株式会社ターンアラウンド研究所
小寺昇二
ジョブローテーションによって様々職種を経験させるゼネラリスト育成では、「グローバルに太刀打ちできる専門家・プロフェッショナルが育たない」という反省に立って、現在日本企業では急速に、入社時から「何をするのかが明確」で、各人の役割が「ジョブディスクリプション(職務記述書)」によって規定されている「ジョブ型雇用」の導入が進んでいます。
下記、学情の調査では(有効回答数1,949社)、新卒採用においてジョブ型採用を、約4社に1社が実施しているほどです。
「ジョブ型」導入後の問題とは
誰もが社長を目指すようなこれまでのメンバーシップ型に代わって、何らかの形でジョブ型雇用が広まっていくことは間違いないように思われます。
問題は、このジョブ型雇用が日本企業にとって有効なものになるのか、もっと具体的に言うと、真に経営改革に結びつける、ビジネスモデルの革新に繋げる、イノベーション開発を進める、といった、これまでの日本企業では不十分だったことを「達成する人財の育成・確保」に繋げられるのか、と言うことです。
そのためには、単に採用をジョブ型に変える、さらには既存の従業員に対して、専門職化を進め、同時にジョブ型の範囲を広めるだけでは不十分なように思われます。
本稿で強調したいのはここ、つまり「コンピテンシー」の導入を進めることです。
日本で定着しなかった「コンピテンシー」
コンピテンシーとは日本語で言うと「行動特性」ですが、誤解されやすい概念なので、少し解説が必要です。
そもそも「コンピテンシー」と言うものは、70年代以降のアメリカで、「企業において、どういう行動特性を持つ人財が高い業績を挙げ得るのか」という問題意識で鍛えられた概念ですが、日本においても90年代の終わり頃から注目されながらも、日本企業には定着せずに現在に至っています。
日本でも似たような概念がなかったわけではありません。それどころか、人事評価においては、専門職では注目されるもののまだまだ主流にはなっていない「スキル評価」は別として、「業績評価」と並んで、「能力評価」が最も重要なものと考えられてきました。具体的には、「協調性」「積極性」「規律性」「責任性」などから構成される、従業員の潜在的・顕在的能力こそが、メンバーシップ型雇用の下では昇進・昇格を決定してきたのです。
しかしながら、こうした「能力評価」は、アメリカ流のコンピテンシーのように、「高業績を挙げる行動特性」への思索、調査に基づいたものではなく、ともすれば、「人物評価」、つまり「会社を率いるのは人間として立派な人物であり、そうした人物であれば企業の業績を挙げることが可能である」という、考えてみれば非合理的な前提に立っていたわけです。
だからこそ、コンピテンシーは日本ではこれまで定着してこなかったわけであり、もっと断定的に言えば、多分に人物評価的な業績アップという目標とはリンクしない人事評価であっただけに、(ジョブ型雇用同様に)当然業績アップには結びつかなかったとも言えましょう。
現在は、ジョブ型雇用制度が広まりつつあるフェーズですので、今後は、そのジョブ型が機能するよう、併せてコンピテンシー評価も導入する流れが進むように思われます。
脱「日本型」の人事評価へ
下記が、コンピテンシーのスタンダードと言っても良い、スペンサーのコンピテンシーディクショナリーです。
日本型の能力評価に比べ、与えられた課題をやり切る「達成志向」や「イニシアティブ」、状況の変化に対応して課題を達成していく「柔軟性」などの項目も入っており、非常に具体的です。
「職務が曖昧なメンバーシップ制の下での戦略との整合性が曖昧な能力評価」から、「職務が明確なジョブ型の下での戦略との整合性が比較的明確なコンピテンシー評価」への移行が今求められているのではないでしょうか?
但し、ジョブ型を導入済みの企業においてのコンピテンシー評価は、そう簡単ではありません。企業理念、そして戦略の再吟味を行い、自社に相応しいコンピテンシー評価、そしてその評価基準に基づいた人財育成の方法を作り上げていかなければならないのです。
そうしたプロセスにこそ、現在日本企業が置かれている「人的資本の価値増加」のカギが隠されているのです。
ただ、これまでのやり方からなかなか脱皮できない日本企業のHR分野においては、従来のやり方(例えば「能力評価」)からジョブ型が主流になってくる状況でのやり方(例えば、「コンピテンシー」)への移行をスムーズに行うためには、外部の助けを借りることも一方であるように考えられます。
旧弊に絡めとられながら、「一生懸命働いているんだから良いではないか」という「稼働」ばかりの働き方から、真に改革志向で、経営戦略が実行され、成果に繋がる合理的なHRが今求められているのです。