昨年の最終戦で大きな問題となったFIAのレース・ディレクター(RD)による判断。判断の基準に一貫性のないことが大きな問題となり、2022年にFIAはレース・コントロールに関して大きな変更を行った。そして今シーズンからはどんな影響があったのか、元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。
文/津川哲夫
写真/Redbull,Mercedes,Ferrari,Alpine
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2019年シーズン、突然パワフルになったフェラーリPUの問題では……
2020年の開幕戦オーストラリアでRDチャーリー・ウァイティングの急死を受けて、それまで2018年からウァイティングの補佐をしていたマイケル・マッシが急遽RDになった。しかしF1経験は前年からで、経験が極めて希薄であった。
マッシがRDになった19年、前年から問題視されていたフェラーリPUの問題が表面化してきて多くのチームがフェラーリPUの検証をFIAに求めた。
もちろん検証はしたものの全ては密室で行われ、フェラーリへのペナルティもなく、一般的な技術指示が出されただけであった。このときの不透明なFIAの処理により各チームはFIAへの不信感を募らせることになる。
続く20年にもレース中のコースリミットの問題、そしてペナルティの問題等に一貫性がなく、その時その時でけっこう違った判定が出されていた。これが21年に入ると、フェラーリ寄りと噂されていたFIA判断が、開幕当初からメルセデスに寄ったようになった。メルセデスはシーズン前半戦で公式プロテストの無いままにレッドブルへの追求を行っている。
公平であるはずのディープ車検でホンダ搭載4車。それもペレスは2度も受けた
ポテンシャルの上がってきたホンダPUへの疑惑、レッドブルのリアウイングのフレキシビリティ等々。レース後に行われるトップ10フィニッシャーからランダムに1台を選んで行うディープ車検ではホンダ搭載4車。それもペレスは2度も受けているにも関わらず、メルセデスはボッタスが初戦に受けたのみでハミルトン車にはついに一度も行われることはなかった。
これで他のチームはFIAがメルセデスに偏向しているのではと疑問を持ったのだ。そしてブラジルグランプリでは他のチームからメルセデスのリアウイングの異様な動きが指摘され、フェルスタッペンが車検場でメルセデスのリアウイングを触ったことが問題視されペナルティーを受けることがあった。メルセデスのリアウイングの車検は密室の中で行われ、メルセデスにはDRSのオープン幅が規定オーバーという事へのペナルティーで終わっていて、フレキシビリティーについては言及はなかった。
そして最終戦。FIAはこのアブダビでセーフティーカーの処理を規則通りに行わず、RDの一存でハミルトンとフェルスタッペンの間の周回遅れだけを先行させ、そのまま再スタートさせた。これはフェルスタッペンの勝利に大きく貢献した。
しかし、RDのレース・コントロールの判断に一貫性のないことが多くのチームを怒らせた。結果2022年に向けてマシンのレギュレーションが大幅に変わったことも踏まえてレース・コントロールの組織が刷新され、スポーティング・レギュレーションもより細かく改定された。
2022年からはRDは2人になり、レース毎に入れ替わる方式になったが……
結果、これまで曖昧だったトラックリミットは全周ホワイトラインが限度と決められ、セーフティーカーの扱いも詳細にわたり文章化されていった。
またこれまで一人だったRDが二人に変わり、レース毎に入れ替わる方法がとられた。
それでもまだ問題は多く、鈴鹿でのセーフティーカーとアクシデント処理の開始命令の発動タイミング、バーチャルセーフティーカーとセーフティーカーの変更時処理、さらには走行するダメージ車両へのオレンジボールシグナルの提示、その後のペナルティー等々、数多くの問題点が噴出した。
問題への裁定は密室からガラス張りへ。内容を比較的細部まで公表するようになった
これまではビッグチームの圧力で動いていた感のあるレース・コントロールが正式プロテストがあれば動くという正当な態度を見せている。そして問題への裁定は密室ではなくガラス張りで、その内容を比較的細部まで公表をしている。もちろんまだ完全ではなくチーム的には文句もあろうが、今FIAとレース・コントロールは確実に変わろうとしているようだ。旧態然としたこれまでのオーガナイズは新時代に合わせてよりクリアーな形へと変わってきた。
もちろん、現行RDとレース・コントロールはまだ経験が浅く完璧ではない。しかし文句を言うチームの多くが目の前の利益だけを考え、過去に自分達が犯した失敗を忘れ、声高にオーガナイザーを非難している様に思える。
チームもF1もFIAも含めたこの組織なくしてレースはできないのだから、何とかF1が本当の意味でONE TEAMになって欲しいと思うのだが、まあそれぞれが自分たちの利益の確保に躍起となっている以上、そう簡単に皆仲良くとはゆかないかもしれない。
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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投稿 F1ビッグチームの圧力で動いた感のある疑惑のレース・コントロールが、2022年はどう変わったのか? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。