F1第6戦スペインGP以来、13戦ぶりにポイントを獲得した。レース後、角田裕毅(アルファタウリ)は56周を戦い抜いた疲労感を心地よさそうに感じてメディアの取材に応対していた。
「やっと(ポイントが)獲れて、よかったです。特に昨日(ディートリッヒ・)マテシッツさんが亡くなったので、少しでも恩返ししようと思っていたので、それができてよかったです」
しかしレース前、角田はこの日、ポイントを獲るのは難しいと感じていた。それは予選後にギヤボックスに問題があることが判明したため、レースに向けて新しいギヤボックスと交換していたからだ。今シーズンの角田はすでに年間使用基数の上限である4基のギヤボックスを使用しており、5基目を投入したために19番手からのスタートとなった。
「ロングランのペースもそこまで自信を持っていなかったので、正直、今日のレースは厳しいかなと思っていました」と言う角田だったが、スタート直後の1コーナーでカルロス・サインツ(フェラーリ)がジョージ・ラッセル(メルセデス)に追突されてスピンして、その後方の集団が混乱したために、チャンスが訪れる。
「ほぼ全コーナーでオーバーテイクした」と言う角田は、1周目に14番手までポジションを上げることに成功。一気に入賞のチャンスが訪れた。
その後も「スタートで履いたミディアムタイヤのペースがよかった」と、5周目にダニエル・リカルド(マクラーレン)をパスして13番手にポジションを上げ、ポイント争いに加わっていく。
しかし、1回目のセーフティーカー後の再スタートで、チームメイトのピエール・ガスリーに引っかかってしまう。ところが、ここでチームからチームオーダーが出る。
「あそこはチームオーダーが出されて、『(ガスリーの後ろで)ステイしろ』と言われていました」
このとき、角田は1回目のピットストップを終えて、相性のいい新品のミディアムタイヤを履き、ガスリーは中古のハードタイヤだった。しかも、ガスリーにはセーフティカーラン中の車間距離違反で5秒のタイムペナルティが科せられており、角田のほうが優先されるべき状況だった。
それでも角田は「少しフラストレーションを感じていたんですけど、落ち着いて、その後のレース運びができたのはよかったと思います」と、2回目のピットインでガスリーの前に出ると、15番手から再びポイントを目指した戦いをスタートさせる。
ところが、最後のスティントで履いたハードタイヤに苦しむ。
「ハードに苦しんでいたので、(オーバーテイクするのは)簡単ではないと覚悟していましたが、あそこまで苦しむとは思っていませんでした」(角田)
それでも、角田は粘り強い走りで着実にポジションを上げ、残り3周の54周目にアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)をオーバーテイクして入賞圏内となる10番手に浮上した。
レース後、そのアルボンとミックスゾーンで出会った角田はアルボンに「あそこで僕をスピンさせるようなことをしたら、タダじゃおかなかったよ」と冗談を言って、お互いの健闘を讃えあっていた。
この日、角田がここまで粘り強くレースできたのは、土曜日に亡くなったレッドブル・グループの創業者のひとりであるディートリッヒ・マテシッツの存在があった。
「昨日マテシッツさんが亡くなったので、少しでも恩返しをしようという思いで走りました」
マテシッツもレッドブルのコンストラクターズ選手権奪還とともに、19番手から10位入賞を果たした若き角田の走りに目を細めていたに違いない。