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レッドブルのバジェットキャップ違反の原因はエイドリアン・ニューウェイ?

 FIAは2021年のバジェットキャップ(チームの活動・開発資金制限)規則に3チームが違反していたと昨年のF1使用金額調査の結果を発表した。その3チームの中にレッドブルが入っていたおり、ちょっと大事になりそうな気配。レッドブルのバジェットキャップ違反とはどういうものなのか、元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。

文/津川哲夫
写真/Redbull,Mercedes,Ferrari,Aston Martin,Haas

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 違反した3チームとはアストンマーチンとウィリアムズ、そしてレッドブル

 ウィリアムズとアストンマーチンは提出書類の手続き上の違反であって、現実的なオーバースペンド(予算越え)ではなかった。問題となったのはレッドブルだった。レッドブルは手続き上の違反に加えて、規定予算越えがあったと言う。FIA はこれをマイナー・オーバースペンド、つまり5%以下の規定予算超過があったとしている。

 メルセデスのトト・ウルフは“レッドブルの予算超過は既成の事実と捕らえられている”と語っていた。結果的に事実であったことがFIAの発表で証明されたこととなった。しかしレッドブルともあろうチームが何故このような失態に至ったのかが大きな疑問だ。多くは開発資金と考えるのが普通だが、噂では実はテクニカル・チーフのエイドリアン・ニューウェイの高額な給料が問題になっていると言う。

ウィリアムズとアストンマーチンは手続き上の違反であった

控除されるはずのニューウェイの高額な給料が問題になっている?

 そもそもバジェットキャップではチーム内トップ3人の高給取り分の金額は控除される。それがレッドブルの場合、ニューウェイ、ホーナーそしてヘルムート・マルコの3人などではないかと考えられる。その中でも最も高給取りがニューウェイだ。しかしここでFIAはレッドブルの申告の問題点を突いたようだ。監査の結果、ニューウェイは彼の個人会社との契約であり、あくまでも外部の会社で簡単に言えば外注として扱われるらしい。こうなると当然控除の対象にはならず、バジェットキャップの対象に組み込まれてしまう。

  エイドリアン・ニューウェイの契約額については我々は知るよしもないが、日本円換算で年間6億円とも7億円とも言われている。もちろん現状を考えれば決して高い額ではなく、メジャーリーガーやプレミアリーグ・フットボーラー達の契約と比べれば、あるいはトップドライバーの契約金を考えれば決して異様な高額ではない。むしろ彼の現在と実績を考えれば、かなりの低価格といえる。それでも年間6億ともなれば、バジェットキャップ下のF1チームの1億4千5百万ドル(現在レートで約215億円前後)上限とされる中ではかなりの余裕をつくることができる。

チーム内トップ3人の高給取り分の金額は控除される

 またこれはもしもニューウェイの問題だけだったらの話で、他の案件もあるのなら、これはバジェットキャップを守る他チームにとっては腹の立つ問題だ。“0.1秒1億5千万円”と語るライバルチーム。それが本当ならレッドブルは0.5秒のアドバンテージをオーバーバジェットで手に入れたと言われともしかたのないことだ。

今回の問題はレッドブルの甘い計算による不手際であったことは間違いない

  これは規則違反であり何らかのペナルティーは致し方ない。そしてここからが最も大きな問題点だ。一体どんなペナルティーを課するのか?

 あり得ないのが罰金だ。罰金で済むなら潤沢な資金を有するトップクラスのチームは皆バジェットキャップを無視して開発を行ってしまうだろう。罰金さえ払えば良いのだから。例えばPUの使用条件と照らし合わせればわかりやすい。PUの4基目以降はグリッドペナルティーさえ払えばOKだから、事実上何基使っても良いのだ。

まさか、2021年チャンピオンシップの剥奪?

 では、2021年チャンピオンシップの剥奪も? マイナー違反というカテゴリーを設けている以上ここに最大級のペナルティーを科すのは難しい。もちろんレッドブルの追放はF1的にあり得ない。

 となると最終的な落とし所は、今シーズンあるいは来シーズンのバジェットキャップ上限の縮小、レッドブルのバジェットキャップの上限を下げてこれを厳しく制限すること……ぐらいだろうか?

 現在FIAがペナルティーの判断に頭を抱えているのが良くわかる。

 監査結果の発表も予定より遅れ、どういうスタイルで発表するのかに悩み、現在はその違反へのペナルティーに悩んでいる。甘くすれば収集がつかなくなり、重くし過ぎれば違反のカテゴリーを謳ったことを突かれ、あいまいに済ませればバジェットキャップの監督・監査の正確性が揺らぐ……。

 さらに今回の違反を声高に騒ぐトップチーム群も攻めすぎは危ないはずだ。

 昨年から続くFIAへの不信感、今必至にその払拭を果たそうと取り組んではいるがいよいよここがFIAの権威を守る正念場、さて、いかなる判断がくだされるか、お手並み拝見と行こう。

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津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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