WEC世界耐久選手権にタイヤを供給しているミシュランとグッドイヤーは、2023シーズンから始まるとされるタイヤウォーマー使用禁止に向け、準備を進めている。
この禁止措置は、タイヤを加熱することによる環境負荷をなくすために行われるものとみられており、シリーズ主催者であるFIA国際自動車連盟とACOフランス西部自動車クラブから正式に発表されたものではないものの、タイヤサプライヤーとチームはすでに2022年のうちから、この措置に向け動いてきた。
■ハイパーカーではタイヤ設計を「見直し」
現在までのWECおよびELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズにおいて、各車のタイヤは、主にガレージ後方のラックに入れられ、接続されたヒーターからの熱風によって温度を上げることで、ドライバーにスティント開始時のグリップ力を与えている。
タイヤウォーマーはIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップではシリーズ発足以来禁止されており、ミシュランはロレックス・デイトナ24時間レースにおける氷点下に近いコンディションでのタイヤ供給、そしてチームのサポートに成功した実績を持つ。
ミシュランモータースポーツの耐久レースプログラムマネージャーであるピエール・アルベスによれば、ミシュランはより低い温度で作動するためにハイパーカー用タイヤの設計を「見直す」必要があったと説明している。なお、ミシュランはGTEカテゴリーにもタイヤを供給している。
「現在の我々には充分に確立された仕様のタイヤがあり、それを(自由に)使えるウインドウで使っている」と、アルベス。
「今は、(来季に備え)タイヤをより早く作動せるために、温度が低い方へとウインドウを移動させなければならない。それは、タイヤのケーシングが異なるものになるため、別の方法が必要とされる」
アルベスによると、ミシュランが来季アップデートするハイパーカー用タイヤのテストは、これまで主にシミュレーション上で行われてきたという。
さらに、6月のル・マン24時間以降、ポルシェやフェラーリがハイパーカー開発プログラムに注力したため、GTEマニュファクチャラーとのテスト機会も尽きてしまったという。
「ル・マン前は、どのチームもル・マンに向けた作業に集中していたので、あまりチャンスはなかったのだ」と、アルベスは言う。
「だから、(ハイパーカー向けタイヤの)開発プロセスは、ル・マンの後にテストが可能なチーム、つまりプジョーから始まった。トヨタはまったくテストを行っていなかったので、残念ながら一緒にテストすることはなかった」
「新品タイヤが冷えた状態で、テストした。(レースと同じ)本当のコンディションは得られなかったが、それが現実だ。我々はそれに向かって仕事をしているし、我々のシミュレーションではそれが許容範囲にあることを示している」
「この後は、各チームのマネージメントが重要になる。なぜなら、(冷間時の)イニシャルの空気圧は、タイヤが温められた状態での標準的な空気圧とは、考え方が違うからだ」
■LMP2のグッドイヤーは仕様変更なし
WECとELMSのLMP2クラスにタイヤを供給しているグッドイヤーは、FIAやACOとの話し合いを経て、この4月からタイヤウォーマー禁止というシナリオに向け動いている。
グッドイヤーはエストリル、アラゴン、ポルティマオ、ヘレス、シルバーストンなどのサーキットで、タイヤウォーマーなしのテストを実施。アラゴンでは夜間走行が行われ、ここにはプロフェッショナルではないドライバーも参加している。
JOTA、ユナイテッド・オートスポーツ、チームWRT、アルガルベ・プロ・レーシング、ベクター・スポーツなど、いくつかのチームが新しい手順を試している。
耐久レースプログラムマネージャーのマイク・マクレガーによれば、グッドイヤーはLMP2タイヤに変更を加えず、来シーズンも「そのまま」継続する計画であるという。
「唯一考えられるのは、最低空気圧と最大キャンバー角を検討することだ」と彼は言う。
「ドライバーとチームの幅広いスキームでテストを行い、さまざまなサーキットでさまざまなデータをインプットし、エネルギー評価といったものを確かめてきた」
「最もチャレンジングなサーキットはスパになるだろう。コースの性質とスパの天候のあり方は、ドライバーがグリップレベルを得られるスピードにアップする上で、最も困難なものになるだろう」
「最終的には、我々はFIAとACOがやろうとしていることをサポートし、最善の方法を見つけようとしている」
マクレガーは、『イーグルF1スーパースポーツ』が温められることを前提に設計されているため、当初グッドイヤーはLMP2用タイヤの変更を考えていたが、来季も現行モデルのまま進めると説明した。
しかし、「各チームがセットアップやキャンバーなどに関して賢明である限り、大きなドラマはないだろう」と、彼は言う。
「来年に向けた最大の課題は、ドライバーがいつ、どれだけプッシュできるかというメンタリティーを変えること、そしてタイヤをオーバードライブさせないことだと思う」
「我々が行ったすべてのテストでは、平均して2、3周でグリップレベルはそこそこのところに達した」
「ただひとつ、ピットレーンからのスタート方法だけは考え直さなければならないかもしれない。IMSAのようなやり方にまでする必要はないが、もう少しホイールスピンさせて温度を上げられるようにした方がいいかもしれない(※現在、WECではピットボックスを離れる際のホイールスピンは禁止)」
「ドライバーのメンタリティの問題になるだろうし、タイヤの扱い方を理解するというのが1年目の大きな課題になるだろう」
■“コールドタイヤで走るアマ”に「寄り添う」とミシュラン
WECのGTEアマ・チームも同様のアプローチで、今年と同じスペックのミシュランタイヤを使用するが、タイヤウォーマーは使用できないことになる。
来季よりLMP2のプロ/アマクラスが廃止される見通しであることを考えると、GTEアマはブロンズにレーティングされるドライバーの起用が義務づけられるWEC唯一のクラスとなる。
ミシュランのアルベスは、GTEアマのドライバーはニュータイヤでのスティントをどのように始めるかについて、「異なる考え方」を採用する必要があるというマグレガーの意見に同調した。
「タイヤ(表面)は熱くなるが、空気圧がまだ適切でないために、1周目の最初には困難があることが、いくつかのレーストラックで見受けらた」
「ドライバーの視点に立ったタイヤマネジメントが、より必要になってくる」
「我々は彼らに寄り添う。我々の技術者はエンジニアやドライバーと密接に協力して、タイヤについて何をすべきか、何をしてはいけないかを説明していく」