1970年代から1990年代にかけて「上級エンジン」の代名詞だった直列6気筒。2000年代以降はV6、さらにダウンサイジングで直4などに置き換えられて一気に数を減らした。しかし今、新開発直6エンジンが登場するなど新たな価値が見出されている。その最新事情に迫る!
※本稿は2022年10月のものです
文/ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年11月10日号
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■いま、世界的に再び熱を帯び始めている直列6気筒エンジンへの回帰
ふた昔前なら、高級エンジンの代名詞として、自動車メーカーが威信をかけて開発し、上級モデルやスポーツモデルに搭載していた「直列6気筒エンジン」。
国内メーカーではトヨタ、日産には複数の直6エンジンシリーズがラインナップしていた。クラウンもセドリックも1960年代から直6エンジンが上級モデルに搭載されていた。スカイラインにグロリア用の直6エンジンを搭載した「GT」が登場したのは1964年だ。
海外ではBMWが有名だが、もちろんベンツにも直6エンジンはあったし、ジャガーにだって直6エンジンがあった。
しかし、1980年代中盤以降、6気筒エンジンの主流はV型6気筒となり、2000年代以降になると、ダウンサイジング化の機運から、6気筒エンジンは数を減らし、直列4気筒エンジンが主流となってきた。
今やクラウンだって直4エンジンを搭載する時代だ。
その一方で、2018年、ベンツが先代型Sクラスに新開発の直列6気筒エンジンを搭載。
マツダも最新のCX-60に直列6気筒エンジンを新開発して搭載するなど、直6エンジンが新たに開発される動きが世界的にみられる。
今なぜ直6エンジンが見直されてきたのか? そして最新直6エンジンはどんなものなのか? クルマ好きにとっては特別な存在ともいえる直6エンジンの最新事情を掘り下げていくぞ!
■そもそも「なぜ」直列6気筒エンジンなのか?
エンジンはトルクを大きくするために排気量を大きくしたい。しかし、1気筒当たりの排気量には限界がある。
シリンダー内径(ボア)とストロークで排気量は決まるのだが、自動車用エンジンということを考慮すれば、搭載スペースなどからも、やたらと内径を大きくすることもできないし、ストロークにも限界がある。
もちろん、燃焼効率は重要な設計要因だ。基本的にシングルプラグである程度の高回転での運転が求められる。
船舶用エンジンや工業用エンジンのように一定速での運転ではなく、エンジン回転数の上下幅も大きいのが自動車用エンジンだ。
これらの要件がバランスよくまとまるのが、ガソリンエンジンでは1気筒当たり400~500ccとされる。
例えばボア×ストロークが86.0×86.0mmのスクエア比で499.5cc。4気筒ならば1998ccとなり、6気筒にすれば2997ccとなる。
■6気筒は直列? それともV型? どっちがいい?
直4と直6は基本的なエンジン構造が同じだ。直4エンジンのブロックを延長し、2気筒分付け足せば直列6気筒が完成する。
実際、このようなモジュラー設計思想で、直4と直6を総括的に設計したエンジンシリーズは一般的だ。
では、6気筒のもう一つの代表的レイアウトのV型はどうだろう。
V6最大のメリットは全長を短くできることだ。片バンク3気筒なので、直4エンジンよりも全長を短くすることができる。
そのため、横置きFFへの搭載が可能となる。全長が長い直6は、横置き搭載が難しい。一時期ボルボに横置き直6があったが、全幅の大きな車両にしか搭載できず、搭載車が拡大することはなかった。
また、V6は縦置きFRでも全長が短いことでボンネット内に余裕ができる。厳しくなった衝突安全性に対し、クラッシャブルゾーンの確保、全長の長い直6エンジンが前突時に運転席車室内への侵入などで苦しいのに対しV6は有利とされたのだ。
ベンツが1997年に直6エンジンをV6に置き換えた際、大きな理由としてこれを挙げた。
ただし、V6はシリンダーブロックが2つ、ヘッド周りの動弁系もそれぞれ2系統を必要とする。
一方直6ならば1つで済むし、前述のように量産車に搭載する直4エンジンの部品を共用できるため、コスト的にも有利となるのだ。
■完全バランスで滑らかなエンジンフィーリング
といった話もさておき、“シルキー6”などとBMWの直6エンジンが表現されるように、直6は回転振動を感じさせないスムーズな吹け上がりが大きな魅力。
物理的な説明は長くなるので割愛するが、慣性力の不釣り合いに起因する振動が発生しないため、滑らかで上質なドライブフィールが味わえる。これが、クルマ好きを魅了する最大の理由だろう。
しかし一方でデメリットも少なくないのが直6だ。
