全国に25,000以上あると言われるバス路線。その中でも高速バスではない、県境を跨いで走る一般路線バスの数は極端に少ないのだ。実際、県境越えバスの実態はどうなっているのだろう? 乗りに行って確かめてみた!
文・写真:中山修一
乗車時期:2022年9月
関東鉄道 鹿島神宮駅→銚子駅行き
今回乗車するのは、茨城県の鹿島神宮駅と千葉県の銚子駅を結ぶ関東鉄道の路線バスだ。銚子へ向かう路線には、利根川寄りの国道124号線を軸に進む利根川線と、海寄りの県道を経由する海岸線の2種類がある。
利根川線が1日3本、海岸線が平日1日7本・土日祝3本の設定で、日曜日に鹿島神宮駅14:25発の海岸線を利用した。
観光に利用しやすい昼間の便と見せかけて、実は日曜ダイヤの銚子行きはこれが最終バス。途中下車すると後々面倒くさいことになるので、半ば強制的に「通しで乗りっぱ」だ。
水戸方面から来る14:17着の鹿島臨海鉄道線を利用すると、最もスムーズにバスへの乗り換えができる。JR鹿島線を使う場合、佐原発12:17・鹿島神宮12:38着が繋がる。
観光名所の鹿島神宮と、高台から鰐川を一望できる鹿島城跡が徒歩圏内にあり、早めに現地入りして見て回るのも楽しい。
鹿島神宮駅南口バスロータリーの3番乗り場から銚子行きバスが発着している。乗り場には上家(屋根)が建てられていて雨天の際も安心だ。
1番乗り場には東京行きの高速バス「かしま号」のバス車両が次々と入線、20分おきくらいに発車していく。銚子行き路線バスのノンビリしたダイヤとは空気感がまるで違う。
やや慌ただしい出発
14:22、車体横と後ろ一面にレンタカー店の広告ラッピングを施した、関東鉄道のバス車両が駅ロータリーに近づいてきた。潮来営業所に所属の2012年式いすゞエルガミオ、ワンステップ車だ。
バスが入線してドアが開くのが23分頃。発車まで実質2分程度しか猶予がなく、ちょっと忙しいかもしれない。後ろのドアから乗るスタイルで、交通系ICカードが使える。鹿島神宮駅では4名ほどが乗車した。
定刻通りの14:25にバスは出発。ロータリーを出て国道51号線を少し進んですぐに脇道へそれ、鹿島神宮の入口近くをかすめるようにしながら住宅地を南下していく。途中の停留所でコンスタントに乗客を拾い、11人くらいまで増えた。
7kmほど進んだところで鉄道の踏切を渡る。一時停止なしでそのまま突っ切るため反射的に戸惑ってしまいそうだが、踏切信号が設置されているため、青なら一時停止は省略可能なわけだ。
この泉川新道踏切は鹿島臨海鉄道鹿島臨港線のもので、日曜日を除き1日3往復のコンテナ貨物列車が設定されている。踏切が閉まるタイミングでここを通るのはレア体験と言える。
乗客の乗り降りは特にないまま約12km。バスは県道から国道124号線に出て、じわじわと海の方向へ進んでいく。割と狭い道を通ってきたせいか、片側2車線の国道に出ると極端に景色が広く見えるものだ。
ぐりぐり曲がる複雑な経路
6kmほど国道を走ったのち、知手(しって)南部団地西交差点を左に曲がり、また脇道へとそれる。この付近から路地を駆使して「コ」や「ロ」の字を描くような、非常にトリッキーな経路を辿り始める。
短いながらも急激な上り坂や、行き違いが難しい幅の道を通る区間が盛り込まれ、公共交通機関の経路として見ると、車窓からの風景が趣味的にオイシイというか、ある種の妖艶さすら覚えてしまう。
そういった複雑なルートになっているのは需要があるからこそだろう。鹿島神宮駅から銚子駅まで停留所の数は89箇所。団地・住宅地を縫うように進むのを基軸に、温泉施設や交流施設、病院、診療所、学校など、利用者が見込める場所をくまなくカバーしている。
実際、降りていくお客さんもこの複雑なルート圏内が多く、次第にまた出発時点の少人数に戻った。
鹿島神宮駅から約20km地点の、知手入口〜植松間の約12kmは自由乗降区間になっている。停留所に拘らず、申告すればどこでも乗り降りが可能だ。乗車当日に希望者は乗降ともいなかった。
「海岸線」ではあるけれど
路線名から察するに、海沿いをずっと進む印象がある。実際のところどうかと言えば、海に近い道でも海岸線から900m程度離れており、車窓から海はほとんど見えない。
水のある風景が登場するのは終点の銚子駅が近づいてきた頃。対岸まで距離があり、なかなか迫力ある景色が楽しめるため間違えても仕方ないが、見えるのは海ではなく利根川である。
茨城県側の突端を大きく迂回するようにバスは進み、しばらく利根川沿いを走ると路地へと曲がり、再び登場する国道124号線の銚子大橋で利根川を渡る。いよいよ県境越えだ。
県境越えバスのお約束?
茨城県と千葉県の県境は利根川になっている。銚子大橋の千葉県寄りに県境を示す標識が立っており、そこを過ぎれば茨城県のバス会社の車両が隣県へと乗り入れる待望の瞬間だ。
県境を越えるバスによくあるスタイルとして、他県に入ってすぐ終点、というのが挙げられる。実は銚子大橋から銚子駅までの距離は1.2kmくらいしかなく、関東鉄道の鹿島神宮駅〜銚子駅行き路線もその例の一つ、というわけだ。
千葉県入りして約5分、バスは16:15に銚子駅降車専用バス停に到着した。前側のドアから降車、鹿島神宮からの運賃は1,430円だ。
合計3名が銚子駅まで利用、うち通しで乗ったのは2名。ただしゲスト乗客はノーカウントの法則を適用すると、県境を跨いでバスを使ったのは「ゼロ」だったと思われる。
バスが遅れなかった場合、この先の銚子から東京方面には、最短で16:38発のJR特急列車「しおさい」または16:25発の千葉交通高速バス「利根ライナー号」に連絡可能だ。
もちろん、せっかく銚子まで来たのだから、トンボ返りせず魚くらい食べていきたいと考えるのも大いにアリだ。
【バス路線の基本データ】
関東鉄道 鹿島神宮駅→銚子駅行き
・跨ぐ県:茨城県→千葉県
・移動距離:約49km
・所要時間:1時間50分
・運賃:1,430円
・停留所の数:89カ所
・千葉県内の区間距離:約1.2km
・千葉県内の停留所の数:3カ所
投稿 じつは激レア!! 県境超えの路線バスの実態とは? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。