3年振りとなるMotoGP日本GPにワイルドカード参戦する津田拓也。津田にとって2017年第4戦スペインGPにアレックス・リンスの代役で出場して以来、2回目の実戦となるが、単に2回目という言葉では持っている重みが違うと言えるだろう。
「うれしい気持ちもあるんですけれど、寂しい気持ちも入り交じっています。チャンスが回ってきたのは、今年が最後だからというのもある。だからこそ、全力で戦いたいですね。今までは、バイクを作るのが仕事でしたし、裏方の作業をしてきました。その作業をしてきたもてぎで、どこまで走ることができるのか自分でも楽しみです」
テストライダーという仕事は、もちろん現役MotoGPライダーと同レベルの走りができることが理想だが、転倒は極力避けたい。津田自身、全力で攻めたことはないと語るだけに、今回、初めて全力で、もてぎを攻め、レーシングライダー津田として、どんな走りが見せられるか自分自身でも分からないが、いいところまで行けるのでは? と語る。
スズキがMotoGPからの撤退を5月(正式表明は7月13日)に決めた後も、精力的にテストチームは作業を続けてきたが、先日、竜洋テストコースでの最後のテストが終わった。津田は2013年からMotoGPマシンの開発ライダーとして契約し、ちょうど10年目となっていた。
「MotoGPのテストライダーを、丸々10年やらせてもらい、竜洋のテストコースから始まったので感慨深いものがありました。最初のころは、800ccのGSV-Rで練習をさせてもらったのですが、今みたいに電子制御は進んでいませんでしたし、すごくピーキーな特製だったのでビックリしました。当時、ヨシムラで走らせてもらっていましたし、1000ccはそれなりに乗ってきていたので、600ccから1000ccへの乗り換えくらいかと思っていたのですが、乗った瞬間に別物でしたし“竜洋から生きて出られるのか?”と感じたほどでした」
当時、メインの開発ライダーは、青木宣篤が担当していたが、徐々に津田にシフトしていき、2015、2016年には、津田が中心となると海外テストにも参加するようになる。マシンがGSX-RRになり、タイヤがミシュランに変わり、共通ECUにもなるなど時代の流れもあったが、マシンは戦闘力を上げていく。
「マシンもどんどんよくなっていくんですけれど、大きくコンセプトは変わっていなくて2015のデビュー以来、ひたすらいい部分を伸ばしていって今がある感じですね。2017年にテストライダーとして加わったシルバン(・ギュントーリ)とも協力し合って、いいところを磨く作業を積み重ねてきました。恐らく他のメーカーに比べれば規模も小さいですし、予算も限られているなかで工夫しながら、ブレずに続けてきた開発陣はすごいと思いますね」
MotoGP開発ライダーとして印象が残っているのは、やはり2020年のシリーズチャンピオン獲得だったと語る。開発チームにもプレッシャーとなっていたが、現場の要求に応えようという“熱量”は、経験したことがないほどのものだった。
「自分自身のレース以外で、あんなうれしいと思ったことはなかったですね。シーズンが開幕するまでコロナ禍で混乱状態でしたし、あれよあれよという間にリードを広げていき、チャンピオンが現実味を帯びてきていました」
「コロナ禍で海外に行けませんでしたし、国内テストもシーズン前半は浦本(修充)くんと手分けしていましたが、徐々に要求が高くなってきて、もてぎテストでもヘタなタイムで走れなくなっていました。会社全体にプレッシャーがかかっていましたが、要求に応えようと、みんな必死でした。あのときの“熱量”はすごかったですね」
今までGSX-RRに乗ってきたライダーもすごいと津田は言う。それをチョイスしたスズキの見る目も優れているという。
「マーベリック(・ビニャーレス)なんかMotoGPマシンに初めて乗って、2日目にはトップ10に入るタイムで走っていましたからね。いま考えてみればアレイシ(・エスパルガロ)とマーベリックのコンビは、すごかった。アンドレア(・イアンノーネ)、アレックス(・リンス)、ジョアン(・ミル)と天才的なライダーが乗ってきたからこそ、マシンも磨き上げられてきました」
そして津田が日本GPでライディングするのは“ファイナルエディション”とも言えるGSX-RRの最終仕様となる。
「今まで、みんなで磨き上げてきたマシン、みんなで頑張ってきたことを全力でぶつけたい。これが来年もあるってなると話が変わってくると思いますが、みんな最後だって分かってやりますからね。最終仕様なので、見た目に違う部分もあるので注目して欲しいですね。FP1から思い切って走ろうと思っていますし、いいところにいけるんじゃないかと。見て楽しんでもらえるレースをしたいですね」
竜洋でのテストは終わったが、まだ10月に、もてぎでテストが入っている。最後までスズキは手を緩めることはない。
「今まで応援していただいて、本当にありがたかったです。チャンピオンを獲ることができて、僕もうれしかったし、ファンにも、おめでとうと言ってもらえました。裏方で走る仕事でしたが、応援が励みになりました。スズキのMotoGPは、今年で終わりかもしれませんが、スズキとしてのレース活動は途切れることではない。これからもスズキを応援して欲しいですね」
レーシングライダー津田拓也にとって、今回の日本GPは、大きな意味を持つレースとなるだろう。10年に渡りスズキMotoGPの開発ライダーとして活動してきた集大成。磨き上げてきたマシンと仲間とともに晴れ舞台に挑む。