2022年F1第20戦メキシコGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。今回は、メルセデスはメキシコでなぜ速かったのか、それにもかかわらず、なぜ勝てなかったのかについて探る。
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まず最初に、メルセデスがこの週末に競争力を発揮できた二つの理由について述べてみよう。ひとつはシルバーアローの進化だ。特にフロントウイングで、メルセデスはオースティンに用意した仕様を再設計して導入した(下記写真)。そしてもうひとつが、このサーキットの特殊な条件だった。
メキシコシティは標高約2,240mに位置するため、空気中の酸素濃度は約25%も低い。空気の分子が少ない分、各チームは最も負荷のかかる空力構成を選択せざるを得ない。
モナコと同じウイングを使用しているにもかかわらず、メキシコシティの実効ダウンフォースレベルは、実はモンツァと同等なのだ。そのため長いストレートの終点では、時速350km以上まで伸びる。
するとメルセデスのW13のような、もともとダウンフォースや抵抗の大きいマシンは有利になる(空気が非常に薄いため、大きいドラッグという欠点が目立たなくなる)。
オースティンの予選でメルセデスはフェラーリ勢よりコンマ6秒遅かったが、メキシコシティではジョージ・ラッセルのドライビングミスやルイス・ハミルトンのエンジンの不調にもかかわらず、コンマ3秒差でポールポジションを逃すにとどまった。
さらにサーキットに段差がないことも有利に働き、ハンドリングの向上と相まって、W13の競争力を左右する低車高での走行を可能にした
■メルセデスが勝てなかったふたつの理由
ではこれだけ有利な状況で、なぜメルセデスは今季初勝利を挙げられなかったのだろう。まず純粋な速さでは依然として、W13はRB18に劣っているからだ(同じタイヤコンパウンド、消耗度合い、同じ量の燃料で比較した場合、マックス・フェルスタッペンはメルセデスドライバーより1周0秒15速かった)。
2つ目は、メルセデスのストラテジストがタイヤの評価を慎重に行いすぎたことだ。1ストップと2ストップのどちらが最良か、最後まで迷い続けた。さらにミディアムタイヤでスタートしない限り、1ストップ作戦は不可能だと思い込んだ。
16周で劣化すると言われていたソフトでは、1ストップで走り切るのはありえないはずだった。しかし実際にはフェルスタッペンは25周目、ベッテルは38周目まで唯一のタイヤ交換を引っ張って、そのままチェッカーを受けている。
メルセデスの過剰な警戒心に、予想外の気温の低下が重なった。路面温度はスタート時の47℃から終盤には39℃へと急速に下がり、ソフトタイヤに大いに有利になった。
反対にメルセデスが第2スティントに選んだハードタイヤでは、ウォームアップが非常に難しくなった(ハミルトンとラッセルはフロントタイヤのグリップ不足を何度も訴えた)。このような低温コンディションでは、ハードタイヤは期待されたグリップも耐摩耗性でも大きなアドバンテージがなく、ハミルトンはフェルスタッペンから15秒遅れでのフィニッシュが精一杯だった。
メルセデス陣営はレッドブルのミディアムが、レース終了前に崩壊することを最後まで望んでいた。しかしそれは、ついに起こらなかった。今シーズン、フェラーリの戦略担当エンジニアたちが常に間違っていたとすれば、この週末のメルセデスの戦術家たちの酷さは、彼らに引けをとらなかったと言える。