マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポール・トゥ・ウインを飾り、年間最多勝となる14勝目を飾った直後のレッドブルのホスピタリティハウスの前には、通常であれば陣取るはずのテレビ局のクルーの姿がなく、F1の公式カメラクルーしかいなかった。
クリスチャン・ホーナー代表はその理由を次のように説明した。
「一部のテレビ局の人間が発した発言は、到底、容認できるものではない。コメンタリーにはバランスが求められる。もちろん、素晴らしい解説者もたくさんいるが、一部の者はあまりにもセンセーショナリズムが強すぎる。今回の一件は、度を越した公平性に欠けるコメントや非難だった。だから、そういった報道姿勢に抗議する意味を込めてボイコットを行った」
問題が起きたのは、メキシコGPの1週前に開催されたアメリカGP期間中に、イギリスのスカイ・スポーツF1のピットレポーターであるテッド・クラヴィッツが発したコメントだった。それは、2021年のタイトルは盗まれたものだという内容だった。それは最終戦アブダビGPの逆転劇のことを示唆していることは言うまでもない。
フェルスタッペンとルイス・ハミルトン(メルセデス)が同点で迎えた最終戦。レースはハミルトンが終始リードしていたが、レース終盤に起きた事故でセーフティカーが導入され、ファイナルラップに再スタートがきられるとフェルスタッペンがハミルトンを逆転して、初のチャンピオンに輝いた。
しかし、レース後、再スタートの手順を巡ってメルセデスが抗議するも、レーススチュワード(審議委員)が抗議を却下。メルセデスは国際控訴法廷への上訴も辞さない構えを見せていたものの、国際自動車連盟(FIA)が「後日、検証する」ことを約束したことで、フェルスタッペンのチャンピオンが確定したという騒動があった。
確かに当時レースディレクターを務めていたマイケル・マシのレースの再開方法は通常とは異なり、それが混乱を生じさせ、物議を醸したことは否定できない。しかし、それはフェルスタッペンおよびレッドブルが仕組んだものではなく、混乱を招いた責任はマシとFIAにある。
その後、マシはレースディレクターの職を離れた。それため、ハミルトンを応援するファンの中には、その不満の矛先を今度はフェルスタッペンやレッドブルに向けたのである。そして、クラヴィッツはそうしたファンに向けて過激なコメントをすることで支持を得ようとしたのではないか。
だが、それが正しい報道でないことは言うまでもない。
オランダのメディアによれば、フェルスタッペンはアメリカGPでの発言だけが原因ではなく、今年に入ってから、ある特定の人物から繰り返し、侮辱的な発言を浴びせられ続けたと言う。その人物がクラヴィッツであることは言うまでもない。アメリカGPでの発言で、フェルスタッペンの忍耐はついに限界を超え、メキシコGPでスカイ・スポーツF1の取材を拒否した。
この問題はフェルスタッペンとクラヴィッツの間の衝突にとどまらなかった。ホーナーは言う。
「『チャンピオンシップが奪われた』という発言は、完全にメディアとしての公平・中立性から外れている。マックスはとても怒っていた。だから、チームとして彼を全面的にサポートするという意味を込めて、チームとして、今週末はスカイの取材を受けない休暇期間を取るという決断を下した」
グランプリ期間中、ホーナーはセッションの後にスカイ・スポーツF1のインタビューに生出演して、走行の考察や予選やレースに向けた分析を行っている。セッション後というのは、エンジニアとのブリーフィングがあり、チーム代表は忙しいのもかかわらず、ホーナーが出演してきたのは、テレビカメラを向こうに側にいるF1ファンのためを思ってのことだった。しかし、それを伝える側のテレビ局が偏向した報道をするのであれば、協力はしないというのがレッドブルの姿勢だった。
それはイギリスのスカイ・スポーツF1だけに対するものではなかった。ヨーロッパにはスカイ・スポーツ系列のテレビ局がイタリアとドイツにあり、またヨーロッパの各国をカバーしているスカイ・スポーツ・ニュースというチャンネルもあるが、メキシコGPでレッドブルはチームとして、すべてのスカイの取材をボイコットした。
ただし、メキシコGPのレース後の会見で、ホーナーは「今回はお互い冷静になって考えるいい機会となったはず。次戦ブラジルGPからは取材を受けようと考えている」と語っている。
果たしてスカイ・スポーツF1はクラヴィッツをこれまでと同じように現場へ派遣するのか。もし派遣されたとして、クラヴィッツはフェルスタッペンとどう接するのか。そして、フェルスタッペンはどう対応のか。
発端となった昨年の最終戦から約1年が経とうとしていたこの時期に噴出した両者の不満。それだけにこの問題は根が深く、1戦限りで落着とはいかないような気がする。