2022年のSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権シーズン最終戦、マントープパークでのタイトル決定戦が9月30~10月1日に争われたが、レースウイーク直前にスウェーデン・モータースポーツ連盟(SBF)の再調査結果が発表され、裁定が二転三転の上、従来のリザルトが復活する展開に。
結果、選手権首位の王者ロバート・ダールグレン(PWRレーシング/クプラ・レオン・コンペティションTCR)は、週末を戦う前にポイントリードを復元してタイトル防衛に近づくと、レース2の4位入賞によりTCR規定最終年に自身4度目のチャンピオンを獲得するなど、戦う側にとっても見る側にとってもスッキリしないエンディングとなった。
9月初旬開催の第5戦アンダーストープを前に、控訴中案件の裁定を発表したSBFは、再調査の結果により開幕戦勝者ダールグレンの車両に規定違反があったとして、当時「罰則等のお咎めなし」と判断されていたジャッジを覆し、リザルトの改訂を実施。結果、残り2戦を前にダールグレンのポイントリードが半減する状況となっていた。
これに対しSBFの法務委員会(JN)に「当時、レース後の車高チェックで不合格となり、その要因を『スプリッターの損傷が原因である』と主張していたPWRレーシングの意見が充分に考慮、反映されていない」として、PWRからの上訴が提出されたが、今週末マントープパークで改めての調査が実施され、ダールグレンがふたたび勝利者として宣言された。
「法務委員会(JN)は懲戒委員会(DN)の決定を削除し、新たな調査のためにケースをDNに差し戻します」と書き出しに記されたステートメントには、次のような文面が続いた。
「新たな決定が下されるまで、ロバート・ダールグレン(RD)は、シェレフテオのレース1での順位がもたらすポイント数とともに、結果リストに復帰します。RDは代理人を通じてJNに上訴し、DNで処理されたケースが規則に従っておらず、決定の影響を受けてコメントすることが許可されていないため、結果リストに再掲載することを要求しています」
「JNは、とくに行われた通信を含む文書をDNから入手しました。さらにJNは、RDからの控訴状を通読しました。調査の結果、RDにはこの件についてコメントする機会が与えられていないことがわかりました」
この20ポイントが“誰の手に渡るか”により、チャンピオンシップ自体が大きく変化する流動的な状況のなか、週末のテスト3セッションはその当事者ダールグレンと長年のライバル、トビアス・ブリンク(ブリンク・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)が最速を分け合うスタートに。
続く予選ではそのモヤモヤを振り払うかのように、アウディのブリンクがQ1/Q2ともにコースレコードを叩き出す驚速ぶりで、レース1、レース2に向けたポールポジションを射止めた。
「ターン1とターン2でかなりワイルドなスライドがあったけど、すべてがコントロールできていると感じた。アウディは空力が優れているから、クヌットストープやカールスクーガより、こうした場所に適している。僕自身もこのトラックにずっと恋心を抱いているからね」と、トップ8に5台が並んだアウディ陣営の先頭を曳いたブリンク。
■2023年からはフルエレクトリック・チャンピオンシップの新時代へ
自身が運営するファミリーチームでシリーズを戦ってきた男は、今回の裁定騒動で2022年のタイトル争いからは脱落してしまったが「ドライバーズタイトルを獲得していないことを除けば、基本的にSTCCで望んでいたことはすべて達成した」と、レースを前に含みを持たせるコメントも残した。
「僕らはドライバーズタイトルを渇望してきたが、今季も充分にうまくシリーズを進めることができなかった。それでも、明日のレースに勝つために全力を尽くすし、それからすべてがどうなるか見てみよう」
迎えた日曜レース1はスタート直後に波乱が生じ、タイトル候補のアンドレアス・バックマン(レストラップ・レーシング/アウディRS3 LMS 2)がマティアス・アンダーソン(MA:GP/リンク&コー03 TCR)と接触。ランキング2位だったバックマンはピットに戻ったが、事故のダメージと損傷によりここでリタイアを喫することに。
続くラップでアクシデントの現場に首位で差し掛かったブリンクは、コース上に運ばれた砂利に足元を掬われ、背後のダールグレンとオリバー・セーデルシュトレーム(レストラップ・レーシング/アウディRS3 LMS 2)の先行を許す。
しかしポイント剥奪の結果いかんに関わらず、選手権首位であり続ける王者のクプラは、猛攻を見せるアウディの速さに対抗することができず。2台の逆襲を許し、その後に首位を奪ったセーデルシュトレームが勝利を挙げ、ブリンク、ダールグレンの表彰台となった。
これにより、仮に開幕戦勝利が正式に認められればレース1結果でタイトル防衛が決まる状況だったダールグレンは、もし剥奪のままでもレース2でわずか“1点”を獲得すれば連覇という優位を築くと、ふたたびポール発進のブリンクは今度こそリベンジとばかりにライト・トゥ・フラッグでの今季2勝目をマーク。
アウディのセーデルシュトレームとリンク&コーのアンダーソンが続き、大幅な安全マージンを意識してドライブを続けたダールグレンは4位でチェッカー。これで正式な裁定を待たずして、自身のタイトル連覇を決めてみせた。
「魔法のような感覚だ。優勝できて本当にうれしいし、チームは素晴らしい仕事をしてきた。今回の特別な点は2年連続でのタイトル獲得を達成できたこと。僕はここまで隔年でチャンピオンの傾向が続いていたから、それを打破できて最高だよ」と、2017年、2019年、2021年に続き、PWRとともに4度目のチャンピオンを決めたダールグレン。
リバースグリッド採用のシーズンフィナーレとなったレース3は、今季からPWRに加入したアクセル・ベングトソン(PWRレーシング/クプラ・レオン・コンペティションTCR)が初制覇を成し遂げ、チームタイトルに加えてジュニアランキングでもPWRが完全制覇を達成する結末に。
来季2023年からは既報のとおり、完全な電動モデルによるフルエレクトリック・チャンピオンシップの新時代を迎えるSTCCは、そのPWRのR&D部門であるEPWRが開発を進める電動パワートレインをキットとして採用。複数チームが現行EV車種をベースとした、新規の電動ツーリングカー開発を進めている。