2022年F1第20戦メキシコGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。第1回「速さを見せたメルセデスW13が敗北した理由」 に続く今回は、メキシコの高地でフェラーリが苦戦した原因と、マクラーレンの冷却対策に注目した。
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■高い標高でエンジン性能が落ちたフェラーリ
メキシコのサーキットという特殊な環境を、フェラーリはうまく利用することができなかった。
F1-75は比較的大きなダウンフォースを発生できるマシンだが、ドラッグ(空気抵抗)の大きさではレッドブルとメルセデスの中間といえる(RB18より多く、W13より少ない)。多くの場合、低速コーナーの立ち上がりでは、小径のターボと低いギヤ比のおかげで優位に立つことができる。ところがこの週末は、そうではなかった。カルロス・サインツはレース後、こう言っていた。
「僕らのエンジンは、高い標高で性能が落ちてしまう。妥協しなければならないことは、週末前からわかっていたよ」
メキシコシティの高地では空気の分子が希薄なため、そのままではV6エンジン内の酸素密度は20%以上下がってしまう。この低密度を補い、同等の出力を得るためには、ターボチャージャーで同じ量の酸素をエンジンに供給する必要がある。
その結果、ターボはより熱くなる。フェラーリの小口径ターボは、さらに高温になる恐れがあった。そのためフェラーリは、内燃機関の出力自体を下げざるを得なかったようだ。
当然このままでは、ストレートでの最高速は落ちてしまう。そこでフェラーリのエンジニアたちは、F1-75のウイングを軽くせざるを得なかった。ダウンフォースが必要なコースでは、特にそのダメージが大きい。
F1-75はスライドを繰り返し、タイヤは必然的にオーバーヒートしていった。そしてルクレールとサインツは、低速コーナーでアンダーステア、高速コーナーでオーバーステアを訴えた。レッドブルとメルセデスに対抗できる要素は、何もなかったということだ。
■薄い空気の中で善戦したマクラーレン
空気密度が低いことは、F1エンジンの冷却にも大きな影響を及ぼす。ラジエーターに少しでも多くの空気を通してエンジンを冷やすために、各チームは車体の冷却孔をさらに大きくした。
「サイドポンツーンだけでなく、マシン内部のいたるところにラジエーターがある」と、アストンマーティンのテクニカルディレクター、アンドリュー・グリーンは説明する。
「特にドライバーの背後、エンジン上部、ギヤボックスの上などに配置されている。エンジンに限っても水と油、そして圧縮されてさらに熱くなった空気を冷やさなければならない。それに加えてハイブリッドシステム全体では、モータージェネレーター、電子ボックス、バッテリーの冷却が必要だ」
「パワートレイン以外にも、トランスミッションや油圧システム全体を冷やさなければならない。要するに、ラジエーターであれインタークーラーであれ、冷やさなければならない要素がたくさんあるということだ」
冷却はブレーキにも重要だ。空気の密度が低いため、フロント、リヤともにカーボンディスクを冷却するために、より多くの空気が必要となる。そのため各チームは可能な限り、ブレーキダクトを大きくした。
マクラーレンも同様で、上の画像でわかるように、特にリヤのブレーキダクトを大きく広げている。また、このコースで重要なダウンフォースを高めるために、ダクトにさらに数枚のフィンを追加した(上の写真の一番下がモンツァの構成)。
メルセデス同様、マクラーレンもメキシコシティの高い標高が、マシンの欠点を隠してくれた。その結果、決勝レースではリカルドとノリスがダブル入賞を果たした。アルピーヌと激しい4位争いを繰り広げているコンストラクターズ選手権で、マクラーレンはライバルの7点差まで迫った。