少し前まで、普段利用している路線バスに乗ると、観光バスのような前向きシートが並んだクルマに出くわす機会がごくたまにあった。一瞬乗り間違えたのかと思ってしまうほどだが、運賃も同じ普通の路線バスなのだ。
そんな設備の路線バス車両を総称して「ワンロマ車」と呼ぶ。果たしてどんなバス車両なのだろう?
文:中山修一
写真:中山修一/バスマガジン編集部
路線車と高速車のイイとこ取り
ワンロマ車は、一般路線バスでの営業運転のほか、高速バスとしても使用できるように作られた、路線車と高速車の中間(路線車/高速車の違いはコチラ!)にあたるバス車両だ。
外見は路線車に近く、一方の内装は高速車に寄せてあり、路線車のベンチシートに比べると快適であるのがワンロマ車の特徴。高速道路を走行するためシートベルトも客席に付いている。
「ワンロマ」という言葉自体は、京王電鉄バスでの呼び名がルーツと言われている。ワンマンとロマンスシートを掛け合わせた「ワンマンロマンスシート」を略したものだ。
ロマンスシートは正面向き2人がけの座席を意味する和製英語で、昭和初期に宣伝文句の一つとして使われ始めたらしい。ロマンスシートの起源は映画館とも鉄道の車内設備とも伝えられる。
英語ではロマンスシートのことをラブシートと表現する。ラブシートの歴史は17世紀頃から始まり、初めは女性用であった。当時はドレスの幅が広かったため、1人がけのイスに2人分のワイドさが必要だったわけだ。
後にファッションが変化するにつれて、ラブシートもカップルをターゲットにした販売方法に変わっていった。日本のロマンスシートが海外のラブシートからヒントを得たものであるのか、接点はなく偶然似たような発想で誕生したものなのかは不明だ。
ワンロマ車に標準装備されているロマンスシートは、背もたれが高くリクライニング可能な作りであることが多い。シートが比較的良い半面、立ち席人数が少ないのと、荷物を置けるスペースが限られている。スーツケースのような大荷物を持って乗る際は、ちょっと苦労する。
ワンロマか否かの判断基準!?
では、背もたれの高い2人掛けシート(ハイバックシート)が付いていて、外見が路線車であれば全部ワンロマ車になるのだろうか? ワンロマに確たる定義はないため、ワンロマ車と言えばそうであるが、これまた線引きが難しい。
地方の比較的長い距離を走る一般路線バスの中には、ハイバックシートを装備している路線車も普通にあるのだが、こういった車両はあまりワンロマとは言わない。ただし、全くワンロマと無関係なわけでもない。
ワンロマ車かどうかを区別するため、強いて条件を付けるとすれば……
・見た目が路線車
・ハイバックシート(リクライニング含む)
・営業運転で高速道路を走れる
・設備はどうあれ事業者がワンロマと呼んでいる
……あたりだろうか。
また、上の条件を満たした、関東地方で使われる車両のことを特にワンロマと呼ぶ傾向がある。
どこで乗れるのか?
設備が特殊である関係から、やや距離の長い路線または高速道路/自動車専用道を通る路線にワンロマ車がよく充当されていた。近年は老朽化で引退した車両も多く、見られる場所はそれほど多くない。
代表的な活躍の場に首都圏の深夜高速バスがあったが、2020年以降は新型コロナウイルスの影響による深夜便の運休が続いている(廃止も)ため、ワンロマ車にすぐ乗れる環境はなくなりつつある。
一般路線バスとしても使える車両ということで、ごく一部地域の一般路線バスの運用に入らなくはないものの、時間帯が限られたり日によって車両が変わったりする場合がある。
通常料金で豪華な設備が楽しめる意味では、一般路線バスに充当されるとかなり乗り得なバス車両であったワンロマ車も、気がつけば結構珍しい存在となってしまった。
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