9月10~11日にスカンジナビアン・レースウェイこと、スウェーデンのアンダーストープで争われたSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権第5戦は、会期直前に選手権首位の王者ロバート・ダールグレン(PWRレーシング/クプラ・レオン・コンペティションTCR)に対し、開幕戦優勝の裁定が覆る異例の展開となり、ポイントリードが半減した状態での幕開けに。
雨絡みでクラッシュも多発した週末は、タイトル候補となったアンドレアス・バックマン(レストラップ・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が連勝を決め、一気にランキング2位に急浮上。最終ヒートはトビアス・ブリンク(ブリンク・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)が勝利を挙げ、アウディ勢が3ヒートを制圧する結果となった。
レースウイークを前にしてアナウンスされた控訴中案件の裁定は、6月の開幕戦シェレフテオでのレース1で、勝利を飾っていたダールグレンに対し「車両規定違反を認め、レース結果から除外する」というものだった。
当時レース後の車高チェックで不合格となり、その要因を「スプリッターの損傷が原因である」と主張して、罰則等のお咎めなしとなっていたダールグレンだが、これに対しバックマン擁するレストラップ・レーシングからはスウェーデン・モータースポーツ連盟(SBF)の規律委員会に対し抗議が提出されており、委員会は改めて調査を継続。懲戒聴聞会での審査が続けられた結果、ダールグレンのクプラにスプリッター損傷の証拠は発見されておらず、ポイントリーダーはレース後のテクニカルチェックに「実際に失敗した」との声明がリリースされた。
「受け取った資料を検討した結果、委員会はスプリッターに見られる傷は車高を上げこそすれ、低める要因にならないことを確認した。従って委員会は技術的な事後チェック中に車高が低すぎること認定、上訴を承認することを決定しました。影響を受けた当事者は、規則2.16.10に従ってレース1で失格となり、それに応じて最終結果が変更されます」
同時にSBF委員会は、第2戦でジャンプスタートの裁定を受けていたヒューゴ・ネルマン(ブリンク・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)にもペナルティを課すことを改めて確認。「理事会は受け取った文書を読み、議論の結果、規則を参照して上訴を承認することを決定しました」とし、これによりバックマンが2戦ともに勝利を継承し、その僚友であるオリバー・セーデルシュトレーム(レストラップ・レーシング/アウディRS3 LMS 2)も第2戦での2位が確定した。
結果、スタンディングでは168点となった首位ダールグレンに対し後続のポイントも大きく動き、マティアス・アンダーソン(MA:GP/リンク&コー03 TCR)以下セーデルシュトレーム、ブリンクが141点で並び、バックマンが140点で続く展開となった。
「ポイントの変化は、戦略の観点から僕にとって重要ではない。PWRは歴史的にアンダーストープで強かったし、この週末もポールポジションと勝利を目指している。それがこの状況に対処する最も簡単な方法だ」と、この裁定を受け改めてSBFへ上訴したものの、アピールは認められずリードが47点から27点に削減されたダールグレン。
「シリーズ最終2戦の週末は、いずれもよりタフなアクションになると思う。本当に難しい勝負になるだろうし、誰もがフリーに何かを与えるつもりはないだろうね」
その予言どおり、ウエットで始まった週末のテスト3セッションは、テスト1でアンダーソン、テスト2はバックマン、そしてテスト3をセーデルシュトレームが最速と、目まぐるしくトップが入れ替わる結果に。その加熱ぶりによってか、最後のセッション3ではネルマンが高速クラッシュを喫し、レッドフラッグで走行が終了する事態となる。
■最終ヒートでは終盤に雨が強まる難しいコンディションに
しかし懸命の修復作業を経たアウディは、レース1のグリッドを決めるQ1でなんと最速タイムをマークして復活のポールポジションを獲得すると、続くQ2ではバックマンが最前列を確保。一方、Q1で3番手としたダールグレンは、なんとか0.062秒差でレース2の4番グリッドを死守した。
「本当に楽しい予選セッションだった。でも何より、チームに心から感謝している。最終テストでのクラッシュから予選に復帰して、本当に速いラップタイムを設定できるようになるまで。すべての仕事をこなしたチームには称賛しかないね」と、ポールに加えてレース2の3番手も獲得したネルマン。
一方のダールグレンは「バラスト搭載量(40kg)を考えれば、結果は惨事ではないけれど、決してそれ以上でもないね」と、不満げな結果でセッションを終えた。
「Q2では、あるセクターで大きくタイムを失った。レース前に分析する必要がある。それでもポジションはまだ大丈夫だし、僕らの前には波乱に満ちたレースがいくつかあるだろう。それは確かだ」と続けたダールグレン。
迎えた日曜レース1は、ポールシッターのネルマンを筆頭にドライのトラックに対し全車がウエットタイヤを装着してスタート。ブリンクが力強いダッシュでダールグレンの前3番手に躍進する。しかし直後に後続のブレーキロックに巻き込まれ、グラベルトラップ送りの憂き目に遭う。
一方、首位争いは早い段階からネルマンにプレッシャーを掛け続けたバックマンが2周目にオーバーテイクを決めると、まだドライの路面に苦しんだネルマンはダールグレンの先行も許し、ズルズルと後退する展開に。勝者バックマンはダールグレンに4秒以上の差、そして最後の表彰台に滑り込んできたアンダーソンは10秒以上離れてのチェッカーとなった。
続いて13時半を過ぎて始まったレース2も、バックマンが今度はポール発進から“ライト・トゥ・フラッグ”の連勝を記録。ウエットパッチが点在し、レコードライン上が乾く難しいコンディションでネルマンを抑え切り、3位にダールグレンが続く結果となった。
そして15時を回ってスタートが切られた週末最終ヒートは、リバースポールのマリウス-ソルベルグ・ハンセン(MSHモータースポーツ/フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)がターン1でミスを犯してワイドに。これでブリンクが労せずして首位を手にする。一方、背後から勢いを見せたダールグレンは、アンダーソンも仕留めて2番手へと上がってくる。
このヒートはほとんどのドライバーがスリックタイヤで発進したが、周回が進むにつれて雨が強まり、6周目にはターン4でコースオフが頻発。ここでセーフティカーが導入される。
先導走行期間が長く取られ、最終的にレースは残り1周でリリースされると、激しい雨が降ったにも関わらず全車が大きなアクシデントなく最終ラップを走り切り、ブリンクが1.5秒差でフィニッシュラインに先着。2位ダールグレン、3位アンダーソンの表彰台となった。
「表彰台に上がる可能性のある3ヒートのうち、そのすべてでポディウムを実現させた。波乱に富んだ良い週末だったよ」と、最低限の職務を遂行した王者ダールグレン。「とくに最後のヒートで6番手から2位にカムバックできたのには満足している。最終戦のフィナーレに向けて充分なマージンがあるが、タイトル防衛のために懸命に戦わなければならない。間違いなく、その準備ができているよ」
この週末で219点としたチャンピオンに対し、急浮上バックマンが195点、アンダーソンが182点で追う展開へと変わった2022年STCCシーズン。続く最終戦マントープパークでのタイトル決定戦は、9月30~10月1日に争われる。