もっと詳しく

 長年参戦していたスーパーGTと全日本スーパーフォーミュラ選手権を2020年シーズンをもって“卒業”し、欧州へと拠点を移したニック・キャシディ。2020-21シーズン以降はフォーミュラE世界選手権をメインに参戦し、今季はDTMドイツ・ツーリングカー選手権にもレッドブル・アルファタウリカラーをまとうAFコルセのフェラーリ488 GT3 Evoでフル参戦を開始した。

 そのキャシディが、9月11日に行われた2022年第6ラウンド、スパ・フランコルシャン戦のレース2でDTM初優勝を遂げた。

 キャシディはフォーミュラEを優先しているため、今季のDTMはポルティマオ戦とノリスリンク戦を欠場している。また、WEC世界耐久選手権のLMGTEアマクラスにもAFコルセから参戦しているが、WEC第5戦富士とバッティングしたスパの週末は、DTM出場を優先した。

 キャシディは、スパ戦前の段階ではわずか7ポイントと低迷、自身のポテンシャルが発揮できているとは言えない状況が続いていたが、スパのレース2予選では3番手を獲得。決勝でもチャンピオンを争うアウディのレネ・ラストと激しいバトルを演じてファンを沸かせた。

レネ・ラスト(チーム・アプト)とバトルを演じるキャシディ。ゼッケンは日本時代に馴染みのある『37』を使用している。
レネ・ラスト(チーム・アプト)とバトルを演じるキャシディ。ゼッケンは日本時代に馴染みのある『37』を使用している。

 念願の初優勝を達成したキャシディに、優勝後の喜びを聞いた。

■「日本のレースを恋しく思うときもある。ただ……」

──DTM初優勝を果たしたいまのお気持ちは?

ニック・キャシディ:レクサスを駆り、2019年富士でのスーパーGTとDTMのドリームレースで優勝してから今日まで、とても長く時間がかかった。あの日、富士で日独の多数のマシンが集った中での優勝はとても誇らしく、僕のキャリアの中のハイライトでもあった。だから、あの日から今日のDTM初優勝までは少し時間がかかったけど、やっとポディウムの頂点に戻って来られたことはとても嬉しく思うし、チェッカーフラッグを一番最初に受けたあの瞬間はとてもスペシャルなひとときだった。

──DTMはかなりのガチンコ勝負で、あなたも今季はその影響で何度かリタイアをせざるを得なかったこともありましたね。DTMはスーパーGTよりも激しいと感じますか?

NC:ハードさにも種類があるかな、と思う。GT500は15台、DTMは27台。ほぼ同じ性能調整をされた27台のGT3マシンが一斉にバトルするDTMでは、必然的にかなりのせめぎ合いになる。だから“ハード”という意味では、種類の違うハードさがあると感じている。

 スーパーGTで非常に強い日本人ドライバーたちと戦えたことは本当にアメイジングだったし、ヨーロッパのGTの強豪たちが集う中で毎回ガチンコ勝負を挑めるDTMもアメージング! だから僕は、スーパーGTとDTMという両方の強いトップシリーズに参戦できていることを、非常にラッキーだと思っている。

──DTMの予選では、毎回トップから22番手あたりまでが1秒以内に入るというものすごい接戦ですが、この中で勝つのは何が難しいのでしょうか?

NC:DTMの予選では前戦で勝ったドライバーもサクセスウエイトを積む必要がない。従ってものすごい僅差の予選となり、たとえ予選で5番手辺りを取れたとしてもほぼ勝ち目はないと言っても過言ではない。もちろん、プロのドライバーとしてはどんなポジションでレースをスタートしようとも、勝つことだけを目標に全力で挑んでいるが、DTMでは本当に難しい。スーパーGTとはウエイトのルールに大きく違いがあるので、ドライバーの戦い方も、ファンの見どころも違ってくるのだろう。DTMでは、スーパーGTの1位から8位圏内のバトルを毎週末戦っているようハードさを感じるよ(笑)。
(注:キャシディはスパのレース2で優勝をしているが、次戦レッドブルリンクのレース1予選ではサクセスウエイトを積む必要はない。ただし、レース1決勝では25㎏を積む必要がある)

スパのオー・ルージュ〜ラディヨンを駆け上がるDTMマシン群
スパのオー・ルージュ〜ラディヨンを駆け上がるDTMマシン群

──日本ではJ SPORTSでDTMのレースが放送されており、あなたの日本のファンも以前と変わらず応援してくれていると思いますよ。

NC:日本在住時代に数多くのファンがサーキットで僕をサポートし、応援してくれていて、そのファンがアルファタウリのフェラーリをドライブしている僕を引き続き応援してくれているなんて本当に嬉しいことだよ。このDTMのスパ戦は、ちょうどWECが富士で開催される日で、本来ならば僕もそっちに行くはずだっただけに、なぜ1週間レーススケジュールがずれてないんだ! って本当に残念でがっかりしていたところだったんだ。それだけに、サーキットで直接ファンと会えなくても、テレビ放送を通して日本のファンに優勝した姿を見せられたことは本当に嬉しかったよ。

──今季は必ずしも思いどおりのレースにはならなかったことも多かったですが、DTMはエンジョイできていますか?

NC:スーパーGTとスーパーフォーミュラをとても恋しく思うときもある。ただ、慣れ親しんだ日本を出て、フォーミュラEやDTMといった違ったフィールドでドライバーとして新たなチャレンジすることも大切で、偶然にもこの両シリーズに出場するチャンスを与えてもらえたことはとてもラッキーだったと思うし、厳しい中でもとてもエンジョイしているよ。

2022年DTM第6戦スパ・フランコルシャンのレース2で初優勝を遂げたニック・キャシディ(レッドブル・アルファタウリ・AFコルセ)
2022年DTM第6戦スパ・フランコルシャンのレース2で初優勝を遂げたニック・キャシディ(レッドブル・アルファタウリ・AFコルセ)