次世代モデルへ一新された三菱ふそうの小型EVトラック「eキャンター」、その特徴の一つが「シャシーラインナップの大幅拡充」だ。これはEVトラックとして非常に画期的なのである。
そこで、次世代eキャンターに設定される28車型について、分析してみた。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/三菱ふそうトラック・バス、「フルロード」編集部
小型トラックの「車型」とは?
次世代eキャンターの「28車型」にどのような意味があるのか、簡単に説明しておこう。
日本のキャブオーバー小型トラック(小トラ)には、キャブのサイズ、シャシーフレーム仕様、エンジン、ホイールベース、サスペンション、駆動方式、最大積載量、車両総重量(GVW)など、様々な組み合わせが豊富に用意されている。
例えばディーゼルキャンターの場合、カタログに収録されているメーカー標準平ボディ車だけでも約300車型ある。もちろん、用途とニーズに最適なクルマが選べるよう用意されているものばかりである。
もっとも、そのすべてが均等に生産されているわけではなく、ユーザーによく使われている「売れ筋」が生産のメインであり、それ以外のほとんどは受注生産モデルである。これは三菱ふそう、いすゞ、日野のいずれも同じだが、このきめ細やかな車型展開は、日本の小トラならではだろう。
次世代eキャンターの「28車型」
次世代eキャンター国内向けモデルには「28車型」が設定されている。現行型の1車型に対して28倍増!…とはいえディーゼルキャンターのほぼ10分の1だが、ひとことでいえば「売れ筋をしっかり押さえて、マイナーモデルもいくつか用意」という印象で、日本の小トラニーズを見事に捉えたラインナップとなっている。
まず、キャブは「標準キャブ」「ワイドキャブ」「拡幅ワイドキャブ」の基本3種がある。特に日本でニーズの大きい「標準キャブ」の存在は、EVトラック販売に欠かせないポイントだろう。
次にホイールベースだが、「標準ボディ(2500mm)」「セミロングボディ(2800mm)」「ロングボディ(3400mm)」「超ロングボディ(3850mm)」「超々ロングボディ(4750mm)」の5種。これもディーゼルキャンターと同様で、車格によって選択可能な長さが限られることも同じである。
現時点で明らかになっていないのがシャシーフレームの高さだが、展示車を観察すると「全低床」「高床」のいずれでもなく、「eキャンター独自のフレーム高」といえそうだ。ここは少し特異なところかもしれない。
いっぽう、次世代eキャンターは4×2車型(後輪駆動)のみで、4×4車型(総輪駆動)は設定されていない。意外に4×4車型はニーズがあるので、e4WDトラックの開発にも期待したい。
5種の車格
トラックで重要なのが最大積載量だ。これも現時点では未発表となっている。
次世代eキャンターの資料では、「GVW5トン級/積載量2000kgクラス」「GVW6トン級/積載量2000kgクラスおよび積載量3000kgクラス」「GVW7.5トン級/積載量3000kgクラスおよび積載量3500kgクラス」となっており、5種の車格が存在することになる。
GVW5トン級というのは、あきらかに「旧制度の普通免許」で運転できる(現行普免では不可)、文字通り車両総重量を5トン未満に抑えた専用車型である。
GVWの上限があるので積載量は制約されるが、標準キャブには標準・セミロング・ロングの各ホイールベースが、ワイドキャブには標準・セミロング・ロング・超ロングの各ホイールベースが設定される。ロングと超ロングには、Mバッテリー(高電圧バッテリー2個)仕様も用意されている。
日本の小トラのメインストリーム
GVW6トン級/積載量2000kgクラスは「準中型免許」(旧々普免も含む)以上の取得者で運転可能だが、こちらはGVWに余裕があるので、額面通り2000kg積みができる可能性が高い。そして設定シャシーもGVW5トン級と同一で、配送用ドライバンやダンプなど、「日本の小トラニーズの主流」がこのゾーンにある。
GVW6トン級/積載量3000kgクラスも重要な売れ筋だ。より積載量を求めるニーズや、特別な架装を求めるニーズに応じて設定されており、例えばコンビニやスーパーへ商品を配送している小トラのワイドキャブ・ロング車ベースの冷凍車などは、このクラスを用いることが多い。
ただ、やはりEVはディーゼル車よりも車両重量がかさむため、ワイドキャブ・ロング車はSバッテリーモデルのみとなる。また、超ロング車も設定されない。
小トラの高積載モデル
GVW7.5トン級およびGVW8トン級は、日本では中型トラック(俗にいう「4トン車」)とも重なるレンジのため、小トラとしては少しマイナーな車型となっている。
GVW7.5トン級/積載量3000kgクラスは、ワイドキャブのみでロングまたは超ロング、Mバッテリー(2個)のみの設定となる。上述のGVW6トン級/積載量3000kgワイド・ロングで航続距離を必要とする場合は、この車格を選択することになるわけだ。
GVW7.5トン級/積載量3500kgクラスも、設定シャシーは同じである。ワイドキャブ・ロング車ベースでテールゲートリフタ付の冷凍車かつ積載量をしっかり確保する場合、あるいはクレーン付き平ボディ車などは、このクラスが適しているように考えられる。
また、最も大きいGVW8トン級/積載量3500kgクラスは、さらにワイドキャブ・超々ロング・Lバッテリー(3個)のみという仕様になる。
中型も狙うeキャンター!?
そしてユニークなのが拡幅ワイドキャブ車だ。GVW8トン級/積載量3500kgクラスで、ワイドキャブ・超々ロング・Lバッテリーのみという仕様は、前述のモデルと同じで、キャブだけ違うことになるが、その違いが大きい。
拡幅ワイドキャブ車には、ディーゼル車で「キャンターEX」と呼ばれるモデルと同じキャブが搭載されている。
このキャブは、自動車工業会の自主規制(キャブ幅段差)に応じて開発されたものだが、キャブ幅をプラス125mmの2120mmに拡幅、架装可能な荷台全幅値を2320mmとすることで、中型トラック標準キャブ車に迫るサイズの荷台が架装できるようになっている。
しかし、キャンターEXには「中型トラックなみの荷台プラス車両重量が軽いぶん最大積載量で優位に立てる小トラ」というキャラクターが与えられているいっぽう、eキャンター拡幅ワイドキャブの場合は、「BEV化しても積載量が確保できる中型なみの荷台を備えた小トラ」として、ニュアンスの異なるキャラクターになるように思われるのだ。
実は、いまの中型トラックをBEV化しても、GVW8トンでは積載量の確保が難しいと考えられる。しかし、小トラベースのeキャンター拡幅ワイドキャブ車なら、平ボディ架装で最大積載量3500kgクラスを確保する。これなら、中型トラックが使われている軽比重カサモノ輸送ウイング車なども、BEV化できる可能性があるわけだ。ということで、こちらも地味ながら、画期的なトラックになりそうなのである。
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