このレース限りで現役引退を表明しているセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にとっては、F1ドライバーとして最後のグランプリ週末、そして木曜会見となる。とはいえ本人は、いつも以上にリラックスした雰囲気だった。
Q:いよいよF1ドライバーとして最後の週末を迎えます。今の気分は?
ベッテル:わからない。フェルナンド(・アロンソ)に聞くべきかもね。彼はすでに(現役引退を)経験したんだから!(笑) また(引退して)同じ経験を繰り返すかもしれないし。今の気分は、全然問題ないよ。これだけ長くレースをしていると、木曜日からの週末が完全に日課になってるしね。一方でこれから起きることを、理解するのは難しい。でも何が起こっているかはわかっているし、そのことを喜んでいるよ。
Q:明日からマシンに乗り込んだら、感情が高ぶるのでは?
ベッテル:どうだろう。いつもとは、少し違うものになるかもしれないね。今日もすでに、少し変わっているように感じるし。でもどのくらい、どのようになるかは、まだわからない。明日以降、僕を捕まえて訊いてみてよ。
Q:この17年間についてひとつだけ質問するのは、陳腐に思えます。そこをあえて尋ねますが、F1キャリアで忘れられない思い出があるとすれば何でしょうか?
ベッテル:ひとつだけ選ぶのは、フェアではないかな。1時間ではとても話し切れないし、そのつもりもない。でもそれだけたくさんの瞬間から選べるのは、本当にラッキーだったと思う。どの時期にも、ハイライトがあったと思う。(アストンマーティン移籍後の)この2年間にしても、純粋なスポーツの観点からはハイライトとは言えないかもしれない。でも、とても楽しかった。多くのことを学んだ。進歩もしたし、成長もしたし、チームと一緒に楽しい時間を過ごせたと思う。
ここで司会者は、ベッテルと数々の名勝負を繰り広げたルイス・ハミルトン(メルセデス)に振った。
Q:ルイス、セバスチャンとの長年のバトルを思い浮かべるとき、まず何が思い浮かびますか?
するとハミルトンは宙を見上げたり、ベッテルの方を見たりしながら、微笑みを浮かべつつも、しばらく無言で考えをまとめていた。
ハミルトン:セブのことを考えると……正直、当時の彼はちょっと厄介な存在だったよ!
すかさずベッテルがマイクを取って、こう話し出した。
ベッテル:君の答えに割り込んで本当に申し訳ない。でも、バクーだよね。あれは実際、素晴らしい瞬間じゃなかった。僕のしたことは、正しくなかったからね。でもあの時をきっかけに……。
ハミルトン:そう。僕たちの友情は、より良いものになったよ!
ベッテル:本当に。だからあの時のようなことは、二度と起こらないようにしたいね。
ここでバクーの一件を改めて補足すると、2017年初開催のアゼルバイジャンGPで、首位ハミルトンにベッテルが故意に追突した事件だ。ハミルトンがブレーキテストをしたと激怒しての行為だったが、のちにベッテルは「過剰反応だった」と謝罪した。
ベッテルにとってはかなりの黒歴史だが、あれをきっかけにハミルトンとの友情が深まったという。ハミルトンもそのコメントに、素直に同意した。
ハミルトン:本当にそう思う。実際には、僕たちはいつも素晴らしいバトルを繰り広げてきたわけだし。だから僕は、君は必ず戻ってくると思ってるよ。彼も(と、隣のアロンソを見ながら)カムバックしたしね。これが最後のレースだなんて言っているけど、きっと戻ってくると思う。F1には、君を再び引き寄せる力があるからね。多くのドライバーが、それを知っている。違うかな?
ベッテル:それについては、あとでふたりで話そうじゃないか。君が逃げ出したくなったら、戻ってこようかな。
ハミルトン:そうやって交互に、カムバックするわけね(笑)
Q:フェルナンド、あなたもまたベッテルと多くの素晴らしいバトルを楽しんできました。
アロンソ:来年の最初のレースで、彼がいないのは不思議な感じがする。でもあなたが言ったように、僕たちは多くのことを共有してきた。この15年間、時にはチャンピオン争いをし、時には7位争いをし、今年の日本GPでもゴールまで戦った。僕のキャリアはある意味、セバスチャンとリンクしていると言っていい。僕たちは多くの素晴らしいものを求めて、おそらく人生で最高のシーズンを共に戦ったからね。セバスチャンのキャリアに僕の名前が入ることもあれば、その逆もあるということだ。
ハミルトンとアロンソというふたりの世界チャンピオンが、ベッテルと戦った歳月を振り返り、その引退を惜しむ心情を率直に語った。そしてこの夜、全ドライバーが出席して、ベッテルの送別会が開催された。計画したのは、ハミルトンだったということだ。