ラグナセカ・レースウェイで開催されたNTTインディカー・シリーズ最終戦モントレー・グランプリ。11日に決勝レースが行われ、アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)が今季初勝利を挙げた。
佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシング)は、予選22番手スタートから追い上げを狙ったが、マシントラブルで23位完走で今季最終戦を終えた。
ポイントリーダーのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は予選でポールポジションを獲得した。最終戦の舞台となるラグナセカ・レースウェイではチップ・ガナッシ・レーシングをはじめとする多くのチームが事前テストを行なっており、ペンスキー勢は不利かと見られていたが、パワーたちが底力を発揮した。
そして、パワーは67回でマリオ・アンドレッティと並んでいたポールポジション獲得回数を68回とし、インディーカー史上最多PP獲得ドライバーとなった。
チャンピオンに最も近いポジションで最終戦を迎え、シリーズレコードを打ち立てるPP獲得。タイトル争いの流れはパワーに一気に傾いた。
逆転タイトルを狙うのはジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)とスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)のふたり。パワーとは20点差の同点に彼らは並んでいた。
しかし、ニューガーデンは予選1ラウンドでコースオフという致命的なミスを冒し、スターティングリッドは26台出場中の25番手となった。ディクソンの方は、事前テストと違うセッティングにまでトライしたけれどマシンの仕上がりは今ひとつ。予選は13番手で逆転は非常に難しい状況と映っていた。
快晴で気温も上がった中、最終戦95ラップのレースにグリーンフラッグが振り下ろされた。パワーはトップを守ったが、4ストップ作戦で早目にピットストップを行うライバル勢に対抗するためもあって、自分たちも15周めという早い段階でピットに向かいトップを明け渡した。
序盤から驚くべき速さを見せたのが予選5番手のアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)だった。彼はエンジン交換のペナルティで11番手スタートとなっていたが、27周目にパワーをパスしてトップを奪うと、そのラップだけでリードを一気に2秒もつけ、グイグイと後続を突き放していった。
ディクソンやマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)の4ストップ作戦は成功が難しいと見えていた中、パロウはスピードがあるので3ストップでいくこととした。
臨機応変な戦いぶりは功を奏し、パロウは最終戦でシーズン初勝利を記録した。チップ・ガナッシ・レーシングとは契約問題がこじれているが、この勝利で事態が良い方向に向かうことを祈りたい。
「事前テストをしたのにレースウイークエンドでは良いセッションと悪いセッションの両方があった。それが今朝のウォームアップで一転、自分のマシンに自信を持った。エンジンペナルティがあるのでレースは大変だろうと考えてスタート」
「すると、大変だろうと予想していた最初のスティントから驚くほどマシンが安定していて、レールの上を走っているぐらいに感じた」とパロウ。昨年度チャンピオンは2位以下に30秒以上の大差をつけて優勝した。
2位はニューガーデン。25番手スタートからの脅威的追い上げだった。パロウがダントツのマシンを手にしていなかったら、優勝はニューガーデンのものになっていただろう
しかし、パワーが彼のすぐ後ろの3位でゴールした。彼は3位でゴールすれば、ライバルたちがどんな順位になろうともチャンピオンになれる状況で、その3位フィニッシュを達成した。
ニューガーデンは、「全力で頑張った。しかし、今日はパロウが速かった」とコメントし、「前の方のグリッドからスタートしていたら話は全然違っていた。PPからのスタートだったら、今日のように大きな差を跳ね返すような走りはしなくて済んだ」
「しかし、今日はパロウが非常に速く、彼をパスしてトップでゴールできていたかはわからない。仮に勝てたとしても、パワーが3位だったらタイトルは彼のもの。ここまで順位を上げた自分たちのレースには満足している」
「来年の最終戦には、今年とは違ってポイントトップで迎えたい。そのためには安定感を高めないとダメだが、それが自分たちには可能だと思う」とニューガーデンは語った。
デトロイトでの1勝だけでパワーはチャンピオンになった。ニューガーデンは5勝、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)は3勝、ディクソンとパト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)は2勝しているが、1勝だけだったパワーがシリーズを制した。
今年のパワーは安定感を重視した戦い方を貫いていた。それが目指す結果につながった。
「今日で表彰台は9回目だ。素晴らしい強さを我々は発揮し続けた。安定性こそが重要であるとシーズン最初から考え、行動し続けた。いま私は大きな満足感を感じている」
「ニューガーデンはトップ争いに上がってくる。そう思っていた。しかし、自分は3位でゴールすればよかったので、彼のすぐ後ろを走り続けた。昨年までだったらチームメイトが勝って自分が4位だったら怒りを感じていたが、今年は違った」
「トップ4ならハッピーと考えることにしていた。チームメイトが優勝しても、自分が4位以内でゴールできていたら、“全然問題ない。自分たちはよくやった”と考えていた」とパワーは振り返った。
佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)は、金曜日のプラクティス1からタイヤの内圧が安定せず、マシンの戦闘力を高めるのに苦労し続けた。
22番手グリッドからスタートした彼は、1ラップ目だけで5台をパスし、レース用のマシンが悪くない仕上がりになっていることを感じさせた。しかし、しばらくするとペースが落ちた。
ショックアブソーバーが破損し、マシンのハンドリングがどんどんと悪化していったのだ。さらに、リスタート時にダルトン・ケレット(AJ・フォイト・エンタープライゼス)と接触。この時の衝撃で琢磨は右手を負傷した。
ゲートウェイでのデブリン・デフランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)との接触で小さな亀裂骨折をしていたと思われる右手に一撃を加えてしまい、右親指付近の骨に完全なクラックが入ってしまったようだ。
接触直後は激痛に襲われたという琢磨だったが、それを乗り越えて23位でゴールした。
「4ストップでいったチームもありましたね。自分たちはスタートが良くて順位を大きく上げ、早目にピットに入るチームもあったから、さらにポジションが上がりました。その結果、3ストップで行くことになりました」
「その作戦しか選べなくなったって感じでした。残念ながらサスペンションの一部が壊れ、マシンのハンドリングが悪くなってしまった。そして、リスタートでの接触と、右手の激痛」
「走っているときはアドレナリンも出ているので、数周すると痛みは感じなくなったんです。その後はもう完全に麻痺しちゃった感じでした」
「シーズン最後のレースで良い走りができず、良い成績を残せなかったのは本当に残念ですが、インディ500やデトロイト、ゲートウェイなどでスピードを見せることはできた。そういうシーズンになっていと思います」と琢磨は締めくくった。