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EVは走りながら充電できれば超便利なのに…走行中ワイヤレス充電の「夢」と「壁」

 バッテリーEVの普及や自動運転化が進む中、大きな注目を集めているのが、走行中に道路から給電して自動で充電してくれる「走行中ワイヤレス充電システム」です。実現すれば、ケーブルを接続して充電する手間が省け、電欠を心配するストレスから解放され、搭載バッテリーが小さくできるなど、バッテリーEVにとっては大きな追い風になります。

 将来有望なワイヤレス充電のメリットと課題、今後の展望についてご紹介します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:Adobe Stock_ JYPIX
写真:Adobe Stock、写真AC、イラスト:著者作成

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駐車状態でのワイヤレス充電は、実用段階に

 ご存じのとおり、バッテリーEV(以下、BEV)やプラグインハイブリッドの充電は、クルマを公共の充電施設や家庭の充電器の前に駐車して、充電用ケーブルを接続して行います。どこにでも充電スポットがあるわけでなく、また充電時間は急速充電でも30分以上を要するため、ユーザにとっては手間と時間のかかる作業のひとつです。

 一方、いま開発が進められているクルマのワイヤレス充電は、駐車場に埋め込んだ給電装置から電磁誘導作用や磁気共鳴作用によって電力を給電するシステムです。スマホのワイヤレス充電で使用されている電磁誘導式は、送電可能距離が短いことから、BEVではクルマの地上高の距離でも効率よく給電できる磁界共振方式が主流となっています。すでに自動車メーカーや電機系メーカー、大学などで実証試験が行われ、技術的には実用段階に入り、国際標準化・規格化が進められています。

 しかし、標準化・規格化が進んだとしても、ワイヤレス充電のためのインフラ整備が必要で、クルマ側も、受電装置の高電圧に対する安全性やコストアップを克服しなければならないなど、実用化まではまだまだ時間を要するというのが現状です。

ワイヤレス充電は、充電ケーブルを接続することなく、駐車場に埋め込んだ給電装置から電磁誘導作用や磁気共鳴作用を利用して電力を給電するシステム(イラスト:著者作成)

走行中ワイヤレス充電ができれば、BEVの課題が一気に解消

 駐車状態でのワイヤレス充電が実用化すれば、いよいよ走行中ワイヤレス充電へと進めることになります。走行中ワイヤレス充電は、高速道路や街中の交差点などの道路に給電装置を埋め込んで、そこを走行・停車するクルマが充電できるシステムです。

 走行中に充電できれば、これまでのように充電スポットを探すとか、充電ケーブルを接続して充電するという充電作業そのものが不要になります。また、走行中にバッテリー切れの心配がなくなれば、搭載バッテリーの容量を小さくすることができ、バッテリーコストの低減や、車両軽量化(ぐるっと回って電費改善)にもつながります。さらに進んで、完全にバッテリー切れが解消されれば、走行可能距離を原理上無限にする(充電することなく走り続ける)こともでき、バッテリー自体も搭載する必要がなくなります。

 以上のように、現状のBEVの課題が軽減、解消できる走行中ワイヤレス充電が現実のものとなれば、BEV普及にとっては大きな追い風となり、BEV化が一気に進むことが期待されます。

課題は受電装置とインフラ整備、安全対策

 駐車場でのワイヤレス充電は、今後実用化され徐々に普及すると思われますが、走行中ワイヤレス充電の実用化については、まだまだ克服しなければならない難題がたくさんあります。

 技術的な課題としては、短時間に大きな電力を給電できる給電能力のアップや、充電時に周囲に与える電波障害の回避、トラックなどに踏まれても壊れないだけの強度、などがあります。なかでもハードルの高い課題としては、クルマ側に受電装置を搭載しなければいけないこと(現時点ではサイズが大きい)や、道路側に充電装置を埋め込むインフラの整備、街中で大電力を送電する際の安全性対策、などです。

 BEVの床下は、通常大量のバッテリーを敷き詰めているのでスペースに余裕はなく、ここに最低地上高を確保しながらそれなりのサイズの受電装置を搭載するとなると、クルマの基本設計を一から考え直さなければいけません(いきなり大容量バッテリーをなくすわけにはいかない)。無理やり搭載するとなると、フロア構造を2段にしたり、BEVでせっかく無くしたセンタートンネルの膨らみが再び復活するなど、大変です。また、路面に給電装置を埋めるという大掛かりなインフラ整備が必要になり、時間も費用もかかるので、最初は限定的、段階的な対応になると思われます。

 また、走行中にワイヤレス充電するとなると、急速充電並みの100kW~200kW程度の大電力を街中、道路上で送電することになります。となれば、送電装置と受電装置の間に金属が入ると発火する可能性があり、間に動物や人間が入り込む可能性も否定できないので、安全対策は重要です。

実用化まではまだ遠い

 日本では、自動車メーカーや電機系メーカー、大学など産学共同で、研究所やキャンパス内に試験コースを使って、走行中ワイヤレス充電の技術開発を進めている段階ですが、海外ではもう少し積極的に進めています。すでに、欧州各国では一般道路を使った実証試験の準備を進めており、イギリスや韓国では実際の道路でBEV専用レーンを設けて実証試験を始めています。

 走行中ワイヤレス充電が注目されているのは、BEVのためだけではありません。自動運転にとっても、必須の技術であり、大きな役割を担います。自動運転なのに、充電はドライバーがケーブルを接続して行うのでは、とても自動運転とはいえず、完全な自動運転のためには、バッテリー切れの不安がない走行中ワイヤレス充電が不可欠なのです。

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 走行中ワイヤレス充電は、本格的な電動化時代と自動運転時代の到来のために必須の技術であり、実用化されれば電動化と自動運転の世界が大きく前進すると思われます。

 しかし、道路に給電装置を埋め込むというインフラ整備がそう簡単にできるとは思えません。最初は、決められたコースを走るバスやトラック、例えば空港内で人や荷物を運ぶバスへの適用などから実用化されるのではないでしょうか。私たちが乗る電気自動車が走行中ワイヤレス充電できるのは、早くとも2030年以降になりそうです。

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