シーズン終盤戦を迎え、中団グループの争いはさらに激しさを増している。継続的なマシン開発がようやく性能に繋がってきたアストンマーティンが日本GPから2戦連続でQ3進出と入賞を果たす好走を見せ、アルファロメオもここでようやくアップデートを投入してメキシコシティGP予選ではバルテリ・ボッタスが本家フェラーリを食う走りを見せた。
彼らとランキング6位を争っていたはずのアルファタウリは、いつの間にかハースとの争いにも後れを取ってランキング9位に沈んでしまった。
「我々はシーズン序盤に大きくマシン開発を進め、頻繁にアップデートを投入していったが、最後の大きなアップデートはフランスGPだ。シーズンを通して開発を続ける決定を下したライバルもいるが、我々はコストキャップ規定など様々な要素を考えて来年のマシン開発に専念することを決めたんだ。だからシーズン後半戦のアップデートはライバルたちよりも少ない。それがこの苦しい状況に繋がっている」
チーフエンジニアのジョナサン・エドルスは、アルファタウリの苦しい現状をそう語る。
ただしマシンに速さがないわけではない。日本GP13位、アメリカGP10位、メキシコGP11位というのは、決して本来の速さを反映した結果とは言えない。逆に言えば、アルファタウリは実力を結果に繋げられないレースがあまりに多すぎる。
「不運もたくさんあったが、今の状況がすべて不運によるものだとは思っていない。モナコやバクーなどマシンパフォーマンスが非常に高かったレースもいくつかあったもののそれを最大限に結果に繋げることができていないのも事実だ。だから不運だけでこうなったというのはフェアではないし、去年よりも少し不運が多いのは確かだと思うが、今年は中団グループが非常にタイトな争いであるだけにほんの僅かなミスや最適化ができないことが大きく結果に影響してしまうんだ。チームとしてしっかりと分析して理解し改善しなければならない点は多々あると言える」
アメリカGPでは、レース中盤のセーフティカー導入時に7番手・8番手を走行していた。そしてリスタートに際して不必要なリスクを避けるためポジションキープのチームオーダーを出したところまではよかったが、ハードタイヤでペースが上がらないピエール・ガスリーにミディアムタイヤの角田裕毅が抑え込まれるかたちになってしまった。さらにはガスリーにペナルティが科されてもなお順位の入れ換えを指示しなかったために、角田は前にいたセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)から7秒も離されることとなり、結果としてあとひとつ、ふたつ前でフィニッシュするチャンスをみすみす逃した。
角田によれば、これはストラテジストの判断ミスではなくトスト代表の指示だったようだ。
「あれはチームというよりもフランツ(・トスト代表)の指示だったので、チーム的にも何も言える状況ではなかったみたいです。次に同じようなシチュエーションになったらもっと強く言います」
予選ではQ3に進出できるかどうかの非常に際どいポジションにいる。マシンとしては6〜7番目で、ライバルたちよりもアタックを完璧に決めれば、トップ3チーム6台以外の4人のなかに入るチャンスが出てくる。そんなポジションが今のアルファタウリの現在地だ。
しかしアルファタウリはブレーキの熱入れ問題に苦しんだり、コースインするタイミングが遅くトラフィックに引っかかってタイヤのウォームアップが上手く行かなかったりと、同じようなミスを何度となく繰り返してしまっている。
「フリー走行のペースがかなりよかったので、Q3に行けなかったのは残念です。この結果は実力を反映したものだとは言えないと思います。トップ10は難しいとは思っていましたけど、それでも可能だとも思っていました。でも最後のアタックで(アウトラップの)トラフィックマネージメントが上手くいかなくて、セクター3で結構待たなければならなくて、それまでのランでやっていたのと同じタイヤウォームアップができなかったんです。そのせいでセクター1では(タイヤの温まりが不充分で)グリップがとてもプアで、1回目のアタックに較べてかなりタイムを落としてしまいました」
メキシコGPの予選を13番手で終えた角田は、そう言って悔しがった。
そして決勝ではソフトタイヤスタートの攻めた戦略で、1周目に順位をふたつ上げてキープし、ミディアムに履き替えて残り40周を保たせるというさらに攻めの“プランC”を採った。これは角田のタイヤマネージメントに対する信頼があってこその戦略であり、アメリカGPでタイヤを保たせて最後に入賞を勝ち獲ってみせたことも決して無関係ではないだろう。
実際に角田は第2スティント前半はタイヤをいたわることに専念し、好ペースを維持した。路面温度の急速な低下でハードタイヤを履いた前の数台が大きくペースを落とし、残り20周で一気にポジションを上げて行こうとした矢先、後方からソフトタイヤで攻めるダニエル・リカルド(マクラーレン)に接触されてリタイアを余儀なくされてしまった。
「あそこまではすごく上手く行っていたので、すごく残念ですし、あそこであんな不可能なかたちで飛び込んで来るなんてショックです。タイヤマネージメントをしながら走っていて戦略としてはかなり上手くいっていたと思いますし、10位以内が狙える位置だったと思うので本当に悔しいですしムカつきます」
角田は感情を抑えつつも怒りを露わにした。
スチュワードは勝負権のないところからインに飛び込んだリカルドに全面的に責任ありとして10秒加算ペナルティを科した。
しかし角田のレースは帰ってこない。一方のリカルドはペナルティを科されながらも中団トップの7位でフィニッシュし、ドライバー・オブ・ザ・デイにまで選ばれた。
結局のところ、相手が悪かろうとフィニッシュしなければ意味がない。自分に非がなかろうと、獲れたはずのポイントを獲れなければ意味がない。
リカルドが言うように「あと20〜30cmスペースを残してくれれば」、接触は避けられた可能性が高い。もしくは、ターン6にアプローチする前に少しでもイン側にブロックの姿勢を見せていれば、リカルドは飛び込んでこなかった。相手のためではなく自分のレースのために、そしてチームのために、角田が採ることができた行動はあったはずだ。
アメリカGPで第6戦スペインGP以来のポイントを獲得し、角田はチームも認める成長を見せた。しかし落とし穴はそこかしこにある。そこに落ちている今の角田とアルファタウリには、まだまだ改善ポイントつまりは伸びしろがあるということだ。
他者を責めているだけでは成長はできない。前述の通り、マシンの性能だけでこの結果に落ちているわけではない。角田もチームも、ランキング9位という現状から抜け出したいのならば、自分達の失敗にこそ目を向けなければならない。