全長が長いということは、クランクシャフトが長いため、ピストンの爆発力を回転力に変換する際の捻じれ剛性がより大きく求められる。
また、特に中央2気筒の冷却が難しく、安定した燃焼コントロールが難しくなるといったデメリットもある。
■あえて現代に直6を新開発したベンツ・マツダの「なぜ」
全長を理由に直6を廃したベンツが、あえて現代に直6を新開発したのは興味深い。
S500などに搭載される直6「M256型」の全長はわずか533mmで、従来の直6に対して110mm程度短くなっている。
各シリンダー間の隔壁距離が、従来の18mmから7mmへと薄くできたことで全長を短くできた。同時に車体側でも衝突安全ボディの技術が進化し、前突時の安全確保が可能になったという側面もある。
またベンツの場合、この3L直6エンジンには電動スーパーチャージャーとターボが組み合わされる。
さらに排ガス対応で大型の粒子状物質フィルター(GPF)がエキパイ直後に置かれることでエンジンルームのスペースが補器で埋まることになる。
横幅の大きいV型では、これらを収めるスペースが取れないのだ。幅の狭い直列エンジンで、これら補器のスペースを確保しているという理由もある。
マツダがCX-60で新たに搭載した直列6気筒エンジンも、基本的にはベンツの考え方と同様だ。
3.3Lと大きめの排気量とすることで、トルクの余裕を燃費向上に割り振るというコンセプト。
そのため6気筒化が必須となり、直列を選択した、ということだ。直4シリーズとモジュール設計をして、効率よく直6を実現させた。官能性よりも燃費や排ガス対応のための直6というのが、現代の直6エンジンなのだ。
■乗ってどうなの? 最新直6エンジンミニミニインプレ
マツダが新開発直6エンジンを投入した一方で、従来直6エンジンを搭載していたトヨタ、日産に直6エンジンはない。
スープラRZは直6だが、これはBMWのB58B30B型エンジンだ。
そのBMWは連綿と直6エンジンを主力とし続けている。ベンツがV6に移行した際も直6を作り続け、それがBMWのアイデンティティともなっている。
それだけに、現在M240iやM340i、Z4M40iなどに搭載される2997cc直6ターボは昔ながらの直6の魅力を存分に感じさせる官能的な吹け上がりが味わえる。
387ps、51.0kgmというパワーも充分で、まさに伝統的シルキー6の味わい。
このエンジンがスープラRZにも搭載されている。トヨタ独自の制御マップでも、この官能性は不変である。
これをさらにパワフルかつ官能的に引き上げたのがM3やM4などに搭載されるS58B30A型だ。
吹け上がりのビート感は他のエンジンでは味わえない。510ps/66.3kgmのパワーは過激ですらある。
ベンツのM256型はこのような官能性を感じさせるパワーユニットではない。
ただ、車重2トンを超えるSクラスの車体を重さを感じさせずにスルスルと走らせる動力性能は、マイルドハイブリッド(ISG)のモーターと電動スーパーチャージャー&ターボを組み合わせたパワーマネージメントのたまもの。
そしてマツダの直6だ。3.3Lのディーゼルターボでマイルドハイブリッド(モーターレス仕様もある)。トルコンレスの8速ATが組み合わされる。
ディーゼルということでレッドゾーンは5000rpm。1500回転以下からしっかりとトルクが立ち上がり、2500~3000rpmあたりがトルクレスポンスに優れ、ドライバビリティの高さを実感できるゾーン。
4000rpm以上まで回す場面はあまりない。
高回転まで回さないエンジンなので、直6ならではの吹け上がりやビート感を感じることはないのだが、低回転でも感じる振動のないスムーズな回転フィールは上質だ。
結論。現在の直6エンジン、いずれも魅力的なんです!
【番外コラム01】直6の未来展望 ランドローバーも直6を新開発
ランドローバーがレンジローバースポーツに搭載する3Lの直6(ディーゼル、ガソリン)を新開発。基本的なコンセプトはベンツと同様で、4.5~5L級のV8エンジンをダウンサイズする狙い。今後、特に厳しくなる排ガス規制や燃費への対応に、直列6気筒エンジンには新たな可能性が大だ!
【番外コラム02】日本の直6搭載名車列伝
排気量を拡大し、高回転までスムーズに回し、高出力を得るための方策として多気筒化は必然の流れだった。1960年代にはトヨタや日産、プリンス自動車は直列6気筒エンジンを開発しており、クラウンやセドリック、グロリアなどの高級セダンから搭載を始めた。
当時の直6はSOHCでカウンターフローというのがスタンダード。トヨタ2000GTはDOHCを採用して高性能をアピール。この時代は直6でも2000ccだった。
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