もっと詳しく

 ともに初開催地となる11月10~12日のバーレーン・インターナショナル・サーキットと、11月25~27日に初上陸のサウジアラビアにて、2022年の終盤2戦を実施する予定のWTCR世界ツーリングカー・カップに関し、10月14日付けでFIA国際自動車連盟からのリリースが発行され、今季終了後に「現在のフォーマットによるシリーズを終了する」と発表。2018年にTCRインターナショナル・シリーズから発展し、WTCC世界ツーリングカー選手権の実質的な後継シリーズに位置付けられてきたWTCRが、わずか5年でその歴史に幕を下ろすこととなった。

 また、TCR技術規定を統括するWSCグループは、今後に向けFIAとともに「ワールド・ツーリングカー・カテゴリーの詳細な評価」を実施したうえで、来季2023年にはドライバー、チームを対象とした新しい“ワールドランキングシステム”の導入に加え「革新的なプラットフォーム」と銘打つ『TCR World Tour(TCRワールドツアー)』の創設をアナウンスした。

 今夏8月5~7日の週末に、こちらもシリーズ初開催地となったフランス・アルザス地方アノー・デュ・ハンで実施されたWTCR第7戦を前に、ディフェンディングチャンピオンであるリンク&コー・シアンレーシングが「今季プログラムの即時中止」を決め、WTCRはマニュファクチャラー撤退の激震とその余波に揺れる困難なシーズンを過ごしてきた。

 この結果、グリッドはわずか12台にまで落ち込み、シリーズの長期的な実行可能性について疑問が生じる事態となり、ワンメイク供給されるグッドイヤーの安全性に対する懸念や、その不安定性に端を発した数々のトラブル、新型コロナウイルスのパンデミックによる物流上の課題と、急遽の開催地変更も経験。さらにはロシアによるウクライナ侵攻がダメ押しとなり、今季は5戦のスケジュール変更を余儀なくされるなど、ほとんど“悪夢”と言うべき状況に陥った。

 そのカレンダー変更承認にも奔走したFIAツーリングカー・コミッション​理事のアラン・ゴウは、今回の発表に際し「FIAのポートフォリオの一部として、トップクラスのツーリングカーレースにとって最善かつ、最も持続可能な未来を特定し、評価する必要がある」との見通しを語った。

「我々の目標は、従来型の動力源を備えたツーリングカーの世界タイトルを維持し、競争が強力で名誉あるものになるよう更新することだ。その歴史を通じて、世界のツーリングカーレースはさまざまな形式を採用し、タイトルはシリーズ戦、もしくは単一のイベントで決定されてきた。現時点で我々はすべての可能性を検討しており、長期的なカテゴリーの将来と成功、そして安定のため、強固な基盤を確保することを優先している」と説明したゴウ。

併催のETCRも含め、2022年シーズンは第2戦のニュル以降、コントロールタイヤに関する安全性の懸念が続いてきた
併催のETCRも含め、2022年シーズンは第2戦のニュル以降、コントロールタイヤに関する安全性の懸念が続いてきた
WTCR第7戦を前に、ディフェンディングチャンピオンであるリンク&コー・シアンレーシングが「今季プログラムの即時中止」を決めたことが響いた格好だ
WTCR第7戦を前に、ディフェンディングチャンピオンであるリンク&コー・シアンレーシングが「今季プログラムの即時中止」を決めたことが響いた格好だ

■TCRワールドツアー参加者には通常よりも高ポイントを付与予定

 地元ではBTCCイギリス・ツーリングカー選手権を運営するTOCA代表として辣腕を振るい、近年は並行してFIAの要職も務めるゴウだが、WSCが主導権を握るTCR規則のフォーマットに関しては、自身が肝煎りで進めたNGTC規定のようなイニシアチブを握れない側面もある。

「TCRの実績ある一連の技術規則により、さまざまな自動車ブランドが参戦し、世界中で1000台以上のクルマがレースをしている現実がある。従って、このプラットフォームを今後も継続することが何よりも最優先事項になるんだ」

 そのWSCは、世界中のさまざまなTCR認可シリーズより、2023年に向け「最高のレーストラックと、最も人気のあるチャンピオンシップから選ばれた9つのイベント」で構成される『TCRワールドツアー』を創設することを表明。

 ツアーに参加するドライバーには、これら4大陸で開催されるさまざまなレースで、通常の競技者よりも高得点のポイントが与えられる予定で、シーズン終了時のワールドツアーランキング上位15名のドライバーは、新たに開催する『TCRワールドランキング・ファイナル』に招待されるという。

 このイベントは4日間にわたってプレーオフ形式で争われ、上記15名に加えてランキング上位45位までのドライバーに参加資格が与えられる。そのファイナルで決した世界タイトルは、各ドライバー、チーム、メーカーに授与される。

「ここ数年、FIAや(シリーズプロモーターの)ディスカバリー・スポーツ・イベントと実りある協力関係を築いてきた。彼らの決定を尊重する」と語るのは、TCR規則の生みの親でもあるWSC代表のマルチェロ・ロッティ。

「我々としても、ツーリングカー競技の未来を提供するため協力し続ける準備ができている。TCRコンセプトの創設以来、WSCはエントラントやマニュファクチャラーによる大規模なコミュニティを構築してきた。これに基づき、新たな『TCRワールドツアー』と『TCRワールドランキング・ファイナル』による栄誉は、チームとドライバーに、引き続きグローバルなレベルで競技を続ける機会を与えると確信している」と続けたロッティ。

「同時にこの計画は、各地域によるリージョン選手権、そして各国の国内シリーズのプロモーターに対しても、これまで確立した協力体制をより強化するために設定されたものだ。その効果により『TCRワールドツアー』に選択されたイベントの認知度やメディア報道、雰囲気とレベルを高めることが可能になる」

「そして同ツアーが、地元のドライバーに強力な国際シリーズへの参加を促し、チャレンジする機会を与えることになるだろう。また、メーカーが自社のレーシングカスタマーとより緊密な関係を築き、ブランドに対するロイヤリティを高める契機にもなるはずだ」

2023年に向け『TCR World Tour(TCRワールドツアー)』の創設をアナウンスすると同時に、ドライバー、チームを対象とした新しい“ワールドランキングシステム”の導入も発表された
2023年に向け『TCR World Tour(TCRワールドツアー)』の創設をアナウンスすると同時に、ドライバー、チームを対象とした新しい“ワールドランキングシステム”の導入も発表された
改革の意図を語ったWSC代表のマルチェロ・ロッティ。現行のFIA ETCR eツーリングカー・ワールドカップは継続開催となる
改革の意図を語ったWSC代表のマルチェロ・ロッティ。現行のFIA ETCR eツーリングカー・ワールドカップは継続開催となる