NTTインディカー・シリーズはひと足早くシーズンを終える。メジャーリーグやNBA、NFLと多くのスポーツイベントを抱えるアメリカでは、これから秋が佳境となってテレビの視聴率争奪戦は熾烈になる。
インディカーはインディ500がその頂点であるが、チャンピオン決定の最終戦もまたアメリカのモータースポーツファンの注目の的だ。
デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシングの佐藤琢磨も、今年はチームを移籍して200戦出場を越えた。環境も変わった年だったが、今季最高位はWWTRの5位。望んでいたようなシーズンではなかっただろうが、最後のレースこそ良い形で締めくくりたいはずだ。
事前にラグナセカのテストに参加していたものの、金曜日のプラクティスから予選までは苦戦を強いられグリッドは22番手と理想とはほど遠い順位だった。
「ここの路面は本当にサラサラで、マシンをグリップさせてスタビリティを上げていくのが本当に大変。タイヤの内圧もそれを見越して設定しても、なかなか思うようにならなかったり……」
初日から確かにコースアウトするマシンも多く、この難題は琢磨だけのものではなかった。
だが、コンディションは全26台のドライバーすべてに公平だ。この状況をいかに克服するかが、レースの結果を左右する。特にこのレースはチャンピオンを決める大事な一戦。いろいろな思惑が錯綜する。
レース前の琢磨は「3ストップがセオリーですが、タイヤをどう使うか。おそらくレースはブラックがメインになると思うので、レッドでスタートして早く履き替えるとか、もしレッドが使えそうなら最後にもう一度入れるとか……」
「イエローも出るだろうし路面も変わると思うので、それにうまく合わせていきたいですね」とまずはスタートのタイヤチョイスから思案していた。
快晴の下でレースのスタートが切られた。琢磨はターン1からターン2とその先の混乱をうまく抜けて、5ポジションアップした。上々の出だしだったが、なんと8周目、9周目にチップ・ガナッシ勢など数台がレッドタイヤからのタイヤ交換に入り出す。タイヤのパフォーマンスに合わせた4回ピット作戦だったのだ。
琢磨はレッドタイヤのグリップが活きているうちにペースを保ち、前車がピットに入るたびにポジションが上がり、16周目8番手になったところでピットに入った。
ピットアウト後は24番手からの追い上げとなるが、この頃からマシンのリヤに異常を感じピットに無線で伝えている。原因はリヤのサスペンションダンパーのトラブルとわかり、琢磨のペースは徐々に落ちていった。
ジミー・ジョンソン、ダルトン・ケレット、それにスポット参戦のシモーナ・デ・シルベストロなど、本来調子が悪くても追い抜ける相手に四苦八苦した末に順位を譲ってしまう結果になっていた。
レース中盤、カラム・アイロットのトラブルでこの日最初で最後のイエローコーションが出された。
そして、そのリスタートで琢磨はターン1からダルトン・ケレットと並ぶ形で接触。その際にステアリングを取られてしまい、右手親指にダメージを負ってしまった。
「おそらく亀裂骨折していると思います。ナッシュビルでデブリン・デフランチェスコと接触した時に、右の親指の根本あたりをかなり痛めていて……。その時から続いているのですが、とりあえずドライブは出来てましたが、今回はそこに追い討ちをかけてような形」
「でも今日は最後まで走りたかった、クルマも壊れちゃったし、ドライバーも壊れちゃったけど(笑)。51号車のクルーも1年間頑張ってくれていたし、ちゃんとチェッカーを受けたかった」
まさに満身創痍の状態の51号車は、厳しい22年シーズンを象徴していたが、1周遅れになりながらも、琢磨は最後のチェッカーを受けた。結果は23位。
「今シーズンはチームも変わって、いろいろ勉強することがありました。うまくいかない事も多かったけど、インディ500は勝ちにいったつもりですし、デトロイトの予選フロントロウとか、WWTRは勝てそうだったし、良いところもありました」
「それに日本の皆さんも夜遅くというか、朝早くまでTVで応援していただいて、本当にありがとうございました」と最後に日本に向けてのメッセージで締め括った。
熾烈なインディカーシーズンの王者は、琢磨と仲の良いペンスキーのウィル・パワーが勝ち取った。