正式な発表はまだされていないものの、WEC世界耐久選手権は2023シーズンからのスポーティング規則において、フルコースイエロー(FCY)導入中のピットインを禁止することになりそうだ。
コース上で事故が発生したり、デブリが散乱した場合など、WECではFCYが導入される。FCYが導入されると、全車が80km/hまで速度を落とし、追い越しは禁止となる。セーフティカーとは異なり、前後の車間距離は維持されるのがFCYの特徴だ。
現在のレギュレーションでは、「ピットレーンの入口・出口はオープンなままで、車両は自由にピットインできる」とされているが、来季からWECとELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズでは、このオプションが廃止されることになりそうだ。なお、ル・マン24時間レースで採用されている“スローゾーン”は例外で、ピットレーンはオープンなままであるという。
シリーズの主催者であるFIA国際自動車連盟とACOフランス西部自動車クラブは、まだ承認も公表もされていないこのレギュレーションの改訂についてコメントすることを避けているため、この変更がなぜ行われるのかは不明である。
■「耐久レースというよりは、F1に近い」
何人かのチーム関係者はドライバーはこの変更について疑問を呈している。FCY下でピットを閉鎖すると戦略上の選択肢が減少する可能性が高いからだ。
現行のルールでは、他のライバルが80/kmで走行するFCY中にピットインして作業を行うことで、そのチームは有利になる可能性を持っている。
LMGTEアマクラスに参戦するTFスポーツのチーム代表であるトム・フェリエは、「フルコースイエローは得をするか損をするかという機会であり、それは耐久レースにおいて大きな部分を占めている」と語った。
「(規則が変更されれば)ただ燃料ランプがつくまで走るだけ、常に“グリーン”のスティントになる。ちょっと悲しいが、彼ら(シリーズ)にはそうしたい理由があるんだ。多くの人がそれを望んでいるわけではないと思う」
フェラーリのドライバー、アレッサンドロ・ピエール・グイディは、FCYコンディションでのピット作業などの戦略オプションがなくなると、レースが盛り上がらなくなる可能性があると付け加えた。
「ときには、少しオープンにしておくのもいいんじゃないかな」とピエール・グイディ。
「少なくとも、誰かが戦略の面で何かを発明することができるからね。僕らは、レースが華やかで、見ていて楽しいものであることを望んでいる」
「でも、もし厳しいルールを設けたら……(2018年の)ル・マンでは、燃料と1スティントの周回数が定められていた。すべてが複雑で、接近していて、規制されすぎていて、何かを見出すことは難しく、つまらないものだった」
「燃料を節約して1周長く走り、FCYのチャンスで優位に立とうとすることが重要な要素になる。そうでなければ、純粋にパフォーマンスで勝負することになり、それは耐久レースの世界というよりは、F1に近いものだと思う」
WECでは、レース中のセーフティカーの回数を減らす目的で、2014年にFCYを導入した。2016年シーズン中盤には、タイミングよくピットストップすることで優位に立つマシンが現れたため、FCYの下でピット作業ができるかどうかが注目されるようになった。
FCY下でのピット作業はその後も続いており、チームはFCYが終了される前にピット入口に到着できなければ、大きく時間をロスするリスクを抱えている。ただしWECのレースディレクターは、ピットレーンにクルマが殺到しないよう、トラブル等が解消されコースがクリーンになった後も、2周ほどFCYを続けるケースがしばしば見受けられる。
GRレーシングのチーム代表であるオーウェン・デイリーは、「この変更がうまく機能するかどうかは、それを適用してみることが唯一の証明となる。それを踏まえて、様子を見る必要がある」と述べている。