乗用車両の最高速度制限に関する日本メーカーによる自主規制の起源についても聞いてみると、昭和50年に国土交通省が自動車メーカー各社に口頭で内容を通達したとされ、書面等で公式に残されたものではないという。

 具体的な速度設定については、どう決められたのかについては「高速道路の6%の上り勾配を100km/hの車速を維持するには、平坦路では180km/hで走行可能であることが必要」とされ、同様に軽自動車は140km/hに設定されることになった経緯があるという。

 スピードリミッターの制御に関しては、1980年代に採用が始まった電子制御による燃料噴射と車速センサーを組み合わせて燃料噴射を停止するという、今から考えれば少々乱暴ともいえる速度制限が行われていた時代もあった。

 現在では機能的にはECUによるスロットルなどを含めたパワートレインの統合制御が基本となる。

 どうも日本車の感覚でいえば、スピードリミッターすなわち「速度抑制装置」の解除というと、公の規制として法定速度(公道での上限速度)が存在するのだから、どうしてもアウトロー的なイメージがつきまとう。

 かつて1990年代の一時期の280ps自主規制のような場合を含めて考えてみると、そもそも法律上の車両保安基準が存在しないことを考えれば、システムそのものの「合法」「違法」を問い正すまでもない。

 現代ではECU(エンジンコントロールユニット)のプログラム変更などにより速度リミッターの解除が可能なことは、クルマ好きなら承知しているはずだ。

 ただし、速度リミッター解除がもたらす安全上の「社会的リスク」、かみ砕いて言えば、他人を巻き込みかねないような、車両の性能限界を超えた違法な暴走行為が問題なのだ。

 だからこそ先のタイプRやGT-Rが主なクローズドサーキットでのリミッター解除が許されるわけで、要は操る人間側のモラルに関わる要件といえる。

2018年6月、JARIにてベストカー本誌が行ったR35GT-Rの最高速はGT-Rの最高速実測値は311.17km/h、メーター読みは321km/hだった

 速度リミッターの解除については、本来ならパフォーマンスを求めるドライバーが理性と欲望を天秤にかけて判断すべきであり、最終的にはよく言われる「自己責任」にたどり着くことになる。

 たとえば、日本ではほぼ一律に実施されている速度抑制は、海外の自動車メーカーは車種・グレードごとに対応しており、コンパクトカーでもスポーツグレードには未設定という場合がある。

 法定速度やPL法が存在する世の中においても、自動車メーカーはユーザーを選べないのだから、使い方はあくまで所有する側に委ねられている。

 理想論的ではあっても、ドライバーが自主的に理性を抑えられれば問題なく、極論すれば日本での速度リミッターは、メーカーのユーザーに向けての「お節介」あるいは官憲への「忖度」という領域に触れているともいえる。

■EUでは速度リミッターの義務化が進もうとしている

BMW 330iMスポーツの最高速は電子制御リミッターによって250km/hに抑えられる。0-100km/hの加速タイムは5.8秒

 基本的に速度制限制御を実施していないと欧州車メーカーは、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ、ベントレー、ロータス、ポルシェといった名だたるスポーツカーブランド。

 速度無制限のアウトバーンでの走行性能を考慮するドイツ勢に関しては、たとえばBMWは全モデルにおいて「200~250km/h」。ドイツ系のメーカーではカテゴリーに関係なく、コンパクトクラスであっても同様の設定となるようだ。

 一方、メルセデスAMGモデルについては「AMGドライバーズパッケージ」の名称で、250km/h→270km/h、300km/hに替えられるスピードリミッターの設定があるという。

 スポーツドライビングは車両や走行状況を問わず、ドライバーの安全への意識のうえに成り立っている。自動車メーカーがどのようにユーザーに対して意識づけあるいは啓蒙するかは常に難しい課題に違いない。

スピードリミッターの設定速度がパッケージオプションを選ぶと変更できるAMG各モデル。写真はS63クーペで250km/hから300km/hに変更

 自動車メーカーとして速度抑制制御について一歩踏み込んだのが、積極的に安全性向上に取り組んでいるボルボだ。同社は2020年5月に、2022年7月以降に販売するすべての新車に関して、180km/hのスピードリミットを設定することを明らかにした。

 日本市場においては、2020年夏から秋にかけて発売した2021年モデルより、180㎞/hの最高速度制限が入っている。 このうち、2022年に追加発売したC40 Recharge Plus Single Motorと、XC40 Recharge Plus Single Motor (いずれも電気自動車)は、最高速度が160㎞/h制限されているという。

 さらに車載カメラなどを利用した画像処理による標識認識システムやGPSなどのナビゲーションシステムなどを用いて、自動的に速度を抑制するASL(自動速度リミッター)、必要に応じて一時的な速度超過を許すオーバーライド機構、リミッターのON/OFF機能を備えるなど、ユーザーを機能に縛りつけることないような寛容さも与えているから、ユーザーが受け入れやすく配慮されている。

ボルボは2020年5月に、他の欧州メーカーに先駆けて180km/hの速度リミッターを2020年7月以降に発表された新型車に設定することを表明した。新車発売の時期は欧州市場とのずれがあるから、日本市場で詳細が明らかにされるのは今後ということになるだろうが、EUでは速度リミッター装着の義務化が進もうとしている

 すでにEUでもボルボと同様の速度抑制装置の装着義務化が進んでいる。欧州委員会は2022年7月に速度抑制システム「インテリジェント・スピード・アシスタンス」(ISA)の新車時の装着義務づけを決定している。

 機能としては、設定された制限速度を超えた場合、ブレーキ操作には介入せず、車速が設定値を下回るまで緩やかかつ段階的に制御するという。ISAが作動するとアクセルペダルが反応しなくなるが、オーバーライドを可能としてアクセルを強く踏めば加速できる設定としている。

 もし制限速度を超えて運転し続けた場合、ISAシステムは警告音を発し、ディスプレイにも数秒間警告を表示する機能を持たせている。ちなみに制限速度や付随する機能の設定内容については、個々の自動車メーカーに委ねている。

 忘れてはならないのは、速度リミッターが解除できても、自動車メーカーには厳密な耐久性の基準が存在しており、過度な負荷が加わった場合は保証の限りではないということだ。。性能を限界まで引き出すという欲望をかなえることは、ユーザーとして安全性を含めてリスクを背負うことを肝に銘じておきたい。

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